
故人を生前の姿に近づけるエンバーミングには、さまざまなメリットがあります。一方でデメリットも多く、状況を総合的に判断して、慎重に検討する必要があります。
そして、エンバーミングの費用は、基本的に葬儀自体の料金には含まれません。つまり、エンバーミングを施す場合は、葬儀費用に上乗せされるということです。
では、エンバーミングの費用相場はどのくらいなのでしょうか?費用相場と料金を抑えるポイントについて、メリット・デメリットとともに解説します。
もくじ
エンバーミングとは

エンバーミングは、ご遺体の防腐処理や修復を行う技術です。エンバーマーと呼ばれる専門家がご遺体に特殊な薬剤を注入し、消毒や防腐処理を施します。
エンバーミングを施すことにより、ご遺体の腐敗を遅らせ、長期保存を可能にします。
例えば、海外で亡くなった方のご遺体を日本に搬送する場合、多くの国では防腐処理が義務付けられています。また、大規模な社葬など、準備に時間がかかる葬儀の場合にも、エンバーミングが選択されることがあります。
エンバーミングは、遺族が故人との最後のお別れを穏やかに迎えられるよう支援する重要な技術です。しかし、エンバーミングの必要性や適切さは、個々の状況や価値観によって異なるため、慎重に検討する必要があります。
エンバーミングの費用相場

エンバーミングの費用は、処置の内容や地域によって異なります。エンバーミングの一般的な費用相場と内訳についてご紹介します。
基本料金の内訳
エンバーミングの基本料金の相場は、約15~25万円程度です。エンバーミングの主な内訳をご紹介します。
薬剤費 | 防腐剤 | 約3〜5万円 |
消毒剤 | 約1〜2万円 | |
技術料 | 基本処置 | 約7〜10万円 |
整容 | 約2〜5万円 | |
その他 | 設備使用料 | 約2〜3万円 |
なお、エンバーミングの費用は地域によって差が生じる場合があります。例えば、都市部では施設維持費などが高くなるため、地方よりも若干高めの料金設定になることがあります。
地域による費用の違い | |
東京都心部 | 約20〜30万円 |
地方都市 | 約15〜25万円 |
また、エンバーミングを行う葬儀社の規模や実績によっても料金が変動する可能性があります。
大手の葬儀社では設備が整っている反面、料金が高めになる傾向です。一方、地域密着型の中小葬儀社では、比較的リーズナブルな価格で提供している場合もあります。
追加オプションと料金
基本的なエンバーミング処置に加えて、追加オプションを選択することができます。
主な追加オプションと料金をご紹介します。
オプション | 料金 |
特殊修復(損傷が大きい場合の修復) | 約5〜20万円程度(部位、規模による) |
メイクアップ(特殊メイク) | 約3〜10万円程度 |
長期保存処置 | 約5〜15万円程度(期間による) |
陸路搬送 | 1kmあたり100〜200円 |
航空搬送 | 基本料金約30〜50万円 + 航空運賃 |
エンバーミングの追加オプションは、ご遺体の状態や希望する仕上がりによって選択します。ただし、追加オプションを選択すると、全体の費用が大幅に増加する可能性があるため、慎重に検討しましょう。
エンバーミングの費用を抑えるポイント

エンバーミングは高額になりがちですが、費用をある程度まで抑えることは可能です。エンバーミングの扶養を抑えるポイントについて、まとめてご紹介します。
見積もりを複数とる | 葬儀社によって料金設定が異なるため、複数の業者から見積もりを取ることで、最適な価格を見つけられる。 |
パッケージプランを利用する | エンバーミングと葬儀をセットにしたパッケージプランを選択すると、全体的な費用を抑えられる場合がある。 |
追加オプションは最小限に | 追加オプションは費用増加の主な要因となるため、本当に必要なものだけを選択する。 |
地域の業者を検討する | 大手葬儀社に比べて、地域密着型の中小葬儀社の方が比較的リーズナブルな価格設定の場合がある。ただし、技術力や設備の質を確認することも忘れずに。 |
搬送費込みのプランを選ぶ | ご遺体の搬送費用が別途かかる場合があるため、搬送費込みのプランを選ぶことで全体の費用を抑えられる。 |
葬儀保険や互助会を利用する | 葬儀保険や互助会に入会している場合は、エンバーミングの費用も補償対象になることがある。 |
公的補助を確認する | 市区町村によっては、葬儀費用の補助制度が実施されている。エンバーミングが補助対象になるかどうかは確認する価値はある。 |
エンバーミングはさまざまな方法で、費用を抑えられます。ただし、費用だけでなく、サービスの質や信頼性も重要な選択基準であることを忘れずに、総合的に判断しましょう。
エンバーミングのメリット

ご遺体にエンバーミングを施すことで、どのようなメリットがあるのかご紹介します。
ご遺体の長期保存・衛生管理
エンバーミングはご遺体の腐敗を抑え、長期保存を可能にします。通常、ご遺体は時間の経過とともに変化していきますが、エンバーミング処置を施すことで、腐敗の進行を最小限に抑えられます。
具体的なメリットとしては、葬儀までの時間的余裕が生まれることです。
通常、ご遺体は24時間以内に冷蔵保存する必要がありますが、エンバーミングを施すことで、1週間から2週間程度の保存が可能に。長期保存が可能になることで、葬儀の準備や遠方からの参列者の到着を待つ時間的余裕が生まれます。
また、エンバーミングの過程で使用される薬剤には消毒効果があり、ご遺体からの感染症リスクを大幅に低減することができます。
生前の姿に近い状態でのご安置
エンバーミングの大きな特徴のひとつが、病気や事故などで損傷を受けたご遺体を、生前の姿に近い状態に修復できることです。
専門的な技術と特殊な薬剤を用いて、生前に近い自然な肌色を再現できます。また、皮膚の質感も改善され、より自然な印象を与えることも可能です。
さらに、特殊メイクなどによって傷や腫れを軽減できます。顔の筋肉を適切に処置することで、穏やかな表情を作り出すことも。
精神的なケア
損傷の激しいご遺体でも、エンバーミングによって故人の安らかな表情を見ることができ、心穏やかにお別れを迎えられるようになります。
とくに、事故や長期の闘病で故人の姿が大きく変わってしまった場合、エンバーミングによって生前の面影を取り戻すことで、遺族の精神的負担を軽減することができるでしょう。
エンバーミングのデメリット

エンバーミングには多くのメリットがある一方で、デメリットも複数存在します。そのため、メリットとデメリットをしっかり把握して、慎重に検討しなければなりません。
エンバーミングのデメリットについてご紹介します。
費用が高額になる
エンバーミングは、専門的な技術や特殊な薬剤を用いるため、費用が高額になりやすいです。基本料金だけでも15~25万円程度かかり、追加オプションを選択するとさらに費用が増加します。
葬儀保険や互助会に加入していない場合、葬儀自体の費用も全額を自己負担しなければなりません。エンバーミングの費用が加わると経済的な負担が増え、予算を大幅に超えるリスクが高まります。
宗教や倫理観による抵抗感
エンバーミングは、ご遺体に特別な処置を施すことから、宗教や倫理観によっては抵抗を感じる方がいます。エンバーミングの具体的な懸念点をいくつかご紹介します。
遺体を加工することへの抵抗感 | 一部の宗教や文化では、遺体を自然のままの状態で葬ることを重視するため、価値観と相反する可能性がある。 |
自然な死後の変化を妨げることへの違和感 | 死後の自然な変化を受け入れることが、死の受容プロセスの一部だと考える人にとっては、エンバーミングによってこの自然な過程を妨げることに、違和感を覚える場合も。 |
特定の宗教的教義との矛盾 | 一部の宗教(イスラム教など)では、遺体は可能な限り速やかに埋葬することが求められるため、エンバーミングとは相容れない場合がある。 |
環境への配慮 | エンバーミングに使用される化学薬品が環境に与える影響を懸念する声もあるため、自然葬や樹木葬を希望する場合は慎重に検討する。 |
故人と少しでも長い時間を過ごしたいと思っていても、誰もがエンバーミングを望んでいるわけではありません。
そのため、エンバーミングを選択する際は、故人の信仰や価値観、また遺族の宗教的・倫理的な考え方を十分に考慮する必要があるでしょう。
エンバーミングで後悔しないための注意点

エンバーミングにはメリットだけでなく、重大なデメリットもあります。後悔しないために、エンバーミングを選択する際の注意点をご紹介します。
エンバーミングの必要性を見極める
エンバーミングが本当に必要かどうか、しっかり考慮して検討しましょう。エンバーミングの必要性について、見極めるポイントを解説します。
葬儀までの期間 | 短期間で葬儀を行う場合は必要性が低い。3日以内に葬儀を行う場合は、エンバーミングを行わなくても十分な場合が多い。 |
参列者の状況 | 遠方からの参列者がいない場合は、長期保存の必要性が低いため、通常の冷蔵保存で十分な可能性がある。 |
ご遺体の状態 | 事故や長期の闘病でご遺体の状態が著しく変化している場合に、エンバーミングの必要性が高まる、損傷が少ない場合は、通常の湯灌や納棺で十分な可能性がある。 |
葬儀の形式 | 直葬や火葬のみの場合は、エンバーミングの必要性が低くなる。大規模な社葬や、複数日にわたる葬儀を予定している場合は、エンバーミングの検討を視野に入れるべき。 |
法的要件 | 海外からの遺体搬送の場合、多くの国でエンバーミングが義務付けられているため必要。 |
必要以上に高額な処置を選択することで、後悔につながる可能性があります。状況を総合的に判断し、エンバーミングの必要性を見極めましょう。
自身で判断が難しい場合は、葬儀社のスタッフに相談すると、より適切な選択が可能になるでしょう。
費用とサービス内容を事前に確認する
エンバーミングの費用やサービス内容は業者によって異なるため、事前に詳細を確認してください。
確認するべきポイント | |
基本料金とサービスの範囲 | どの程度の処置が基本料金に含まれているのか、詳細を確認すること。例えば、基本的な防腐処理だけでなく、簡単な修復やメイクアップまで含まれているかなど。 |
追加オプションの内容と料金 | 特殊修復やフルメイクアップなど、追加で選択可能なオプションと料金を確認。 |
支払い方法や期日 | 一括払いか分割払いか、支払い期日はいつかなど、支払いに関する詳細を確認すること。支払い方法によって料金が異なることもあるので注意。 |
複数の業者から見積もりを取り、比較検討することで適切な選択ができます。また、不明な点があれば遠慮なく質問して、不安要素を無くすことも忘れないようにしましょう。
宗教や価値観への配慮を忘れない
エンバーミングの処置が宗教的な教えや個人の価値観に反しないか確認しましょう。
とくに、故人の宗教や信念は尊重されるべきです。また、地域によっては、特定の葬儀の形式や遺体の扱い方が一般的な場合があります。地域の慣習とエンバーミングが調和するか確認することも忘れないようにしましょう。
まとめ

エンバーミングはご遺体を長期保存し、生前の姿に近づける技術として注目されています。
エンバーミングのメリットとしては、ご遺体の長期保存や衛生管理、生前の姿に近い状態でのご安置、ご遺族の精神的なケアなどが挙げられます。とくに、海外からの遺体搬送や大規模な社葬など、葬儀までに時間を要する場合に有効です。
一方で、高額な費用や宗教・倫理観による抵抗感などのデメリットも存在します。のデメリットは、個人の価値観や状況によって重要度が異なるため、慎重に検討する必要があるでしょう。
エンバーミングを検討する際は、必要性を十分に見極めることが大切です。後悔しないためにも、費用とサービス内容を事前に確認し、宗教や価値観への配慮を忘れないようにしましょう。