「お坊さん」と聞くと、「お葬式」というイメージしかない方も多いのではないでしょうか?
しかし、お坊さんの活動はお葬式の場だけではありません。
鐘つきや境内の清掃、朝のお勤めや法話会などなかなか忙しい日々を送っています。そして、近年はユニークな活動をされているお坊さんも増えてきました。
今回ご紹介するのは、福岡県八女市の僧侶であり、漫画家としてもご活躍されている「光澤 裕顕(みつざわ ひろあき)」さんです。
現代社会で起こりがちな悩みを、ブッダの言葉で解決に導く『生きるのがつらいときに読むブッダの言葉』を執筆・販売しています。そして、「フリースタイルな僧侶たち」というグループに所属し、仏教をより多くの人に広める活動も行っています。
光澤さんに、本を出版した想いや仏教に対する考え方をインタビューしました!
もくじ
光澤裕顕さんのプロフィール
まずは光澤裕顕さんのプロフィールを簡単にご紹介します。
僧侶であり漫画家でもある
光澤さんは、福岡県八女市のお寺に入寺した真宗大谷派の僧侶です。現在は、京都の本山でお勤めを行うかたわら、漫画やイラスト、文章等の執筆を行っています。
京都精華大学で美術(専門はマンガ)を学び、卒業後、大谷大学短期大学部で科目等履修生として2年間仏教を勉強し、僧侶として生きる道を進みます。
2021年の2月に初めての著書となる『生きるのがつらいときに読むブッダの言葉』を出版しました。
著書『生きるのがつらいときに読むブッダの言葉』|現代の悩みを仏教で解決!?
『生きるのがつらいときに読むブッダの言葉』は、現代社会で起こりがちな問題に対して、ブッダの言葉を交えながらどう捉えたら良いのかを漫画と文書で解説する本です。
主人公である新米僧侶の「唯」がブッダの直弟子と名乗るお寺の護り手「猫坊主」とともに、さまざまな問題や悩みに直面しながら、ブッダの教えを学び成長していくストーリー。
ブッダの言葉、仏教と聞くと「難しい」「昔の考えだ」と近寄りがたいイメージもあるかもしれません。
しかし、この本では、「SNSとの付き合いかた」や「職場の人間関係」など、だれもが一度は悩んだことがある問題をテーマにしています。
問題が起きてから解決するまでを絶妙なタッチのイラストで表現していて、思わず引き込まれるストーリーです。宗教家としての観点で書かれた解説は、含蓄があるだけでなく、現代人の心にすとんと落ちてくる適度なカジュアルさを含んでいます。
下記、目次を紹介します。
生きるのがつらいときに読む ブッダの言葉 【目次】 はじめに ■10分で何となくわかるブッダの生涯 ■第1章 他人のSNS投稿が気になる(三毒) ■第2章 職場の人間関係がつらすぎる(善き友) ■第3章 努力が全然認められない(八正道) ■第4章 「運命の人」に出会えない(縁) ■第5章 「自分らしさ」がわからない(諸法無我) ■第6章 死ぬのが怖い(生老病死) おわりに |
「フリースタイルな僧侶たち」って?
光澤さんは「フリースタイルな僧侶たち」という団体にも所属しています。
「”お坊さん=お葬式”というイメージを脱却したい」
「仏教の持つ豊かな可能性に出会っていただきたい」
この2つを活動スローガンに掲げ、仏教に関心のある方々の交流の場づくりを積極的におこなっています。主な活動は、フリーマガジン『フリースタイルな僧侶たち』の創刊。創刊から10周年を迎え、檀家さんだけでなく多くの方々から愛読されています。
既成概念にとらわれることなく、宗派を超えた若いお坊さんが集まりさまざまな角度から仏教を捉え、まさに「フリースタイル」な僧侶だといえるでしょう。
光澤裕顕さんへインタビュー
【編】
光澤さんは、僧侶としてだけでなく、漫画家としてもご活躍されているのですね。
もともとは僧侶になるつもりではなく、漫画家を目指していたと伺いました。そこから、「やっぱり僧侶になろう!」と決意されたご理由を教えてください。
私は、新潟県長岡市のお寺に生まれたのですが、小さいころから絵を描くのが大好きで、本気でマンガ家を目指していたんです。
精華大学を卒業後、大谷大学短期大学部で科目等履修生として2年間、仏教を勉強しました。短大で初めて仏教について一から学んで、大きな驚きがありました。
恥ずかしながら、私はお寺の生まれでしたが、あまり仏教について学んでこなかったんですね。
それまで、仏教って格式とか葬式とかのイメージだったのですが、それは仏教においてほんの一部でしかないとわかったんです。
【編】
どのようなイメージに変わったのでしょうか?
もともと、私は仏教とは何か「一方的に答えを与えられて盲目的にそれ信じる」という漠然としたイメージがあったんです。たぶん世間の方が考えている宗教のイメージがこれだと思うんですけれども・・・。
仏教への向き合い方を変えた、講師の言葉
講師の先生から教わった印象的な言葉があります。
「仏教には私たちの悩みに対しての答えがある。しかし、私たちはその答えを引き出すための問がわからないのだ。だから仏教への問い方を学んでいくのだ。」
仏教を学ぶことで、今まで私が抱いていたイメージは全く違うのものなのだと感じました。むしろ、「問いを持て」「疑問を持て」「学び続け考えることをやめるな」と。
私は自分の偏見でしか仏教を見ておらず、その偏見を正しいモノだと思い込んで思考停止状態になっていたのです。結局、「何も信じない」というスタンスは間違いだらけの自分を盲目的に信じている生きたなんだと、ハッとさせられましたね。
あとは、単純に仏教って面白いなって思いました。いろいろなストーリーやドラマ、個性豊かな登場人物が存在していて、魅力的な世界観があるんですよ!芸術的にみても仏像とかお寺の建物とか素晴らしいですよね!
この両面から僧侶として生きて、仏教を学び続けることも悪くないって思うようになりました。
「生きづらさ」を和らげる仏教の教えをわかりやすく届けたい
【編】
そうだったのですね。仏教に感じるドラマ性、興味がわきました!
次は、著書『生きるのがつらいときに読むブッダの言葉』を書こうと思ったきっかけを教えてください。
直接のきっかけは担当編集者の方が企画され、その執筆者としてお声がけいただいたことです。
企画のお話を伺いまして、マンガと解説文で仏教を生きづらさを感じている現代の方へ届けるという趣旨がまさに私のやりたいこととピッタリと一致していましてので、「お受けいたします」と即答いたしました。
やっぱり、マンガのスキルを活かしたいと思っておりましたし、なかなか仏教の魅力を伝えられないという歯がゆさもありましたので、現時点での自分の全てを出し切ろうと、そんな思いでしたね。
タイミングもばっちりでした。
今回は全て描き下ろしだったのですが、精華大学卒業後もコツコツとマンガを描き続けていましたし、仏教についても自分なりに伝えたいことの蓄積ができてきた時期でしたので、マンガの技術と仏教への思いと両面で「今ならできる!」っていう気持ちもありました。まさに「機が円熟して」ということですね。
「生きづらさ」を感じている方に仏教に触れてほしかった
【編】
僧侶をしながら小さい頃からの夢を叶えたんですね!
本書を通じて読者に感じとってほしい事はありますか?
まずは、「生きづらさ」を感じている方の心を少しでも和らげられたら、ということですね。
ただし、それは私が心を和らげるということではなく、みんなで一緒に仏教を勉強しながら苦しいことに向き合っていこう!、ということです。
私もまた「生きづらさ」を感じる人間で仏教を学びながら「生きづらい」世の中を生きるすべを探している一人です。
その中で、仏教はしっかりと日常生活でも指針になるんだ、という実感があり、それを表現したかったということもあります。
前述のとおり、葬式の簡素化や葬式離れの影響もあり、仏教が社会で果たす新たな役割、その具体的な回答が求められていると思います。
仏教の価値観をわかりやすい言葉で現代に伝えたい
仏教界は仏教を数字とか世の中の物差しに当てはめることを避ける傾向があると思うんですね。なんていうんでしょうか、説明を嫌い言葉にはできないことを尊ぶ空気感ですかね。みなさんも経験があるのではないでしょうか。お坊さんに何か尋ねても、専門用語ばかりでピンとこなかったり、何だかんだ難しい理屈ではぐらかされた気がしたり。
もちろん仏教が世俗的な価値観とは異なった価値観(立ち位置)を持っていることは非常に重要なことです。しかし、世間はシビアです。今までは葬儀が仏教の存在価値をある種説明する場になっていましたが、それが少なくなってしまうと日ごろから仏教に馴染みのない人にとっては「仏教は不要なコンテンツ」となってしまう。
だから、仏教の持つ価値観をあえて見える(解りやすい)かたちにして共有していくことが非常に大切になってくると思うんです。
【編】
私自身もそうですが、「若者の宗教離れ」はありそうですね・・・。
たくさんの面白いコンテンツが溢れる現代、仏教の価値観が面白い!と気付くキッカケになりそうです。
では、本書はどんな人に読んでほしいですか?
まずは本のタイトルにあるように、今現在「生きるのがつらい」と感じている方に手に取っていただきたいですね。あとは、仏教に少しでも関心を持っておられる方々。私の漫画やイラストを見て、ちょっとでも興味を持ってくれた方。
そして、私の事をなんとなく気に食わないと思っておられる方でしょうか(笑)。私の思いや考えを少しでも知ってもらい、真っ向から意見を聞かせていただきたいです。
【編】
何千年たって今なお残り続けるブッダの言葉。どの時代でも通じるその深意を感じ取っていただけるといいですね!
最後に、今後の展開や思い描くことなど、教えていただけますか?
まずは本の出版で自分の夢が一つ具体的な形となったことを非常に有難く思っています。これまで本当にたくさんの方々に教わり支えていただきました。これからはちょっとずつそのお返しをしていきたいです。
具体的にはこれまでと変わらず実直に学び、手を合わせ、腕を磨き続けたいと思います。もちろん機会があればもっと表現の幅を広げていきたいとは思いますが、それは毎日の積み重ねの先にあるものです。驕らずのぼせず、感謝を忘れない、そうして励み続けていくことこそ自分を先に導いてくれると思っています。
葬儀のデスクより
何千年もの間紡がれ続けてきたブッダの言葉。多くの人がなにかを得たからこそ今なお残り続けているのでしょう。
SNSとの付き合いかたや人間関係、捉え方次第で自分らしく生きやすくなるのかも知れません。少しでもご興味を持たれた方は、『生きるのがつらいときに読むブッダの言葉』を手にとってみて一度自分を見つめ直してみるのも良いのではないでしょうか?
光澤裕顕さん、貴重なお話しを聞かせてくださり、ありがとうございました!