日本のお葬式では、ご遺体の上に小刀を置く「守り刀(まもりがたな)」という古くから伝わる風習があります。
かつて守り刀には、日本刀や短刀が使われていましたが、時代の流れとともに小刀や木刀や使われるようになりました。
お葬式ではご遺体の上に守り刀を置くようになった理由は諸説あり、宗教や人によって守り刀の意味も異なります。
お葬式で使う守り刀の意味と作り方や購入方法を解説します。
もくじ
お葬式で使う守り刀の意味とは
日本ではお葬式の際に、ご遺体の上に「守り刀」と呼ばれる小刀を置く風習があります。
なぜお葬式では守り刀が使われるのか、守り刀を置く意味を解説します。
仏式の守り刀は極楽浄土までの道中のお守り
日本では仏教式(仏式)の葬儀が最も多く執り行われており、法要などの追善供養も仏式のやり方に合わせて行います。
仏教では死者の魂は49日かけて旅をし、7日ごとに行われる十王の裁判を経て極楽浄土(天国)か地獄か行き先が決まると言われていますが、たどり着くまでの旅路も平穏ではありません。
そこで無事に死後の旅を終えるために、仏式では「お守り」として死者に守り刀を持たせるようになりました。
裁判が行われる日に追善供養としてお参りをしたり法要を執り行ったりしますが、無事に死後の旅を終えることを願う意味では、守り刀も追善供養のひとつと言えるでしょう。
浄土真宗では守り刀は使わない
守り刀は死者の魂の行き先がよいところであるように、そして無事に死後の旅を終えることができるように願う「お守り」としての意味がありますが、同じ仏教でも浄土真宗では守り刀を使用しません。
お葬式で守り刀を使わない理由は、浄土真宗では死者はすぐに仏の世界に生まれ、浄土往生でき仏になると考えられているからです。
浄土真宗では阿弥陀如来を本尊としており、全宇宙の仏の師として信じられています。そして阿弥陀如来には全ての人が救済されない限り、自らは仏にならないという誓いがあります。
しかし阿弥陀如来はすでに仏であるため、浄土真宗では全ての人が成仏できると考えらるようになりました。
そのため、極楽浄土へ行けるように追善供養を行う習慣がなく、お葬式で守り刀を使用することもありません。
となみに浄土真宗と混同されやすい浄土宗では、お葬式でご遺体の胸もとに守り刀を置く習慣があります。
浄土真宗以外にも宗派や地域によって、守り刀を使用しないケースがあるため、浄土真宗でない場合でも地元の葬儀会社や地域のお寺に相談したほうがよいでしょう。
神式の守り刀は穢れを祓うためのもの
日本の宗教である神道では、死を穢れと考えているため、神式のお葬式では守り刀を「穢れから生者を守るためのもの」として使用します。
もちろん、仏式同様に「死者を守るためのお守り」としての意味もあります。
守り刀をお葬式で使うのは仏式と神式のみであり、キリスト教などそのほかの宗教のお葬式では守り刀を使う習慣はありません。
死者の魔除けや生者を守るためにも守り刀が用いられる
守り刀の意味にはほかにも諸説あります。
例えば、死者を魔物から守る「魔除け」としての意味です。猫は見た目は可愛らしいですが、実は魔の使いとして考えられています。そこで、光るものを嫌う習性を利用して死者を猫から守る「猫除け」として守り刀が使われていたそうです。
また、守り刀は戦などで武士が亡くなった際に、死者の穢れを生者に移さないために胸もとに刀を置いていた風習の名残とも言われています。
守り刀の意味や風習に諸説ある理由は、宗教や地域の習慣による違いが原因でしょう。しかしいずれにしても守り刀には、大切なものを守る意味が込められているようです。
守り刀として適している刀・材質とは
時代の流れとともに守り刀として使われる刀が変わってきました。さらに、ご遺体と一緒に火葬するかどうかで、適している材質も異なります。
守り刀に適している刀と材質について解説します。
守り刀は模造刀や木刀、はさみなどを使う
かつては日本刀や短刀が守り刀として使われていましたが、現在では銃刀法の影響によって本物の守り刀の使用が難しいため、模造刀を使用するのが一般的です。
真鍮や亜鉛、アルミニウムなどの材質で作られた本格的な模造刀から、刀の部分まで全て木で作られた木刀などが用いられます。
ちなみに、本物の刃物を模造刀にする場合、銃刀法によって刃渡りが15cm以上の刀を許可なく所持できないと定められているため、小さい刀を用いるケースが多いです。
守り刀には武器としての性能は求められていないため、安全に取り扱えるものが使われます。
魔除けの意味として守り刀を使用する場合、刀の形をした模造刀ではなく、剃刀やはさみなどを使用するケースもあるようです。
守り刀を棺に納める場合は材質に注意
守り刀はお葬式の間だけに使うケースと、棺に納めてご遺体とともに火葬するケースがあります。
地域や葬儀会社によって取り扱いが異なるため、予め確認しておくようにしましょう。
火葬する場合は守り刀の「材質」に注意してください。
守り刀を火葬しない場合はどんな材質のものを使用しても問題ありませんが、火葬する場合は燃え残りや有毒ガスの原因になる可能性があるため、火葬場の決まりに則って材質を選ぶ必要があります。
木製の守り刀なら問題なく火葬できるので、状況に応じて材質を選びましょう。
お葬式で使う守り刀の作り方と購入方法を解説
お葬式で使う守り刀は購入するか、手作りでもよいです。手作りする場合は時間がかかるため、時間に余裕があるときに作るとよいでしょう。
お葬式で使う守り刀の購入方法と作り方を解説します。
守り刀は葬儀会社か通販で購入可能
守り刀の主な購入方法は、通販か葬儀会社経由の2通りです。
基本的にどの葬儀会社でも守り刀の用意は可能なので、必要であれば依頼するとよいでしょう。なお、中には葬儀一式の費用として守り刀が含まれているケースもあるので、プランをよく確認しておきましょう。
「故人の好みに合うものを選びたい」「費用を抑えたい」などの理由がある場合は、通販を利用して自分で購入するのもおすすめです。
数千円から購入できるので、取り扱い可能な材質を確認してから好みに合わせて購入するとよいでしょう。
故人の好みに合わせて作る守り刀の作り方
故人の好みに合った守り刀を使いたい場合は、自分で作るのもおすすめです。
ただし、手作りする場合は時間がかかるので、生前に終活の一環として自分で用意しておくか、予めどんな守り刀を持ちたいか聞いて準備することをおすすめします。
守り刀はあくまでも「お守り」としての意味を持つものであり、実際に武器として使用するものではないので、一緒に火葬する場合を除けばどんな材質で作っても問題ありません。
近年では布製の袋に入れて供えるケースが増えており、袋に入れれば見た目が多少不格好になっても大丈夫です。
木製の守り刀の作り方
まずは、比較的簡単に作れる木製の守り刀の作り方をご紹介します。
用意するものは以下の通りです。
- 厚さ1cm前後の木の板(幅が細い場合は3枚)
- 接着剤
- のこぎり
- やすり
- 彫刻刀
- えんびつ
- ニスなど
- 作りたい守り刀の形をえんぴつで直接木の板に書く。
- 守り刀を納める鞘の形を書く。鞘は板を重ねて作るので、反転した形も書く。
- のこぎりで大まかに模造刀と鞘の形に切る。
- やすりや彫刻刀などで削りながら、守り刀を理想の形に仕上げる。彫刻刀を使って好みの模様も入れる。
- 鞘の部分は彫刻刀とやすりを使って、刃が収まるくらいの溝を作る。
- 鞘の溝と溝を合わせ、接着剤でくっつけて固定する。
- 接着剤でくっついた鞘の外側を、やすりなどを使って整える。
- 守り刀と鞘にニスを塗って、しっかり乾燥させたら完成。
時間がかかるうえに細かな作業が多いですが、自由度が高く、好きな形の守り刀を作ることができるので、拘りたい人は木で守り刀を作ってみるとよいでしょう。
ご遺体とともに火葬しないのであれば、金属の装飾などを付けてもよいでしょう。
樹脂製の守り刀の作り方
ご遺体と一緒に火葬しない場合は、樹脂で守り刀を作るのもおすすめです。ただし、場合によっては木製の守り刀よりも完成までの時間が長くなる可能性があるので、十分に時間があるときに作りましょう。
用意するものは以下の通りです。
- 2液性のレジン液(クリスタルレジン)
- シリコン
- 小さめのおもちゃの刀(鞘付き)
- 刀が十分入る箱
- やすり
- はさみ
- カッター
- 封入したいもの(水分を含むもの、木、食べ物はNG)
- 色付けする場合は顔料
- ニス(UVカットニスが理想)など
- おもちゃの刀をシリコンで型取りする。あれば市販のシリコンモールドで代用可能。
- シリコンモールドにクリスタルレジンを流す。色付けする場合は流す前に顔料をよく混ぜる。
- レジンが固まる前に、封入したいものがあれば入れる。
- レジンが固まったら型から外し、やすりなどでバリを取って表面を滑らかにする。
- 最後にニスを塗って乾燥させたら完成。
レジンは比較的劣化しにくいものを選びましょう。また、劣化しにくくするために、できればUVカット効果のあるニスを使用することをおすすめします。
また、ラメやホログラムは沈みやすいので、バランスをよく考えて封入してください。
お葬式で使う守り刀は死者と生者を守るためのもの
お葬式で使う守り刀にはいろいろな意味があります。
宗教や地域、葬儀会社によって意味や考え方、扱いが違いますが、いずれにしても守り刀は「死者と生者を守るため」の意味が込められています。
守り刀は人のためを思って行われていた習慣なので、この先も大切にすべき日本の風習ではないでしょうか。
現実に影響を及ぼすものではないので、近年では省略するケースも増えていますが、守るべき日本のよき風習なので、お葬式の際はできるだけ守り刀を用意することをおすすめします。