
葬儀は突然訪れるものであり、遺族にとって精神的にも経済的にも大きな負担となります。景気が悪く物価高が続く中で注目されているのが「葬儀の生前予約」です。
生前予約には経済的な負担を軽減するなど、さまざまなメリットがあり、終活の一環として行う人が増えています。しかし、生前予約にはメリットだけでなくデメリットもあります。
葬儀の生前予約について、定義から具体的な流れ、メリット・デメリット、費用まで詳しく解説します。
もくじ
葬儀の生前予約とは?

葬儀の生前予約とは、自身が存命中に葬儀の内容や費用を事前に決めておくことです。具体的には、利用する葬儀社や葬儀場、葬儀の規模や形式、料理などを自分自身で事前に決定し、契約を結びます。
生前予約は主に「自分の希望に沿った葬儀を実現したい」「遺族の精神的・経済的負担を軽減したい」「葬儀費用の管理と安定化を図りたい」という目的で行われます。
なお、生前予約では、葬儀の日時を指定することはできません。あくまでも、葬儀が必要になった際に、予約した内容に沿って葬儀を執り行うことを約束するものとして契約を結びます。
葬儀の生前予約をするメリット

生前予約には多くのメリットがあります。生前予約の主なメリットをご紹介します。
ご遺族の負担を軽減できる
生前予約の最大のメリットは、遺族の負担を大幅に軽減できることです。遺族のどのような負担が軽減できるのか解説します。
精神的負担 | 突然の訃報に接した遺族は、悲しみに暮れる中で葬儀の準備を進める必要があるが、生前予約が行われている場合、葬儀の段取りや内容について悩む必要がなく、故人との別れに集中できる。葬儀の内容について遺族間で意見が分かれることも少なくなる。 |
経済的負担 | 葬儀費用が事前に決まっているため、突然の高額出費に悩むことが少なくなる。費用を前払いしておくことも可能なため、遺族の経済的負担を大幅に減らせる。 |
時間的負担 | 葬儀社や葬儀場の選定、葬儀内容の決定などの時間を大幅に減らせる。急いで決めることがないため、冷静な判断ができるように。 |
希望する葬儀を実現できる
葬儀の内容は、基本的には遺族によって決められますが、生前予約を行うことで自分の希望に沿った葬儀を細かく計画できます。
生前予約で決められること | |
葬儀の形式や規模 | 一般葬、家族葬、直葬など、希望する形式を選べる。また、参列者の規模も自由に決められる。 |
葬儀場所 | 自宅、寺院、葬儀会館など、希望する場所を選択できる。 |
葬儀の内容 | 祭壇の種類や装飾、使用する棺、供花などを細かく指定できる。読経や音楽、映像上映など、式の進行についても希望を伝えられる。 |
料理や返礼品 | 精進落としの料理内容や返礼品の種類も事前に決められる。 |
宗教・宗派への配慮 | 特定の宗教や宗派に沿った葬儀を希望する場合、その旨を事前に伝えられるので、宗教・宗派に配慮した葬儀を実現できる。 |
費用の管理と安心感
人の死は突然訪れるため、遺族は突然に高額な葬儀費用を負担しなければなりません。葬儀の生前予約を行うことで、遺族の経済的な不安を解消することが可能です。
費用の明確化 | 事前に葬儀費用の総額が分かるため、予算管理がしやすくなる。何にいくらかかるのか、内訳も明確に。 |
費用の固定化 | 物価の上昇や急な追加費用に悩まされることが少なくなる。前払いの場合、将来の葬儀費用を現在の価格で確定できる。 |
計画的な資金準備 | 葬儀費用を計画的に準備できるため、突然の出費に悩むことがなくなる。前払いや分割払いなどの選択肢もあり、無理のない支払い方法を選べる。 |
経済的な安心感 | 葬儀費用が確保されている安心感が得られる。自身も遺族に経済的な負担をかけない安心を得られる。 |
葬儀の生前予約のデメリットと注意点

生前予約には多くのメリットがありますが、同時にいくつかのデメリットや注意点も存在します。葬儀の生前予約におけるデメリットと注意点をご紹介します。
葬儀社の倒産リスク
生前予約の最大のリスクのひとつが、契約した葬儀社の倒産です。
予約から葬儀の実施まで、何十年も時間が空く可能性は誰にでもあります。たった数年でも社会の経済状況は大きく変わっているため、葬儀社の経営状況が悪化し、倒産する可能性は十分にあります。
葬儀社が倒産すると、生前予約で支払った費用は返金されないことが多いです。ただし、きちんと対策を行うことで倒産のリスクをある程度は避けることができます。
倒産のリスク対策として確認するべきポイントをご紹介します。
- 葬儀社の経営年数や実績
- 前払い金の管理方法(信託契約の有無など)
- 倒産時の対応策(他社への引き継ぎ体制など)
とくに重要なのは倒産時の対応についてです。生前予約は、長期的な契約になること葬儀社自体も把握していることなので、万が一の際に合った対応をある程度は決めているケースがあります。
そのため、生前予約を行う際は、契約前に「もしも事業が終了する際は、どのような対応をする予定ですか?」としっかり確認してください。とくに対応を決めていない葬儀社は、一度契約を保留にすることをおすすめします。
また、複数の葬儀社で比較をして、より契約プランや倒産時の対応策で自分にふさわしい業者を選びましょう。
家族とのトラブル
生前予約の内容が家族の意向と合わない場合、トラブルの原因となる可能性があります。
例えば、葬儀の規模や形式について、家族が異なる意見を持っている場合があるとトラブルになりやすいです。よくあるケースだと、本人は少人数で静かにお別れができる家族葬や直葬を希望している一方で、家族は大規模で派手な葬儀を希望しているなどです。
ほかにも、費用面で家族が不満を感じたり、宗教や習慣の違いにより予約内容に反対するケースもあります。
家族とトラブルにならないためには。生前予約の内容を家族とよく話し合い、理解を得ておくことが大切です。
生前予約を行う際は、家族の意見も取り入れながら、柔軟に内容を決めていくことをおすすめします。必要に応じて、葬儀社の担当者を交えて話し合いの場を設けることもおすすめです、
追加費用の発生
葬儀が執り行われる際に、生前予約で決めた内容以外に、追加の費用が発生する可能性があります。
追加費用が発生する可能性のあるケース |
・著しい物価の上昇が起きた場合 ・参列者の数が予想の範疇を大きく超える場合(返礼品や食事の数が増えるため) ・予約時に想定していなかったサービスや物品が必要になる場合 |
把握していない費用を請求されて、遺族の負担を大きくしないために、まずはどのような場合に費用が追加で発生するのか、事前に葬儀社に確認しましょう。
以下の点は必ず確認してください。
- 追加費用が発生する可能性のある項目
- 追加費用の見積もり方法
- 追加費用の支払い時期や方法
追加費用の支払い方法や負担者についても、あらかじめ決めておきましょう。
おひとりさまの生前契約

単身者や身寄りのない方は、生前予約で予め自分の葬儀について決めておくことをおすすめします。
単身者特有のメリット |
・確実に葬儀を実施できる ・自分の希望通りの葬儀を実現できる ・知人や遠縁の親族に負担をかけずに済む |
身寄りのない単身者が亡くなると、戸籍を辿って親族を探します。もしも知人や、遠縁の親族が見つかった場合、葬儀の実施や費用の負担はその人が行わなければなりません。
知人や親族がいなかった場合、自治体によって葬儀の手配が行われるため、希望通りの内容で実施することができなくなります。
しかし、生前予約を行っていれば、単身者特有のデメリットを回避して、希望通りの葬儀を実施できるようになります。
生前契約を進める際は、以下のポイントを抑えて契約しましょう。
- 葬儀社との連絡方法を明確にする(緊急連絡先の登録など)
- 死後事務委任契約を結び、葬儀以外の手続きも依頼する
- エンディングノートなどに、生前予約の内容や葬儀社の連絡先を記載する
なお、定期的に葬儀社と連絡を取り、契約内容の確認や更新を行ってください。財産管理や相続に関する準備も並行して行うこともおすすめです。
生前予約の費用と支払い方法

生前予約の費用や支払い方法は、葬儀社によって異なります。そのため、複数の葬儀社を比較することをおすすめします。
もしも生前予約を行う場合、費用はどのくらいかかり、どのように支払うのか、一般的な目安と支払い方法について解説します。
一般的な費用の目安
生前予約の費用は、葬儀の規模や内容によって大きく異なります。また、地域やオプションサービスの追加によっても変わります。
一般葬、家族葬、直葬それぞれの一般的な費用目安と内訳をご紹介します。
一般葬
一般葬の平均的な費用は約90〜190万円です。
内訳 | |
施設使用料(式場、安置室など) | 約10〜30万円 |
祭壇費用 | 約20〜80万円 |
お棺費用 | 約3〜30万円 |
車両費用 | 約5〜15万円 |
返礼品・香典返し | 約2,500〜4,500円/人 |
飲食接待費 | 約2,000〜5,000円/人 |
宗教者への費用(必要な場合) | 約20〜30万円 |
家族葬
家族葬の平均的な費用は約20~150万円です。
内訳 | |
施設使用料(式場、安置室など) | 約10万円~ |
祭壇費用 | 約10万円~ |
お棺費用 | 約3〜30万円 |
車両費用 | 約5〜15万円 |
返礼品・香典返し | 約2,500〜4,500円/人 |
飲食接待費 | 約2,000〜5,000円/人 |
宗教者への費用(必要な場合) | 約20〜30万円 |
家族葬は一般葬よりも規模が小さいため、各項目の費用が抑えられます。とくに参列者の数によって変動する費用(返礼品、飲食接待費など)が大幅に減少します。
直葬
直葬の平均的な費用は約30〜50万円程度です。
内訳 | |
火葬料 | 公営:約0〜6万円民営:約3〜20万円 |
お棺費用 | 3〜30万円 |
車両費用 | 2〜4万円 |
火葬と最小限の儀式のみを行うため、ほかの葬儀と比較すると低コストとなっています。
支払い方法の種類
生前予約の費用支払い方法は主に3種類ほどあります。それぞれの特徴とメリット・デメリットを簡単にご紹介します。
特徴 | メリット | デメリット | |
一括払い | 契約時に全額を支払う。 | 将来の物価上昇の影響を受けにくい。 | まとまった資金が必要。葬儀社の倒産リスクがある。 |
分割払い | 月々の積立や定期的な支払いで費用を準備する方法。 | 無理のない支払いができる。 | 長期の契約になるため、途中解約時に不利になる場合がある。 |
葬儀保険 | 保険会社と契約し、保険金で葬儀費用を賄う方法。 | 月々の支払いが比較的少額で済む。 | 保険の掛け金総額が葬儀費用を上回る可能性がある。 |
予約金(申込金)のみ | 少額の予約金のみを支払い、残りは葬儀実施時に支払う。 | 初期の負担が少ない。 | 将来の費用上昇リスクがある。遺族の負担が大きくなる。 |
支払い方法を選択する際は、自身の経済状況や将来の見通しを考慮し、最適な方法を選びましょう。また、契約内容や解約条件をよく確認することも忘れないようにしましょう。
葬儀の生前予約の流れ

葬儀の生前予約を行う際の一般的な流れをご紹介します。
1. 情報収集・葬儀社の選定
まずは、インターネットや書籍、葬儀社のパンフレットなどで基本的な情報を収集します。知人や家族から、葬儀社の評判や体験談を聞くことも有効です。
情報を集めて、複数の葬儀社を比較検討し、より自分自身に合ったプランを選びましょう。
比較ポイント |
・葬儀社の実績と信頼性 ・提供されるプランの内容と費用 ・アフターサービスの充実度 ・前払い金の管理方法(信託契約の有無など) ・倒産時の対応策 |
可能であれば、葬儀社の見学や事前相談を行い、担当者と直接話してみることをおすすめします。対応の丁寧さや説明の分かりやすさなども、選定の重要な基準となるためしっかり確認しましょう。
2. 事前相談・見積もり
選定した葬儀社に事前相談を申し込み、具体的な内容を詰めていきます。
事前相談の際は、希望する葬儀の内容(形式、規模、場所など)や予算を伝え、葬儀社から見積もりを出してもらいましょう。
見積もりには以下の項目が含まれているか確認してください。
- 基本プランの内容と費用
- オプションサービスの内容と費用
- 追加で発生する可能性のある費用
- 支払い方法や時期
不明な点や疑問点があれば、遠慮せずに葬儀社に質問します。複数回の相談を重ねて、納得のいく内容にしていきましょう。
なお、事前相談や見積もりは、候補に挙がった複数の葬儀社で行い、より自身に合う内容か比較することをおすすめします。
3. 生前予約・契約
見積もり内容に納得したら、生前予約の申し込みを行います。契約書の内容をよく確認し、署名・捺印します。
契約書で確認すること |
・契約内容(葬儀の形式、規模、場所など) ・費用の総額と内訳 ・支払い方法(一括払い、分割払いなど)と時期 ・解約条件 ・葬儀社の倒産時の対応 |
契約書は細かな部分までよく確認を行い、不明点があれば必ず契約前に解決してください。契約後は契約書のコピーを受け取り、大切に保管しましょう。
4. 葬儀内容の決定
契約後、葬儀の具体的な内容を決定していきます。葬儀の日時や場所については、実際に葬儀が必要になった時点で決定するため、生前予約では内容のみを決めていきます。
生前予約で決める内容 |
・葬儀の形式(一般葬、家族葬、直葬など) ・宗教 ・宗派に関する希望 ・祭壇の種類や装飾 ・棺の種類 ・供花の種類や量 ・料理の内容や量 ・返礼品の種類 |
後に追加費用などが発生しないよう、葬儀の内容はできるだけ具体的に決めておきます。
遺影写真や故人の略歴などの資料を準備しておくと、葬儀をよりスムーズに執り行えます。
読経や音楽、映像上映など、式の進行についての希望も具体的に決めておきましょう。
5. 情報の共有
生前予約が完了したら、決めた内容を家族や親族と共有しましょう。
情報を共有しないと、生前予約をしたことすら知らずに他の葬儀社に依頼をしてしまう、家族と意見が割れてトラブルになってしまうなどのリスクが生じます。
そのため、必ず生前予約の内容を家族や親族に伝え、理解を得ておきまましょう家族の意見も聞き、必要に応じて予約内容を調整することも検討してください。
情報を共有する際は、エンディングノートなどに葬儀社の連絡先や契約内容などを記載しておくとスムーズに伝えやすいです。いざというときにも役立つので、エンディングノートは積極的に活用することをおすすめします。
定期的に家族と予約内容を確認し、必要に応じて更新することもおすすめです。
6. 葬儀の実施
実際に葬儀が必要になった時の流れをご紹介します。
- 逝去後、故人が生前予約をした葬儀社に連絡する
- 葬儀社が生前予約の内容に基づいて葬儀の準備・進行を行う
- 葬儀後、残りの費用がある場合は支払いを行う
逝去後の手続きは、生前予約を契約した本人が行うことはできません。そのため、生前予約の事実や内容、お願いしている葬儀社の連絡先を家族に予めきちんと伝えておきましょう。
家族や親族がいない場合や、負担をかけたくない場合などは、「死後事務委任契約」を結んでおくことも検討してください。死後事務委任契約を結ぶことで、葬儀だけでなく、死後の諸手続きも専門家に任せることができます。
まとめ

葬儀の生前予約は、自分の希望に沿った葬儀を実現し、遺族の負担を軽減するための有効な手段です。
主なメリットとして、遺族の精神的・経済的負担の軽減、希望する葬儀の実現、費用の管理と安心感が挙げられます。
一方で、葬儀社の倒産リスク、家族とのトラブル、追加費用の発生といったデメリットや注意点もあります。デメリットによるリスクを最小限に抑えるためには、信頼できる葬儀社を選ぶこと、家族と十分にコミュニケーションを取ること、契約内容を慎重に確認することが重要です。
生前予約を検討する際は、自身の状況や希望をよく考え、家族とも相談しながら決定してください。また、定期的に予約内容を見直し、必要に応じて更新することも大切です。
葬儀の生前予約は、人生の最後を自分らしく締めくくるためのひとつの選択肢です。終活の一環として、生前予約を検討してみてはいかがでしょうか。