日本では人が亡くなった際、火葬することで故人を弔います。
その普及率はなんと99%以上。火葬するのは当たり前だと思っている人も多いのではないでしょうか。
実は、世界には火葬がそこまで主流ではない国や宗派があるのです。
また、現在さまざま生活様式が変わり、世界における埋葬方法も変化しています。
多様化する世界の埋葬方法を解説します。
もくじ
世界の埋葬⽅法を解説
世界で主流の埋葬方法は土葬と火葬の2つです。ちなみに日本は火葬率99%以上で世界1位の普及率。
欧米でも火葬文化はありますが、火葬後の遺骨の状態が異なります。日本は遺骨そのものを、欧米は粉骨した遺灰を重視します。
しかし世界は広く、古来より埋葬の方法は民族・宗教によって多種多様。また現代において、埋葬方法もさまざま変化をしています。
アメリカの埋葬⽅法は「土葬」が主流だった
アメリカはキリスト教信者が多い国です。キリスト教といっても、さまざまな宗派があり、宗派ごとに違いもありますが、多くは「土葬」で死者を弔います。
キリスト教では死後に復活すると考えられており、遺体を火葬してしまうと肉体が消滅してしまい、生き返ることができないとされているからです。
しかし近年、火葬をおこなう人が徐々に増えています。そして、2019年末に広がった新型コロナウイルス。世界的に多くの死者がでました。
アメリカでも多くの方が亡くなり、コロナパンデミック初期には埋葬がおいつかず、葬儀場の敷地内に棺が山積みにされるという異常事態に陥りました。
そのため、遺体を自宅で保管しなくてはならない人もでてきて、社会問題にまで発展。そして、受け入れの限界を超えたことで、一気に火葬へと切り替える業者が増加しました。
またソーシャルディスタンスで葬儀もできない状態だったため、自宅での保管がができる「遺灰」にすること、火葬で弔うことが宗教問題を抱えた遺族以外の多くの人々に受け入れられたのでしょう。
NFDA(NationalFuneralDirectorsAssociation)による予測では、2020年の全米における埋葬率は約37%、火葬率は56%、2025年には埋葬率31%・火葬率63%になると見られています。
NFDA/全米葬儀ディレクター協会:49カ国の葬儀業社が加盟する非営利団体。
欧⽶(ヨーロッパ諸国)の埋葬⽅法
イギリスの火葬率は2018年の時点で約81%。最近のイギリスでは自然葬による散骨を希望する人が増加し、火葬を希望する人の79%もの人が望んでいます。
ヨーロッパ諸国では、地球環境に優しい埋葬方法の研究が盛んです。
フランスは土葬文化。1000年にわたってローマ・カソリックを信仰してきた歴史があるからです。
フランスの火葬率は約37%で、ヨーロッパの中ではもっとも低い数字です。しかし火葬を希望する人は63%にものぼり、パートナーにも56%の人が望んでいることが最近の調査でわかりました。
また、葬式なしの火葬のみの希望者は36%となっています。2030年までに、フランスでの火葬は半数となると予測される研究結果も。
l’AssociationFrançaised’InformationFunéraire/
北欧における火葬率です。
- スウェーデン:約82%
- ノルウェー :約43%
- フィンランド:約53%
- デンマーク :約84%、
- アイスランド:約42%
TheCremationSociety/2018年国際火葬率統計9
北欧のゲルマン民族はキリスト教以前までは、火葬が主流でした。現在、北欧でもっとも多いのがキリスト教プロテスタントの一つ、ルター派(ルーテル教会)です。
キリスト教の終末論を重んじる信者が多いノルウェーでは、他の北欧の国々と比べるとアイスランドに並んで火葬率は低いですが、人口から見た場合、ノルウェーの方が低いことがわかります。
スウェーデンでは国民の64%もの人がルーテル教会に属しており、そして火葬率は82%と、北欧一の高い数字です。
中国の埋葬⽅法
元々は土葬が主でありましたが、中国政府による火葬推進によってその比率がかわりつつあります。
上海では、海に散骨したひとに対して2,000元(約3万1千円)が支給されます。
2019年度の中国における火葬率は50%を超えました。しかしコロナの影響で2020年の数字はさらに高くなることが推察されます。
- 2014年:4,593,000件
- 2019年:5,227,000件
- 葬儀場:約1700件
- 火葬場:6400件
statista社の調査による中国における火葬件数/2020年発表
今も昔も中国の基本にあるのは孝の儒教倫理で、中国の家族構成の思想基盤で儒学の核心的概念です。
孝とは父系血縁性を重視し、親孝行・葬送・先祖祭祀、後継は男子であり、男子嗣子がないことは親不孝であるとされています。
現在の中国でもっとも多く信仰されているのが神教で、中国政府によって支持されている宗教です。
神教とは、五行・陰陽・太極、自然神や英雄といった神話や中国各地に昔からあった先祖崇拝などの信仰体系を集めてつくられたものです。その中には儒教や道教の教えも取り入れられています。また神教と同じ割合で無宗教の人も多くいることで、火葬への抵抗感が薄いと考えられます。
韓国の埋葬⽅法
短期間で火葬率が急増している国です。現在、韓国国内における火葬率は8割であり、2023年には92%に達するという研究結果がでています。
2017年1月 摂南大学田中悟准教授 国際協力論集24(2)99-113
韓国の国民の半数はクリスチャンです。
儒教の教えが基本となっている韓国の生活に溶け込み、共存共栄しています。儒教では人は死後、魂(こん:天に昇る)と魄(はく:地に還る魂)にわかれるという死生観があり、魄とは肉体を司る魂とされることから身体に傷をつける行為は禁忌とされ、火葬が禁じられています。それは肉体の復活というキリスト教の死生観と合致します。
近年まで土葬が多かった理由は、儒教を厳格に守る国民性とその半数がクリスチャンであるからです。
新しい技術の埋葬方法
科学技術の発展と、自然保護の考えから、さらに今、埋葬方法は新しい時代に入ろうとしています。その代表的な方法をご紹介します。
アルカリ加水分解(液体火葬/粉骨)
次世代火葬ともいわれています。水95%・アルカリ化合物5%を160℃に加熱した溶液に4~6時間、遺体を入れて分解。
最後は骨だけどなり、手で押しただけで粉々になります。遺族には粉骨した遺骨をわたします。
火を使わないことから環境破壊にならない方法として、アメリカ・イギリス・カナダなどの先進国、またはその一部地域ではすでに合法化されています。
この方法は40年以上も前から、動物や献体の処理法として用いられています。しかし葬送に用いることへの反発の声が高く、普及の兆しは今の所、見えてはいません。
葬儀場ではアクアメイションとの名前で知られ、今の所、亡くなったペットを骨にする際に用いられており、ペットの供養としては需要を伸ばしています。
プロメッション
人の体を有機質の土壌に替える生態学的埋葬方法。グリーン・フューネラル(緑の埋葬法)とも呼ばれています。
スウェーデンのプロメッサ社が提供する新たな埋葬方法で、遺体をフリーズドライにした後、超音波で粉砕した上で生分解性の棺(箱)にいれ墓地や土に埋めます。
そうすると、半年から一年で有機質の土壌へと替わります。有害な病原菌は除去されるので、安全です。
リーコンポーズ/堆肥化
土に還すという点においては、プロメッションと同じです。
亡骸を余す事なく堆肥にする試みが、アメリカ・ワシントン州でおこなわれています。リーコンポーズ社が研究開発を行なっている、従来の葬送にとって替わるエコロジーな方法で世界中から注目を集めています。
土の中でバクテリアによって自然分解されるためには、長い時間を要します。
しかし効率よくさせることで、人の身体を1ヶ月で堆肥に変えることが可能となるのです。
堆肥材料ともいえる木製チップと高温を好む微生物とバクテリアを、ハニカム構造(蜂の巣)の容器の中に遺体とともにいれます。さらに安全な堆肥にするために、55℃の温度で有害となる伝染性の病原菌などを死滅させます。
CO2排出量も火葬の際の1/8にしか過ぎません。
ワシントン州は全米でもっとも火葬が行われている州(75%)であり、地球環境に高い関心を持つ割合も全米一といわれています。
ワシントン州はアメリカで唯一、遺体の堆肥化を合法としました。2020年11月より予約が始まります。費用は$5,500(59万円前後)。
まとめ|国や宗派、環境によって埋葬⽅法は異なる
埋葬方法は宗教の影響によることがわかりました。そのため、世界によって大きく変わります。また技術の発展や環境面への配慮から、さまざまな埋葬方法もでてきています。
埋葬方法も社会とともに変化しているのです。今後もさまざまな埋葬方法がでてくることでしょう。どんな弔い方でも、死者の尊厳を大事にし、心を込めて弔うことが大切です。