「お骨上げ」とは、火葬後に遺骨を骨壷に納める儀式のことです。「骨上げ(こつあげ)」や「収骨/拾骨(しゅうこつ)」とも呼ばれます。最近でこそキリスト教圏でも埋葬地減少の問題で火葬を行うところも増えてきましたが、世界から見れば少数派です。
火葬といってもそのしきたりには大きな違いが見られまが、その最たるものが骨上げと言っても良いでしょう。二人一組でおこなう箸渡しは世界を見てもありません。
また、日本国内においても地域によって違いがあります。東日本の人が西日本の骨上げに初めて立ち会ったなら、多くの人は戸惑うことでしょう。その逆もまた然りです。
葬儀の最後を締めくくる大切な儀式を粛々と執り行えるように、骨上げのしきたりやマナーなどの知識を身につけておきましょう。
お骨上げの意味や由来、基本的なマナーを解説します。
もくじ
お骨上げを行う意味と由来を解説
日本での火葬の歴史は古く、奈良時代に仏教の伝来とともに一部上流階級の人々の間に取り入れられました。最たるは持統天皇です。天皇で初めて荼毘に付されました。
神道一辺倒であったところに仏教の火葬が取り入れられたことは大きなことでした。それ以降、徳川家綱公の時代・後光明天皇まで41人もの天皇が荼毘に付されます。
800年もの時をかけて火葬は日本の風土に溶け込み、儀式化されていきました。骨上げに関する歴史と意味を解説します。
骨上げは火葬後にご遺骨を骨壷に納める儀式
火葬は葬儀の最後の儀式です。「収骨/拾骨(しゅうこつ)」とも言います。遺族や縁深かった人たちの手によって、一つひとつ丁寧に骨を拾い上げて骨壷に納めていく儀式は日本独自のスタイルです。
例えばお隣の国・韓国、そして中国でも火葬した遺骨を骨壷に納めるのは同じですが、遺骨を骨壷に納めるのは家族ではありません。火葬場の係員が骨壷に納めてから、遺族に渡します。
一方インドの場合は、火葬した後は聖なるガンジス川に遺灰等を流して自然に還します。
宗教観の違いによって、火葬のスタイルも様々です。
骨上げの際に分骨を希望する方もいます。その場合は慌てなくてもいいように、あらかじめ葬儀会社もしくは火葬場に連絡して分骨用の骨壷を用意しておきます。分骨した遺骨には分骨証明書が必要になります。あわせて手続きをしておきましょう。
骨上げを行う意味は「あの世への橋渡し」
骨を拾い上げる際は、長さの違う箸を使います。
多くは菜箸のように長い物を用いますが、地域によっては割り箸ほどの長さのとこもあります。これらの箸を用いて骨を拾い上げることを、箸渡しと言います。
人はなくなると三途の川を渡るといわれています。
箸渡しにはこの世から極楽浄土へと、故人の魂の橋渡しをするとの意味が込められているのです。死者であってもみんなでサポートする。小さな島国で助け合って生きてきた、歴史と風土が生み出したものかもしれません。
そして箸に橋をかけたのは、古来より和歌などの手法にも見られる同音異義語を活用する、日本独自の文化です。
子どもの頃、食事中に箸の使い方で叱られた経験はありませんか?中でもこっぴどく叱られるのが箸渡し。合わせ箸とも拾い箸とも呼ばれます。箸同士で食べ物を渡し合うさまが骨上げを想起させ、忌み嫌われているのです。
また、器の上に箸を置く渡し箸。こちらは満腹を示す意味でありますが、場合によっては三途の川をも想起させます。箸の作法に見られる禁忌は、日本に根付いている死生観が関係しているのです。
お骨上げの基本的マナーについて解説
箸渡しにも様々なしきたりがあります。
骨上げ箸と呼ばれる、左右の長さ・素材が異なる長い箸が使われますが、これも日本古来からある死生観に基づいた逆さごとからきているといわれています。
「生者が使う箸は左右長さがそろった物。」
「死者の衣の衿合わせは生者とは逆。」
このように生と死を明確に区切り、日常に死が入り込むのを忌み嫌ってきました。
箸渡しが二人一組で行われるのも、非日常的な行為をすることで区別しているともいわれています。
さてこの二人一組による骨上げですが、基本男女一組で行われますが、昨今では性別にこだわらなかったり、一人で行われるところもあります。
とは言え、まだまだ古きしきたりを重んじる地域もあり、昔ながらのしきたりだったとしても、焦ることはありません。
その場にいる誰もが不慣れで当たり前なのです。
また、二人がそれぞれの箸で骨を拾い上げるのは確かに難しいことです。途中で落とすこともあるでしょう。しかし全く気にすることはありません。
大事なのは、今ともに在る人たちと心一つに故人を極楽浄土へ橋渡ししてあげることです。
もしもの時は、係員がすっとそばに来てフォローしてくれます。間違った骨を拾い上げないためにも、指示を待ちましょう。
骨上げのマナーを解説します。
骨上げは故人と縁が深い人から行う
骨上げには順番があり、喪主から始まります。まずは喪主と次に近い血縁者のペア、そして血縁の濃い順です。
- 喪主
- ご遺族
- 親族
- 友人
自分が一番最後でペアになる人がいなかった場合は、一度終えた人が再び組む習わしです。
係員がさりげなく指示を出してくれたり、しきたりに明るい年長者がフォローしてくれたりすることもあります。
骨上げの際のアクシデントは慌てず指示を待つのが一番です。最後は再び喪主に箸が渡され、喉仏、そして頭骨を骨壷に納めて終了です。
ご遺骨は足から腕・腰・背骨と下から上に
故人が立つように、足から順番に骨壷に納めてゆきますが、ここでも地域によって納め方が異なります。
<例>
A:足→腕→腰→背中→肋骨→歯→頭→喉仏
B:足→腕→腰→背中→肋骨→歯→喉仏→頭
もしも喪主を務めることになった場合、どちらかわからなくても大丈夫です。骨を拾い上げる順番も係員の方がそっと指し示してくれます。
地域による違い、東日本は全収骨・西日本は部分収骨
骨上げの作法は地域によって異なります。前述の骨壷に納める順番もそうですが、何より大きく異なるのは納める遺骨の量です。
東日本の人が西日本の葬儀に初めて参列し、骨上げにも立ち会ったとします。ほとんどの人が驚き、中には憤慨する人もいるでしょう。
なぜならば、東日本での火葬は収骨台に残った灰も含めて全部拾骨しますが、西日本は少量ずつ必要な骨を拾い上げるだけの部分拾骨です。残った遺骨と灰は火葬場に任せることがほとんどで、敷地内にある共同供養塔などに納められます。
だから東西では骨壷の大きさも違うのです。
骨壷は、実は9種類ものサイズがあり、部分拾骨を採る西日本でのサイズは3~5寸が主流です。
東日本では一般的には7寸(直径約21cm・高さ約25cm)が用いられ、身長が180cmを超える人には8寸が用いられます。
サイズに幅があるのは、西日本では喉仏だけを別に納める地域があるからです。
また九州と沖縄、愛知県や静岡県などの一部地域では全部拾骨するところもあります。
東西で食や文化風習が大きく異なるのは周知の事実。だからこそ、その土地の特性が火葬を含めた葬儀の作法にも反映しているとも言えます。
全部拾骨であろうが部分拾骨であろうが、弔う気持ちに違いはありません。
骨上げ後のご遺骨は喪主が持ち帰る
最後の箸渡しが終わると、火葬場の係員が骨壷を納めた箱を白い布に包んで渡してくれます。そこには納骨の際に必要な埋葬許可証が入っています。辛くとも確認して、決して紛失しないように保管してください。
さて、利用する火葬場と地域性によっては心付けが必要になることもあります。
その場合の相場は3,000円~5,000円ですが、昨今では必要がないところも増えています。
あらかじめ、葬儀会社もしくは火葬場の担当者に相談されることをおすすめします。
真っ白な布に包まれた箱は喪主が両手で持ち、遺族が位牌と遺影を抱えて我が家へと戻ります。
まとめ|骨上げは故人をこの世からあの世へ渡すための大切な儀式
古来より日本人は、生を終えた人と残された人たちとの間を区切り儀式化することで、死を忌み嫌いつつも尊厳してきた歴史を持ちます。
そして、たやすいことではありませんがご遺族の皆さまが心を切り替えて日常に戻るためにも、今も昔も欠かせない大切な儀式なのです。
それはこの先も絶えることのない、受け継がれていくものでもあります。骨上げの儀式は残された者たちに「生きるとは?死とは何か?」ということをありのままの姿をもって教えてくれる場でもあると言えるでしょう。