
社葬とは、会社は施主となって行う葬儀のことです。
大企業の社長や役員が亡くなった際に行われる大規模な葬儀と聞くと、イメージがわく方もいるのではないでしょうか。
実はこの社葬、大企業だけでなく中小企業でも行われます。一般的には会社の社長や会長、役員などの経営陣、大きく貢献した方が亡くなった際に執り行われるものです。
社葬の意味や一般の葬儀との違い、実際の流れなど詳しく解説します。
もくじ
社葬の意味や一般の葬儀との違い、種類を解説
社葬の意味や一般の葬儀との違い、種類について解説します。
社葬は故人を偲ぶだけでなく社外広報の目的もある
社葬とは、創業者や社長、会長をはじめとした経営陣など、その会社の発展に大きく貢献した人が亡くなった際に行う葬儀です。
社葬は故人への哀悼・慰安という本来の目的にとどまらず、社内外に故人の功績を称え、故人の会社に対する想いを引き継いでいく意思をアピールする場でもあります。
また代表者が亡くなった場合は、後継者が取引先や社員など、関係者に対して事業の承継を宣言する場でもあるため非常に重要な儀式なのです。
社葬は、故人の関係者だけでなく、各界からの主要関係者が会する一大行事といえるでしょう。
また、社葬とは企業の信頼性を知らしめる最も効果的な社外広報・アピールであり、その後の企業の経済活動を円滑ならしめ、企業存続のノウハウを引き継いでいくための儀式でもあります。
社葬に様々な形式があり、例えば下記のようなケースがあります。
- 通夜は身内だけで行い、葬儀・告別式のみ社葬として行う
- 通夜、葬儀・告別式、火葬までを一般葬と同じように行う
- 一旦密葬で火葬まで済ませ、後日改めて本葬として社葬を行う
一般的には、火葬までは家族葬または一般葬として行い、後日改めて社葬を行うというケースが多数です。
なお、社葬は必ずしも大規模な葬儀になるわけではありません。具体的には下記に該当する人が亡くなった際、社葬を行うことが一般的です。
- 勤務中の不慮の事故などで殉職した人
- 会社の発展に大きく寄与した人、もしくは特別な功績を残した人
- 会社の創設者や会長、および役員の立場にある人、あった人
もちろん、上記以外の人が亡くなった時にも社葬を行うことがあります。
不公平さを社員に感じさせないように、社葬取扱規程のなかで社葬の対象となる人物の基準を設けておくことが大切です。
また、社葬の対象となる人物の基準を定める際には合わせて葬儀費用の負担範囲を決めておきましょう。
一般的な葬儀との違いは施主|会社が費用を負担する
遺族や近親者が施主を務める一般の葬儀と異なり、社葬は故人が属していた会社が施主を務めるというのが一般的な葬儀と社葬の最も大きな違いであるといえるでしょう。
喪主は、葬儀の打ち合わせをしたり葬儀で挨拶をしたり、弔問を受けたりなど、葬儀を取り仕切る人を意味します。
これに対し施主は、主に葬儀の費用を負担し、葬儀を運営・サポートする責任者のことです。
大企業などでは、役職や後席によって負担する費用や範囲を社内規程で定めている場合もあります。
一般の葬儀では「施主」という役割名称で挨拶をしたり、供物をだしたりすることがありますが、社葬においては「施主」という役割名称が表立って出てくることはありません。
その代わりに「葬儀委員長」を立てることが一般的です。社葬においては、この葬儀委員長のもとであらゆる運営が進められます。
社葬・合同葬・お別れ会の違い
社葬には、大きく分けて「社葬」「お別れ会・お別れの会」「合同葬」の3種類があります。それぞれの違いを解説します。
「社葬」は儀礼的な要素が強く、会社が施主になるもの
「社葬」は、一般的に近親者による密葬の後、日をおいてから故人が生前に信仰していた宗教・宗派の作法に則って執り行う儀礼的な要素の強い葬儀を指します。
社葬は企業が施主となるものです。喪主や遺族は社葬に出席することはありますが、基本的に運営には関わりません。
遺族や親戚、親しい方々とのお別れはすでに行っているため、より企業色の強い葬儀となります。
法人税法上の取り扱いは、社葬を行うことは社会通念上相当であるとされており、社葬のために通常要すると判断できる費用であれば、福利厚生費として損金参入することが認められています。
香典に関しては「雑収入(雑益)」として計上する必要があり、法人税の課税対象です。
企業が受け取った香典を遺族に渡したり香典返しを会社が負担すると、遺族に贈与税が発生します。
そのため現在では、まず個人葬(密葬)の際に遺族が香典を頂き、その後に行われる社葬では香典を辞退するケースが増えているようです。
「お別れ会(偲ぶ会)」は故人の業績を称え告別するもの
お別れ会・お別れの会は、社葬の名称が変わったものです。特に定義があるわけではなく、内容も社葬と大きく変わりません。
しかし、社葬と比べ、宗教儀式を廃し故人の業績を称え告別することを主な目的とすることが多いのが特徴です。
またホテルの宴会場などを会場に参列者を会食でもてなし、故人の業績を展示するブースを設けたり、映像を流したりするなど、演出等の自由度がより高くなる傾向もあるようです。
お別れの会、偲ぶ会と呼ばれることもあります。
お別れ会・お別れの会は、葬儀から14日後〜四十九日までの間にホテルなどで行われるのが一般的です。場所によっては、遺骨の持ち込みやお焼香をあげることができませんので注意しましょう。
「合同葬」は故人の葬儀と社葬をあわせて行うもの
合同葬は、近親者による密葬などといった個人の葬儀と社葬とをあわせて行う葬儀です。また、2つ以上の企業や団体が合同で行う葬儀も、合同葬と呼ばれます。
合同葬は、通常の葬儀と同様に故人が亡くなってから一週間以内には行われ、おおよその流れは一般葬と同様。それぞれの地域の慣習にそって、火葬前の遺体を前に通夜や葬儀・告別式を行うのが一般的です。
スケジュールが厳しい場合もありますが、葬儀が一回で済むため遺族や参列者の負担が抑えられるというメリットがあります。
合同葬の流れは一般的な葬儀と同じく、「通夜・通夜振る舞い・告別式・出棺・火葬・繰上げ法要・精進落とし」の順で行うのが通例です。
香典は基本的に遺族に渡ることが多く、香典返しや返礼品の準備は遺族が行います。
社葬と合同葬の決定的な違いは、葬儀を実施するタイミングが異なるという点です。合同葬は、中小企業などの同族会社で多く見られます。
葬儀費用の負担や葬儀の運営の仕方については、会社と遺族が話し合って決めるのが一般的です。
また、名義を合同葬とする場合でも、社葬規程で定めておけば企業が費用の全額を負担しても構いません。
合同葬でも、葬式の費用を会社が負担することに社会通念上相当であることと、その負担金額が適正である事が問題となります。
しかし、合同葬では遺族と企業が合同で行い、香典は遺族が直接いただくくことになるため、香典は課税対象とはなりません。
合同葬・社葬において、税務署の判断により葬儀のために通常必要とされる費用が経費として認められます。
社葬を行うことが社会通念上相当と認められるときの基準は、社葬対象者の企業に対する貢献度や死亡の事由などによって判断されます。
企業の経費として認められる費用と認められない費用は以下の通りです。
企業の経費として認められる費用
- 葬儀の通知、告知費用
- 僧侶へのお布施
- 祭壇等の使用料
- 供花、供物等の費用
- 遺族、葬儀委員等への飲食代
- 受付用テント、照明器具等の費用
- 備品等の費用
- 葬儀場、駐車場の使用料及び警備員等の費用
- 遺骨や参列者の送迎費用
- 火葬費用(合同葬の場合は経費と認められません。)
- 会葬者への礼状および粗品代金
企業の経費と認められない費用
- 個人葬(密葬)として行われた費用
- 仏壇・墓石等の購入費用
- 墓地使用料
- 火葬費用(社葬の場合は経費と認められます。)
- 納骨費用
- 香典返し等の返礼の費用
- 法事法要の費用
社葬の流れ

社葬には様々な形式があります。ご逝去後にまず家族葬を済ませ、後日改めて社葬を実施する場合の流れを一例として紹介します。
社葬の事前準備
仏教の場合は四十九日、神道の場合は五十日祭までに納骨をすることが多いため、社葬で祭壇に遺骨を安置することを考慮すると、社葬の準備期間としては1ヵ月もないでしょう。
まずは、社葬取扱規程を制定しておく必要があります。
社葬取扱規程とは、社葬執行者や葬儀を運営するための葬儀実行委員、会社負担となる費用の範囲の取り決めなどについてのルールを定めた規程です。
そのほかに、社葬マニュアルを作成しておくことが重要となります。
社葬マニュアルでは亡くなってから葬儀終了までの流れにおいて、必要な人員や葬儀実行委員の役割についてまとめておくものです。
誰がどのくらいの範囲を担当するのか、誰の指示で動けば良いのかなど指揮系統についてもまとめておくと良いでしょう。
また、参列者をある程度絞り込むために連絡簿の作成をします。
参列者人数の想定のために、訃報を伝える優先順位や株主・弁護士などの関係者など円滑に連絡をするため必要なものです。
社内用の緊急連絡網も作成しておくと危篤の連絡が来た時のフローについて整理ができるので安心です。
遺族から会社の誰に連絡が来るのか、病院先には誰が行くべきなのか、危篤の連絡を受けた場合に役立つでしょう。
社葬を準備する際に決めること
社葬を行うには、通常の葬儀とは異なる規模の会場などを抑えなければいけないため、社葬に強い葬儀会社を選定しておく必要があります。
葬儀会社を選ぶポイントとして、下記の点に注目して検討してみましょう。
- 対応が柔軟でかつレスポンスが早い
- 社葬の実績が豊富である
- 見積もりが明確である
いざという時に急いで葬儀会場を選ぶのでは大変です。あらかじめ、社葬を任せる業者のリストを作成しておくと良いでしょう。
次に、大体の参列者の人数が判明した時点で葬儀会場を選びます。
会場を選ぶポイントとして、参列者が利用する交通機関に合わせた会場を選ぶことが大切です。
車で来る参列者が多いことが想定された場合には、駐車場が広いところにしなくてはいけませんし、公共交通機関で来ることが想定されている場合には、バス停や駅から近い会場を用意すると良いでしょう。
社葬前日までの流れ
逝去から社葬の打ち合わせなどについて流れを見ていきましょう。
1.ご逝去
ご逝去後、なるべく早い段階で会社関係者は遺族に挨拶、社葬を行いたい旨の説明をし、遺族の同意を得ます。
2.臨時取締役会
臨時取締役会を開催し、社葬を行う決議をします。議事録にも残しましょう。
3.家族葬、火葬
遺族および、親族のみで密葬として家族葬を執行し、火葬を済ませます。
4.葬儀社と社葬の打ち合わせ
社葬の内容(宗教宗派、形式、日程、会場、葬儀委員長、祭壇、返礼品など)について葬儀社と相談しながら決めていきます。
5.社内で係の振り分け
運営本部、受付、会計、案内、撮影、来賓対応など社内で役割を決めます。
6.関係先へ案内を送付
取引先を中心に社葬の案内状を送付しましょう。
7.供花取り纏め
社内、関連会社の供花の取りまとめ、注文を行います。
社葬当日の流れ
次に社葬当日の流れを解説します。
1.関係者会場に集合
集合後、全体打ち合わせ、係ごとの打ち合わせを行い、式場や控室および導線など会場内外を確認しましょう。
2.受付開始
記帳方法、香典の受け取り方、返礼品の渡し方などを確認し、受付を開始します。
3.社葬
本葬として社葬が始まります。式次第は下記のとおりです。
- 導師式衆入場
- 開式
- 読経
- 弔事
- 弔電
- 葬儀委員長挨拶
- 喪主挨拶
- 読経
- 指名焼香(喪主、葬儀委員長など主要人物)
- 遺族親族焼香
- その他参列者焼香
- 導師退場
- 閉式
上記の例では仏式を想定していますが、神道やキリスト教など他の宗教で行われることもあれば、無宗教の場合もあります。
社葬後の流れ
葬儀が終了し、出棺を見送ったら会場の後片付けを行います。通常葬儀終了後から3日以内に弔電を送ってくれた人や参列者に対して会葬礼状を送りましょう。
また、社葬にかかった費用などは税務上の手続きが必要なため、費用の集計を行います。費用によっては経費として計上できるものがあるので、紛失しないよう領収書を保管しておきましょう。
社葬に参列する際の基本マナー
社葬は会社だけでなく、故人や遺族にとっても大切な儀式です。会葬者として社葬に参加する場合は、失礼のないようにしましょう。
服装は略喪服を着用する
服装は、男女とも略礼服と呼ばれる喪服で参列します。
「お別れ会」などの場合、案内状に「平服でお越しください」と書かれていることがあります。その場合は、男性は喪服やダークスーツ、女性は黒や紺など、地味な色のスーツやワンピースがおすすめです。
アクセサリーをつける場合は、パールを選び、髪はできる限り下の方で縛り、メイクも派手にならないよう気をつけましょう。
それぞれの企業の特色や、その企業の属する業界の風潮などもあります。企業文化なども考慮しながら、ふさわしい服装を心掛けましょう。
その他のマナー
参列する際の注意点として、名刺交換や商談はマナー違反のため控えましょう。また、通夜振る舞いに招待された場合にはできる限り断らず、参加するようにします。
出席した場合の香典の渡し方は、故人との関係がわかるように香典袋に会社名を記載し、社長名義でお渡しすることが一般的です。
また、参列できなかった人の代理としてお渡しする場合には、名刺の左下などの余白部分に代わりに出席することを記載し、右上に「弔」と記入し受付へ香典と一緒にお渡しします。
遺族にお渡しする場合には香典による税金は発生しません。用意する際には遺族宛で準備しましょう。
もし香典を辞退されたような場合には、菓子折りや果物などの供物を贈ります。
まとめ|社葬は故人を偲ぶだけでなく遺志や業績を引き継ぐもの
社葬は、故人への哀悼・慰安という本来的な目的にとどまらず、社内外に故人の功績を称え、故人の会社に対する遺志や業績を引き継いでいくことをアピールする場でもあります。
慌てることなく社葬を執り行えるように、社内規程の整備や運営方法の検討など、事前準備を進めておくことが大切です。
参加する際は、企業文化などを考慮した上で参加し、そこでの名刺交換や商談は控えましょう。