宗派や地域によっても様々な形態があるお葬式。宗教者を呼ばない葬儀は自由葬と呼ばれ、その中のひとつに「音楽葬」があります。
まだあまり馴染みのない言葉かと思いますが、お葬式のかたちも多様化している現代。今後、自由葬を望む人も増えてくるのではないでしょうか。
自由葬のひとつである「音楽葬」について、費用や流れ、参列者のマナーについて解説します。
もくじ
音楽葬とは?メリットとデメリットを解説
音楽葬とは文字通り、音楽を用いたお葬式のことです。音楽葬と一言でいっても、無宗教葬の個性的なセレモニーから、仏教などの宗教的な儀式の中で行われるものまで、様々あります。思い出の曲を流すことで、故人や遺族の気持ちを表現し、特別なお別れを演出したいという気持ちから生まれたものです。
音楽葬のメリット
音楽葬のメリットは、世界にたったひとつのお葬式ができること。無宗教葬の式次第は自由で、使用する音楽にも制限がありません。クラシック・ポップス・ロック・ジャズ・演歌など好きな楽曲を好きなだけ使用することができます。
祭壇やそのほかの演出も自由のため、故人やご遺族の意向を存分に表現できることでしょう。
また、人は音楽と思い出を結びつけることで、より強く記憶を定着することができるといわれています。その曲を耳にしたとき、故人やお葬式のことを思い出せることも大きなメリットです。
音楽葬はオリジナル性が高く、ご遺族とスタッフが細かい打ち合わせを重ねて準備をしなければいけません。そのため、故人との思い出を共有する時間も増え、お別れ後に達成感や満足感を覚える人も多いようです。
また、お布施などの宗教的儀式に伴う出費は必要ないため、お葬式自体の費用を抑えることができます。
音楽葬のデメリット
音楽葬のデメリットはまだ少数派であることです。1990年代に無宗教葬という言葉が誕生しましたが、仏式の葬儀ははるか昔の江戸時代から続くものです。そのため音楽葬は一般的に浸透しておらず、周囲の人々の理解を得られないことがあります。場合によっては、親戚や参列者の混乱をまねきかねません。
次に問題になるのは納骨や供養です。無宗教葬をすると、その後の供養を遺族で行う必要があります。ご先祖のお墓がお寺にある場合、無宗教葬をしたことで故人を納骨することができなかったという事例あったようです。
そして音楽葬は自由度が高いため、逆に大変という声もあります。式次第や演出を全て遺族で考える必要があるため、かなり負担がかかるのです。
音楽葬の費用相場や注意点
音楽葬を行うために、確認しておきたい情報を解説します。
細かい費用についてや宗教的儀式とのかね合い、会場や祭壇等について理解することで、具体的なイメージをすることができるでしょう。
音楽葬の費用相場や出張演奏の価格帯
音楽葬の費用相場は30万円〜200万円です。ただし、演出内容や会葬者数によってかなり差があるため、平均費用をあてにすることはできません。
基本的に、音楽を流す費用と会場、それ以外の費用に分かれます。
まず、生演奏を行う場合の依頼料は、演奏家1人あたり2万円〜4万円。これは結婚式などの派遣演奏料と同じです。演奏者の質にこだわったり、特別な楽器を希望したりする場合は、さらに高額になります。CDを流す場合はそれほど費用はかかりません。
次に会場にかかる費用です。斎場外への音漏れを考慮する必要があるので、音楽葬に対応できる会場は限られています。そのため、日程や希望する地域によっては高額になるケースも。
最後に、それ以外の費用について解説します。祭壇・進行などの基本的な葬儀の費用、棺・遺影などの付帯費用、寝台車・霊柩車・マイクロバスなどの車両費用、会葬返礼品費用、通夜ぶるまいや精進落としなどの飲食費用、火葬場費用です。これも祭壇の種類や会葬者の数で費用にかなりの差が出ます。
音楽葬の費用相場は演奏形態にかかる費用プラス一般的な自由葬にかかる費用と考えるといいでしょう。
自由葬には演奏費用を追加するプランや、音楽葬プランの用意もありますが、葬儀社によって内容や価格帯が違います。どのような式にしたいのか、どれくらいの規模でしたいのかを明確にした上で、検討することが大切です。
宗教者を招く葬儀でも許容範囲内であれば音楽を流せる
仏式やキリスト式の葬儀でも、宗教的な儀式として許される範囲であれば音楽を流すことは可能です。例えば献花や出棺の際に、音楽を流す等は、それほど多くはありませんが実際に行われています。
宗教宗派によって許容範囲が異なるため、前もって司祭者に詳細を相談しなければなりません。宗教的な儀式と音楽葬の良さを両立させたい場合は、その実績がある葬儀社に依頼するとよいでしょう。
音楽素ができない会館もある
全ての会館で音楽葬ができるわけではありません。火葬場が併設されている会館では禁止されているところもあります。
祭壇は、宗教的儀式を行場合は宗教によって定められた形式となります。無宗教葬であれば制限はありません。カラフルなお花で彩ったり、故人をイメージしたモチーフを使用したりすることが多いようです。
自宅で葬儀を行うことも可能ですが、かなり珍しいケースといえます。自宅葬の経験が豊富な葬儀社に依頼することをおすすめします。
音楽葬への葬儀社の取り組みと対応状況
現在では多くの葬儀社が音楽葬に対応していますが、気を付けなければいけないのが、著作権への配慮です。
生演奏でもCD演奏でも、葬儀社が営利目的で楽曲を流すことになるため、葬儀社が一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)と契約している必要があります。経験が浅い葬儀社では、音楽葬に対応した会場が少なかったり、宗教への配慮が不十分だったりすることも。
経験豊富な葬儀社ではそのような心配もなく、他の事例も知ることができ、安心してお願いすることができます。
一部ですが、音楽葬に強い葬儀社を紹介します。
●花葬儀
Googleで「音楽葬」と動画検索数するとトップに出てくる葬儀社です。東京・神奈川・千葉・埼玉の斎場に対応しており、「オーダーメイドのお葬式」がコンセプト。フラワーデザイナーや空間デザイナーがおり、花祭壇や花を用いた演出が得意です。インスタグラムに多数の投稿があります。
●さくら葬祭
Googleで検索すると「音楽葬」の動画が多数でてきます。東京・神奈川・千葉・埼玉の斎場に対応しており、ホームページでは葬儀の具体的な事例を閲覧することができます。生演奏を得意とし、宗教的葬儀の中での演奏にも対応。音楽葬の研究も行っています。
●アーバンフューネス
形式にとらわれない葬儀を得意とし、メディアに取り上げられたこともありました。東京・神奈川・千葉・埼玉の斎場に対応しており、さまざまなタイプの葬儀経験が豊富な葬儀社です。独自の調査や研究を行っており、葬儀後の供養や遺品整理などサポートも充実しています。
音楽葬の式次第と実際の流れ
葬儀の案内からお通夜と葬儀・告別式の進行について、無宗教葬と仏教の2パターンを解説します。併せて、参列者のマナーについてもふれていきます。
葬儀の案内方法
一般的な仏式のお葬式と同様、故人が亡くなった事実とお葬式の日程と場所をお知らせします。できれば音楽葬であることも伝え、宗教儀式の有無も含めた簡単な式次第・香典・服装についても説明するとよいでしょう。
音楽葬の認知度は高くないので、分からないことはいつでもお問い合わせくだいという姿勢を見せることが大切です。お知らせを聞いた人が安心して参列できるようにしましょう。
音楽葬|当日の流れを宗教別に解説
ここでは多くの方が採用されている流れを解説します。無宗教葬の演出は自由ですので、あくまで一例として参考にしてください。
無宗教葬のお通夜の流れ
開式前 式場やロビーに故人の好きだった曲を流す
1.音楽葬開式
2.黙とう
3.献奏(生演奏またはCD演奏)
4.献花(生演奏またはCD演奏)
5.喪主挨拶
6.音楽葬閉式
7.会食
閉式以降は会食場やロビーに故人の好きだった曲を流す
無宗教葬での告別式の流れ
開式前 式場やロビーに故人の好きだった曲を流す
1.音楽葬会式
2.黙とう
3.音楽葬になった経緯や故人の思い出を紹介
(司会者が読み上げたり、スライドショーで故人の写真を紹介したりします。生演奏やCD演奏などで故人の人生をと音楽で振り返る演出などもあります。)
4.ご遺族や参列者による弔辞と弔電の紹介
5.参列者による献花(生演奏またはCD演奏)
6.喪主のあいさつ
7.音楽葬閉式
8.出棺準備
(BGMを流しながら棺にお花や思い出の品を収める)
9.出棺
仏式でのお通夜の流れ
開式前 式場やロビーに故人の好きだった曲を流す
1.通夜開式
2.読経
3.遺族親族焼香
4.一般参列者焼香
5.通夜閉式
6.通夜ぶるまい
閉式以降は会食場やロビーに個人の好きだった曲を流す
仏式での葬儀・告別式の流れ
開式前 式場やロビーに故人の好きだった曲を流す
1.葬儀告別式開式
2.読経
3.遺族親族焼香
4.一般参列者焼香
5.弔辞・献奏(生演奏またはCD演奏)
6.読経
7.葬儀・告別式閉式
8.出棺準備
(BGMを流しながら棺にお花や思い出の品を収める)
9.出棺
音楽葬における参列者のマナー
参列者のマナーは、一般的なお葬式と大きな違いはありません。しかし宗教的な儀式があるかないかで、香典の表書きや持ち物が変わります。事前に、無宗教葬か自由葬かを必ず把握しておきましょう。
宗教的な儀式がある場合は仏式のお葬式のマナーに準じます。
無宗教葬の場合も、服装に指定がなければ男女ともにブラックフォーマルです。平服といわれた場合は、男性はビジネススーツに黒ネクタイ、女性は控えめな色のワンピースなどを着用しましょう。
そして、数珠は不要です。香典袋はシンプルなものにし、表書きは「御霊前」「御花料」とします。金額は一般的なお葬式と同じです。ご遺族から具体的な指示があったら、それに従います。分からない点は遺族や葬儀社に確認しましょう。
まとめ〜音楽葬と多様化する現代の葬儀
2018年のNHK放送文化研究所の調査結果によると、信仰する宗教があると答えた人は36%でした。
それにも関わらず、現在でも仏教式の葬儀が全体の約80%と大半を占めています。宗教離れが進み、日々の生活では宗教的なしきたりを重要視しない人も、「ご先祖のお墓がお寺にあるから」「家に仏壇があるから」などの理由で葬儀はしきたりにそった仏式にする傾向にあります。
2020年の株式会社ティアによる調査結果によると、葬儀の演出については「生花を祭壇に飾る」(35.0%)が最も高い結果でした。しかし、「遺族や参列者、故人への感謝の気持ちを伝えたい」「趣味、嗜好品、好きな音楽や食べ物を準備したい」などの具体的な回答も多く、故人らしく送り出してあげたいという意向がある方も多いです。
これらの調査結果から、お葬式は宗教的儀式から故人や遺族の想いを表現する場へ変化しつつあると考えられます。
音楽葬もまさにそのひとつ。お葬式は故人の人生にとって、最後の儀式です。
故人と参列者が思いを共有し、納得のいくお別れをしたいものですね。儀式をなぞるだけでなく、ひとりひとりが自分らしいお葬式の方法を模索する時代がきているのかもしれません。