「直葬」とは「火葬式」とも呼ばれ、通夜や葬儀、告別式を行わず火葬のみで故人を弔う葬儀形式のことです。
近年、葬儀形式も多様化しており、直葬が選ばれることも増えてきました。直葬が選ばれるようになった背景としては、葬儀の小規模化や費用軽減、宗教離れなどさまざま理由があります。
とはいえ、実際に直葬を執り行う家庭はまだ少数派であり、世間の理解度は低いのが実情です。直葬を選んだことでトラブルが起きてしまう可能性もあります。
「直葬」の意味や実際の流れ、選ばれるようになった背景やメリット・デメリットを詳しく解説します。
もくじ
直葬の意味と生まれた背景
直葬は葬儀費用を大幅に抑えられるだけではなく、遺族の体力的・精神的双方の負担の軽減を目的としています。
現代において葬式の簡略化が進んでいますが、直葬はその究極系と言えるでしょう。
直葬とは通夜や告別式・葬儀などの宗教的儀式を省略した弔い方
直葬とは通夜・告別式を行わず、納棺後すぐに火葬する葬儀のことで、別名「火葬式」とも呼ばれています。
参列者は身内やごく限られた人などの小規模で行うため、一般的な葬儀と比べると服装のマナーはそれほど厳しくありません。
しかし、参列者は喪服に準じた服でも構いませんが、遺族や親族は喪服の着用をおすすめします。
直葬が選ばれるようになった3つの背景
2017年に株式会社鎌倉新書が行ったお葬式に関する全国調査では、最も多い一般葬が52.8%、家族葬37.9%、直葬4.9%、一日葬4.4%と結果が出ました。
まだまだ少数派の直葬ですが、その数値は昔と比べると増加傾向にあり、特に東京都では9%が直葬です。
その背景には大きく3つの要因が関係しています。
葬儀の小規模化
近所付き合いの希薄化や核家族化により、参列者の人数が減少してきています。それに加え高齢で亡くなった場合に、友人が既に亡くなっていて参列者が少ないという理由もあります。
高齢化社会の影響が、葬儀のスタイルにも顕著に影響してくるようになりました。
葬儀費用の軽減
故人の意思や遺族の経済状況から、葬儀費用をできるだけ抑えたいと考える人は増えてきています。
通夜や葬儀を行わないと、お通夜のあとの通夜振る舞いや葬儀のあとの精進落としなどのお斎の用意をしなくてもよくなるので、経済的負担の大幅な軽減が見込めます。
会食は自宅か近くのお店などで簡単に行うことが多いです。
宗教離れ
従来のお葬式の形式やしきたりを気にしない人が増えてきたことも背景にあります。特に宗教にこだわりがないということであれば、直葬の場合は僧侶の方を呼ばないで済ませることもできます。
また通常は僧侶にお経のあとに戒名をつけていただきますが、無宗教のお墓に入るなどの場合は、戒名の必要性がないのでつけなくとも特に問題ありません。
こうした要因から、徐々にではありますが直葬を選ぶ人が増えてきました。
直葬の流れ|安置後そのまま荼毘に付す
直葬は臨終を迎えてから、4つのプロセスを通して行われます。
臨終から骨上げまでの流れ
病院で亡くなった場合、その場で医師に死亡診断書を発行してもらいます。そこから葬儀社へ連絡をして、ご遺体を迎えにきてもらい搬送します。
自宅で亡くなった場合は、警察により事件性がないかを確認する検視が行われることがあるので、勝手にご遺体を移動させないようにしてください。
1.ご遺体の安置
法律上亡くなってから、24時間は火葬することができません。
しかし、病院では長時間の遺体の安置ができないため、一時的に自宅か葬儀社の霊安室で遺体を安置しておく必要があります。
自宅にスペースがある場合は、布団を敷いて枕飾りをし故人を寝かせます。数日間安置しておく場合や季節によっては、腐敗を防ぐためドライアイスを用意しましょう。
都心では、火葬場の予約が何日も空いていないことも考えられます。
万が一安置する場所を決めていなくても、自宅で安置する場合でも、葬儀社に直接相談すれば案内してくれるので心配ありません。
葬儀社の霊安室に安置する場合は、葬儀社に依頼すれば寝台車で迎えに来てもらえます。
完全に任せる預かり安置と遺族が付き添う安置の方法があるので、家族で話し合って選択しましょう。
2.納棺から出棺
故人を仏衣で包み、棺へ納めます。棺には花や故人が好きだったものなどを納めたり、故人が好きだった曲を流したりし、お別れします。
棺には不燃物等入れてはいけないものがあるので、担当者に確認しましょう。
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3.火葬
僧侶に読経をお願いする場合は、火葬を行う前に火葬炉前で読経していただきます。その後火葬が終わるまで、控室で待機。
所要時間は早いところで45分程度、遅くても2時間程度です。
4.骨上げ
喪主から血縁の深い順に2人で1組になって、竹の箸で遺骨を1~2片拾います。拾ったら次の人に箸を渡し、同じように遺骨を骨壺に納めていきます。
骨は足側から拾い、最後に喉仏を納めるのが一般的です。分骨する場合はあらかじめ葬儀社に伝え、骨壺は2つ用意してもらいます。
火葬場では骨箱の他に、お墓に遺骨を埋葬するために必要な埋葬許可証を渡してくれるので、確認して受取りましょう。
直葬の費用の相場は10~30万円
直葬は費用を大幅に抑えることができます。一般的な葬儀費用の平均は121.4万円※であるのに対し、直葬は10~30万円前後で行うことができます。
※第11回「葬儀についてのアンケート調査」日本消費者協会調べ
基本料金には、以下のサービスが含まれることが多いです。
- 寝台車
- ドライアイス
- 安置施設利用料
- 棺
- 納棺費用
- 火葬料金(手続き代も含む)
- 骨壺
- その他細かい備品など
料金が10万円前後の一番安いプランには、基本料金に含まれる内容が少なく追加料金が余計にかかり、他のプランとあまり変わらなくなることも。
20万円前後の一通り必要なサービスが揃ったプランでも、以下の追加料金がかかる可能性も考えられます。
▼寝台車
会社によっては寝台車の費用算出の区間を車庫からとしている場合や、一定の距離を超えると「10㎞ごとに○○円」というような追加費用が発生することもあります。念のため、費用算出の区間についてを確認しておきましょう。
▼ドライアイス・安置施設利用料
ご遺体の傷みを軽減するため、火葬をするまでドライアイスを使用します。直葬までの日数が伸びた場合、ドライアイスと安置施設利用料の追加が必要です。
▼火葬場代
火葬場によっては休憩室の料金が発生するところもあるので、確認しておきましょう。
上記に加え、参列される方が移動するための車代や、僧侶を招いて火葬炉前で儀式をする際は各種お代が必要です。
直葬を選ぶメリットやデメリット
直葬のメリット・デメリットを、大きく2つずつ取り上げます。
メリットは遺族の負担が軽くなる
通常の葬儀を準備しようとすれば、故人の死を悲しむ暇もないまま、各対応にあたらなければなりません。
直葬のメリットは、遺族の精神的負担と金銭的負担を両方減らすことができる点にあります。
葬儀費用がかなり軽減される
通夜・葬式を行わないとなると、会場費用がかからず、祭壇や生花を準備することもありません。
また、参列者へのおもてなしなどの通夜・葬式関連の諸経費も、大幅に節約できます。
もし直葬の段取りを全て自分で執り行うとなると、さらに費用を抑えられるでしょう。
遺族の金銭的負担を減らすために、葬儀費用の一部を負担してもらえる制度も存在しますが、一つ注意があります。
健康保険組合や自治体から喪主に支払われる埋葬料は、直葬の場合「葬儀は行われていない」という理由で葬祭料が支払われなかったという事例があります。
葬祭を行った証明の有無や故人の年齢によっては葬祭料が支給されない場合もあるため、念のため健康保険組合や自治体に確認した上で判断しましょう。
遺族の負担が減り故人の死と向き合える
通夜や葬儀を行う際に大きく遺族に負担がかかる参列者への挨拶や、受付係の手配などが必要ありません。
また、香典を頂いた方への香典返しや、手伝っていただいた近所の方への挨拶回りなども最小限で済みます。
遺族への精神的負担を軽減でき、その分故人の死と向き合う時間を作ることができます。
デメリットは周囲の理解を得ること
直葬のデメリットは、宗教儀式を一切省くことに抵抗がある人がまだ多かったり、納骨において不都合が起こったりする点です。
周囲への理解を得ることが難しい
デメリットの一つ目は、周囲の人々に直葬を理解してもらえるように説得しなければならないことです。
中には伝統を重んじる方もいるでしょう。
直葬は故人が90歳前後で友人や知人がほとんど亡くなっている場合や、認知症で家族しか参列者がいないなどの場合に行われることが多いです。
上記の理由以外で直葬を選ぶ人は、親族の了承を得るために、事前に了承をとった上で執り行ないましょう。
説得できたとしても、直葬の内容は担当者の人柄や能力による差が出てしまうことも考えられます。
皆が納得できるお別れするために、葬儀社は慎重に選ぶようにしましょう。
どうしても参列者からの了承が得られない場合は、後に弔問の機会を設けたりお別れの会を催すなど、故人を弔う場を設けた方が良さそうです。
菩提寺がある場合納骨できずトラブルになることがある
菩提寺にはその寺の方針や考えがあり、その考えに基づいて葬儀を行い、火葬後は菩提寺へ納骨します。
そのため菩提寺に対しても事前に説明しておかないと、宗教的儀式を省いた直葬を行ったことにより、今までの関係に傷をつけてしまう可能性もあるのです。
場合によっては菩提寺に納骨ができなくなったり、今後の法事への影響が出てきたりと菩提寺とトラブルになってしまうケースが考えられます。
直葬は宗教的儀式を省略した金銭の負担も少ない弔い方
残される人にできるだけ迷惑をかけたくないと考える人は多く、葬儀の在り方が多様化する中で直葬という選択肢も徐々に増えてきています。
しかし明確な理由もなくただ経済的負担を図ろうと直葬を選択すると、大事なご縁に傷がついてしまいます。
故人の送り出し方にはそれぞれの価値観があるので、決める前に大切な人とよく話し合って決めましょう。