人が亡くなった場所の8割以上は病院(医療機関)ということが、厚生労働省の調査によって明らかになっています。
そのため、自分の大切な人が亡くなる場所も、病院になる可能性は十分にあるでしょう。もしも自分の周りの人が病院で亡くなったとき、どのような流れで手続きが進んでいくのでしょうか?
この記事では、病院で亡くなった場合の、ご臨終から葬儀までの流れと必要な手続きについて解説します。
もくじ
病院で亡くなったら
病院で亡くなった場合、一般的に以下のような流れで進みます。
- 医師による死亡確認後に死亡宣告
- 医師によって死亡診断書が作成される
- 葬儀社を決めて連絡を入れる
- エンゼルケアをする
- 病院から自宅もしくは葬儀社などの安置施設までご遺体を運搬
- 通夜、葬儀・告別式の準備を行う
大切な人が病院で亡くなったとき、非常に深い悲しみの感情で溢れることもあるでしょう。しかし、病院で死亡が確認されたあとに、十分な時間をとってゆっくりと手続きや準備を進めることはできません。
病院によっては長時間に及んで遺体を安置できない場合もあるため、速やかな対応が求められます。
感情に流されることなく、少しでも冷静に準備を進めるためにも、病院で亡くなってからの対応や流れをある程度把握しておくとよいでしょう。
病院でご臨終後に病室で行うこと
ご臨終直後の病室では、いくつかの重要な手続きや儀式を行う必要があります。病院でご臨終後に、病室で行う主な内容について解説します。
医師から死亡診断書を受け取る
死亡診断書は、故人の死亡を公的に証明する重要な書類です。
死亡診断書発行の流れ |
1.医師が死亡を確認、死亡宣告 2.医師が死亡診断書を作成・発行 3.医師から直接、もしくは病院の受付にて死亡診断書を受け取る 4.内容を確認し、不明点や間違いがあれば医師に質問 5.問題がなければ受け取り完了 |
死亡診断書は、後のさまざまな手続きで必要となるため、医師から受け取ったらしっかりと保管しておきましょう。提出すると返却されない手続きもあるため、余分に作成してもらうかコピーをとっておくと安心です。
親族へ訃報の連絡
最も優先すべき連絡相手は病院に同行していない親族です。ご臨終後はできるだけ早く、そして正確に訃報を伝えましょう。
親族へ訃報の連絡を入れる際は、以下の項目を明確に伝えてください。
- 誰が亡くなったのか
- 死亡日時
- 死因
- 死亡場所(病院名や病院の地図などを提示するとよい)
- 緊急連絡先(連絡した本人が対応できない場合の連絡先)
病院ではゆっくり連絡を取り合うことはできないため、できるだけ簡潔に情報をまとめて伝えましょう。
時間帯が深夜だったり、連絡する人数が多かったりする場合は、メールやチャットアプリを利用してまとめて連絡することもひとつの手段として視野に入れましょう。
末期の水の儀式
「末期の水(まつごのみず)」は仏教の伝統的な儀式で、最後の渇きを癒し、安らかな旅立ちを願う意味があります。故人の口もとを濡らす儀式で「死に水」とも呼ばれます。
末期の水の流れ |
1.清浄な水を用意する 2.割り箸にガーゼや脱脂綿を巻いて水を軽く含ませる 3.上唇から下唇、左から右へ動かし故人の口もとを湿らせる 4.その場にいる全員が終わったら故人の顔をきれいに拭いて完了 |
湿らせたガーゼなどを故人の口の中へ無理やり入れることはマナー違反です。軽く湿らせる程度で問題ありません。
病院によっては末期の水の儀式を行うために、お清めセットなどを用意している場合もありますが、近年では省略するケースも増えているようです。
エンゼルケア
エンゼルケアは、故人の身体を清めて整える作業です。病院のスタッフが行う場合もありますが、遺族が希望すれば参加することもできます。
エンゼルケアの内容 |
・体を拭く ・髪を整える ・着替えをさせる ・希望がある場合はメイクを施す(葬儀社で行うケースも多い) |
エンゼルケアの由来は、キリスト教の天使(エンゼル)が故人を天国へ導くという考えに基づいています。日本では、故人への最後の身支度という意味合いで広く行われています。
ご遺体の搬送
病院に霊安室がある場合でも、長時間ご遺体を安置することはできません。そのため、ご臨終は速やかに別の安置場所へ搬送する必要があります。
病院から安置場所へご遺体を搬送する手順を解説します。
葬儀社の選定・連絡
ご遺体の搬送は、安置場所に関係なく葬儀社に依頼するケースが一般的です。搬送を依頼する葬儀社が、その後に行われる葬儀をサポートしてくれるので、連絡を入れる前にしっかり選定する必要があります。
葬儀社を選定する際は、以下の情報を参考にすると失敗しにくいでしょう。
- 評判や口コミ
- 料金の透明性
- 地域での実績
- アクセスのしやすさ
- 24時間対応の有無
なお、評判や口コミを参考にする際は、公式サイトではなくSNSやGoogleマップといった第三者の口コミを参考にするとよいでしょう。
葬儀社を選定したあとは、葬儀社へ電話で連絡を入れます。
メールやSNSなどでも葬儀社への問い合わせ自体は可能ですが、病院では速やかに手続きを進める必要がある状況のため、電話で連絡を入れてください。
電話連絡の際、対応が丁寧であるかも確認しましょう。誠実ではない場合は、他の候補になっている葬儀社に変えてください。
葬儀社へ連絡する際は、伝達の相違がないように以下の情報を正確に伝えましょう。
- 故人の氏名と年齢
- 死亡した日時と場所
- 現在の場所(病院名、病院の住所、病室番号)
- 搬送先の住所
- 連絡者の氏名と連絡先
なお、安置場所への搬送と安置施設の使用には費用がかかります。電話連絡の際などにしっかり確認しておくと、トラブルになりにくく安心です。
また、深夜や早朝の場合、割増料金が発生する可能性もあるため、確認しておきましょう。
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病院紹介の葬儀社を断りたい時の対応
病院から特定の葬儀社を紹介されることがありますが、必ずしも紹介された葬儀社を利用する必要はありません。
自分で選んだ葬儀社を利用したい場合は、はっきりと断りましょう。
断る際は「家族と故人の意思を尊重したい」「葬儀内容に明確な希望がある」などの理由とともに、丁寧に断る意思を伝えます。
病院紹介の葬儀社を断ったら、自身で手配した葬儀社の名前と搬送の時間、方法について伝えましょう。
なお、ご臨終した時間が深夜や早朝の場合は、病院推奨の葬儀社を利用した方がスムーズに進行する場合もあるため、状況に応じて判断することをおすすめします。
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ご遺体の安置と葬儀の準備
ご遺体を搬送した後は、安置と葬儀の準備に移ります。故人を偲びつつ、葬儀に向けての具体的な準備を進めましょう。
ご遺体の安置と葬儀の準備について、詳しい手順と内容を解説します。
ご遺体の安置方法と枕飾り
ご遺体は一般的に自宅もしくは葬儀社の安置室に安置します。集合住宅の場合は、通路を通れないなどの理由でご遺体を搬送できないケースも多いため、基本的には葬儀社の安置室に搬送する場合が多いです。
葬儀社の安置室に搬送する場合は、とくに準備するべきものはありません。自宅や故人の家など、葬儀社以外で安置する場合は、布団を用意するなど環境を整えたうえで安置します。
ご遺体を安置する方法 |
1.布団や棺にご遺体を乗せる 2.頭を北に向ける(北枕) 3.体を真っ直ぐに伸ばす 4.両手を胸の上で組む |
葬儀社の指示に従えば基本的には問題ありません。
そして、ご遺体を安置したら枕飾りを準備します。「枕飾り」とは、故人の枕元に設置する小さな祭壇のことです。
- 遺影
- 蝋燭
- 線香立て
- 花
- 果物や故人の好物
葬儀社が用意している場合もありますが、花や故人の好物などは自分たちで揃えます。故人の宗教や好みを考慮し、丁寧に準備を進めましょう。
葬儀社との打ち合わせ
ご遺体を安置したあとは、葬儀社と葬儀の具体的な内容を決定する打ち合わせを進めます。
打ち合わせでは以下の点をしっかり細かく確認・相談してください。
- 葬儀費用
- 基本プランの内容と料金(どこからどこまでが基本プランに含まれるか)
- オプションサービスの有無と料金(どこからオプション扱いになるか)
- 支払い方法と時期
- 祭壇の種類
- 祭壇や棺のデザインと大きさ
- 花の種類と量
- 追加装飾の有無
- 参列予定人数
- 会場の収容人数
- 席次の配置
- 受付の準備
打ち合わせの際は、家族の意見をよく聞き、故人の意思を尊重しつつ、予算内で適切な選択をしましょう。不明点があれば、解消できるまで遠慮なく葬儀社に質問し、曖昧な部分を徹底的に無くしてください。
親族・知人へ葬儀の連絡
葬儀の詳細が決定したら、親族や知人に葬儀の連絡します。連絡する際は、以下の情報を明確に伝えましょう。
- 故人の氏名
- 通夜、葬儀の日程と場所(マップURLや住所も提示)
- 喪主の名前
- 連絡先
- 宗旨、宗派(特定の宗教に入信している場合や、仏教式以外で葬儀を行う場合)
連絡を入れる際は相手の都合を考慮し、適切なタイミングで行うよう心がけましょう。また、メッセージアプリやメールの利用は問題ありませんが、SNSでの公表は控えてください。
確実に返信が必要な連絡事項であるため、できるだけ個別に連絡するようにしましょう。
湯潅・納棺の儀を行う
「湯潅(ゆかん)」は、故人の体を清める儀式です。湯潅の儀の後に、故人を棺に納める納棺の儀を行います。
所要時間は通常1時間程度です。遺族の希望により、一部の工程のみを行うこともあります。また、遺族が直接体を拭いたり、着替えを手伝ったりすることも可能です。
湯灌の儀は故人への最後の身支度として、遺族の心の整理をつける機会にもなります。
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病院で亡くなった後の手続きと必要書類
病院で亡くなった後は、さまざまな行政手続きが必要となります。ご臨終後の主な手続きと必要書類について解説します。
死亡届の提出
死亡届は、故人の死亡を公的に届け出る手続きです。
提出先 | 故人の本籍地、死亡地、届出人の住所地のいずれかの市区町村役場 |
提出期限 | 死亡の事実を知った日から7日以内 |
必要書類 | ・死亡診断書(医師発行) ・届出人の印鑑 ・届出人の身分証明書 |
死亡届は基本的に葬儀社が代行して提出してくれますが、自分で行う場合は死亡診断書をコピーや必要書類の準備を忘れないようにしましょう。
火葬許可証の取得
火葬許可証は、故人を火葬するために必要な書類です。火葬許可証がないと火葬ができないため、葬儀を行う際に必ず用意します。
提出先 | 死亡届を提出した市区町村役場 |
提出期限 | 死亡の事実を知った日から7日以内 |
必要書類 | ・死亡診断書 ・申請者の身分証明書 |
火葬許可証は、死亡届と同時に取得できます。死亡届の提出を葬儀社に依頼している場合は、代行して取得してくれます。
年金・保険に関する手続き
故人が加入していた年金や保険の手続きも必要です。主な手続きと必要書類をまとめてご紹介します。
年金・保険に関する手続きは、できるだけ早めに行うことが重要です。とくに年金の停止手続きは遅れると、過払いが発生して返還を求められる可能性があるため注意しましょう。
相続に関する手続きなど、種類によっては複雑で時間がかかる場合があるため、専門家(弁護士や税理士など)に相談してみるのもおすすめです。
その他必要な手続き
状況によっては他にもさまざまな手続きが必要になります。ここでは、特に発生しやすい手続きについてまとめてご紹介します。
まず、相続に関する手続きです。相続手続きを進めるために、相続人の確定や遺産分割協議、必要な場合は相続税の申告を行う必要があります。また、相続人全員分の戸籍謄本や遺産目録、ある場合は遺言書も必要になるので、あらかじめ揃えておくと安心です。
また故人の銀行口座や、携帯電話、インターネットの解約も忘れずに必ず行いましょう。
行政の手続きほど急ぐ必要はありませんが、忘れてしまいやすい手続きのため、状況に応じて優先順位をつけて進めて行きましょう。
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病院で亡くなった際によくある質問
病院で亡くなった際に関して、よくある質問と回答をご紹介します。
夜中に病院で亡くなった場合はどうすればいいですか?
夜中に病院で亡くなった場合でも、基本的な対応は日中と変わりません。
葬儀社は基本的に24時間365日対応しているため、時間帯を問わず連絡可能だからです。また、送球に病院からご遺体を安置場所へ移す必要があるので、夜中でもすぐに葬儀社へ連絡しましょう。
そのため、夜中に病院で亡くなった場合も、日中と同じように対応してください。
ただし、葬儀社の夜間勤務している人数が少ない場合は、病院の対応が限られる可能性があるため、スタッフとよく相談しながら臨機応変に対応しましょう。
また、親族への連絡は状況に応じて翌朝まで待つなど、配慮が必要な場合もあります。電話連絡が難しい場合は、翌朝確認してもらえるように、電話やメッセージアプリで一報を入れておくとよいでしょう。
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お世話になった病院へのお礼は必要ですか?
基本的に、病院へのお礼は不要です。
ひとりひとりに対して丁寧に対応してくれる病院も多いですが、そもそも医療行為は保険診療の範囲内で行われています。そのため、お礼をすることは「追加の謝礼」という形になるため適切ではありません。
また、医療従事者は職務として患者のケアを行っており、個人的なお礼を期待している人はいません。
お礼を贈ることで、医療の公平性や透明性に疑念を抱かせる可能性があるため、医療費以外の形でお礼を贈ることはできるだけ避けた方が無難です。
個人的に病院側へ感謝の気持ちを伝えたい場合はお礼状を送るなど、金品ではなく言葉で感謝を表すことが望ましいです。
菩提寺がない場合、葬儀社への連絡はどうしたらいいですか?
菩提寺がない場合は、「菩提寺がない」ことを伝えたうえで葬儀社へ連絡しましょう。希望する宗派も特に無いようならば、葬儀社の提案に従うとよいでしょう。
葬儀社で僧侶を手配する場合は、葬儀社が適切な僧侶を紹介してくれるため、自分たちで寺院へ依頼する必要はありません。
一方、菩提寺がある場合は葬儀社が菩提寺と連携して僧侶を手配するため、対応が多少異なります。
また、もしも菩提寺があるかわからない場合は、親族に確認をとったうえで葬儀社に相談するとよいでしょう。
まとめ
病院でのご臨終後は、死亡診断書の受け取り、親族への連絡、末期の水の儀式、エンゼルケアなどを行います。
ご遺体を安置場所まで搬送した後もさまざまな手続きや準備が必要です。
突然の大切な人の死に直面した場合、冷静に対応することは難しいかもしれません。しかし、病院で亡くなった後の流れや手続きを予め理解しておくことで、少しでも落ち着いて対応できるようになるでしょう。
いざその時に直面すると、冷静ではいられないこともあるかもしれませんが、もしもなにをしたらいいのかわからなくなった場合は、プロである葬儀社や病院のスタッフ、行政窓口の担当者などを頼ってください。