総務省統計局のデータによると、県をまたぐ引っ越しをした人の割合は5年間で人口の約7%。見知らぬ土地のお葬式に出たことがある人は、かなり少数派だとわかります。
葬儀には様々ななマナーがありますが、自分の知る慣習やマナーが当たり前だと思っていませんか?
実は、葬儀のマナーや習慣は都道府県によって大きく違います。知らない土地の葬儀に参列する時は、失礼にならないよう注意が必要です。一般参列者向けのマナーについて都道府県別に解説します。
もくじ
都道府県や地域によって異なるお葬式のマナー
地域で差がある葬儀のマナーは想像以上に多様なものがありました。
葬儀の日取り、火葬の順番、お通夜のマナー等、地域で差がある葬儀のマナーや習慣を解説します。
地域によってマナーが違うのは地理的条件による生活様式の違いから
日本は、地理的条件が異なる地域が多くある国です。北と南、山岳地域と沿岸地域、農村部と都市部などさまざまな環境があります。この物理的環境によって生活様式が異なっているため、地域によってマナーや習慣が大きく変わっているのです。
また江戸時代の幕藩体制では、約250藩がそれぞれ統治を行っていました。これも、地域によって文化が異なる要因となりました。
さらに日本の仏教は13宗56派あり、それ以外にも神道、キリスト教などの多くの宗教が存在していることも要因のひとつです。こうした地理的環境・政治的要素・宗教などから、地域ごとで慣習の違いが生まれました。
地域によって異なるお葬式の風習・作法を紹介
では実際に、どういった違いがあるのでしょうか。地域で差がある独特の風習を紹介します。
友引でもお葬式を行う地域
六曜の一つである友引。中国由来の占いの考え方のため、本来法事とは関係はありません。
しかし友引は「故人が友を引いていく」という印象があり、葬儀を避けるという慣習があります。また友引は葬儀社や火葬場も休業であることが多く、そもそも葬儀ができないという地域も。
しかし富山県・京都府・大阪府・鳥取県・熊本県・沖縄県は友引でも葬儀を行うことが多いです。その際には、故人が友を引いていかないよう、身代わりとして棺に人形を入れる地域もあります。
ちなみに友引以外の日でも、葬儀を避ける場合があります。秋田県は丑の日、和歌山県は三隣亡、島根県は大安を避けて葬儀を行います。
火葬のタイミングが違う!前火葬と後火葬の地域差
火葬は葬儀・告別式の前か後、どちらかで行われます。それぞれ「前火葬」や「骨葬」、「後火葬」とよびます。
全国的には後火葬が多いですが、山地や雪国で移動が困難である、漁業が盛んな地域で船員が帰宅まで時間を要する、温暖な地域でご遺体が傷みやすいといった事情から、前火葬が主流となった地域もあります。
▼前火葬を行う地域
北海道・ 東北 | 青森県・岩手県・宮城県・秋田県・山形県 |
関東 | 千葉県の房総半島・神奈川県の足柄市と小田原市・ 山梨県の甲府市以外 |
中国 | 島根県 |
九州 | 熊本県・沖縄県 |
▼前火葬と後火葬が混在している地域
東北 | 福島県 |
関東 | 茨城県 |
中部 | 長野県・静岡県・愛知県 |
近畿 | 三重県 |
九州 | 熊本県と沖縄県以外 |
後火葬が主流な地域でも、事故や病気でご遺体の損傷が激しい、遠方で亡くなられたなど、場合よっては前火葬になるケースも。
故人のお顔を拝見したいという思いがある場合は注意が必要です。同じ県でも都市部と農村部が離れている場合は、火葬の順番が異なることがあるので気を付けましょう。
お通夜の呼び方は「おつや」「おつうや」「夜伽」など様々
秋田県ではお通夜を「おつうや」と言います。かつては一般的な読み方でしたが、短縮されて現在のような「つや」になりました。
千葉県・鳥取県・島根県・徳島県では「夜伽(よとぎ)」と言います。「夜伽」は夜通し付き添うという意味です。自宅でお葬式を行う際に、お通夜の後に親族や親しい友人が故人の傍らで夜通し話をしていたことの名残です。
お通夜後に会食をする「通夜振る舞い」
通夜ぶるまいとは、お通夜の後の会食のことです。行われない地域から、親族のみの出席、一般会葬者も出席する地域までさまざまあります。関西地方では一般会葬者は出席しないのが主流。
北海道函館市・宮城県・福島県・茨城県北部以外・埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県・新潟県・石川県は一般会葬者も出席します。通夜ぶるまいをすすめられたら一口でも箸をつけるのことがマナーです。
香典とは別に通夜振る舞いにお金を包む
香典とは別に、1000円から2000円ほど包む地域があります。
岩手県は「御夜食料」、宮城県は「お悔み」、秋田県は「御香料」、長野県は紅白の水引の袋で「お見舞い」、三重県・徳島県の「夜伽見舞い」、長崎県の「御目覚まし」です。
また、缶詰やお菓子、お酒などの供物をお持ちする地域も。千葉県の「夜伽見舞い」、愛知県と三重県の「お淋し見舞い」、山口県・福岡県・鹿児島県の「通夜見舞い」です。
焼香の際お盆に小銭を乗せる「焼香銭(しょうこうせん)」
焼香の際にお盆に100~500円程度の小銭を乗せる「焼香銭(しょうこうせん)」という慣習があります。かつては会葬者がお香を持参していましたが、備え付けのお香を使うことが増えたため、その分の小銭をお供えするというものです。
新潟県・富山県・愛知県・兵庫県・広島県では今でもこの慣習があります。兵庫県神戸市の火葬場でのお焼香は「水焼香」を行います。樒の葉に水をつけ、柩に3回振り掛けるというものです。
香典の表書きや渡すタイミングも地域のよって違う
香典の慣習にも違いがある
香典の慣習も地域や宗派によってさまざまあり、表書きや香典袋も異なります。ユニークな仕組みがある地域もあるので、それぞれ細かく解説します。
香典の表書きが異なる地域
多くの宗教・宗派では「御霊前」と書くのが一般的です。しかし、仏教の浄土真宗では「ご仏前」と書きます。浄土真宗は亡くなったと同時に、南無阿弥陀仏によって極楽浄土に導かれ、仏になると考えられているからです。
福井県・富山県・石川県・島根県・佐賀県は浄土真宗の寺院が多いので注意が必要です。仏式であることが分かっている場合は「御香典」とするのもひとつ。
これは宗派に関係なく使用できます。香川県ではお通夜は「御悔」、葬儀は「御香典」と書くのが主流です。
香典袋が異なる地域
お葬式に黄色と白の香典袋を用いる地域があります。京都府・大阪府・兵庫県で、コンビニエンスストアなどでも販売されています。
京都では黒が忌み嫌われていから、皇室へ献上する特別な玉虫色の水引が黒と白に見えて紛らわしいからなど諸説あります。
現在は喪主が宗教者へお渡しするお布施を入れる際に用いられることが多いです。一般参列者は白と黒の香典袋も使用するケースも増えており、どちらでも失礼にはあたりません。
埼玉県秩父地域や新潟県ではお通夜の香典に紅白の水引をかけた香典袋に「お見舞い」と書いて用いることがあります。
香典を渡すタイミングが違う地域
茨城県県南地域では、お香典を3回渡すことがあります。故人が亡くなってすぐに赤い水引の袋に「病気見舞」と書いて渡し、お通夜の際には「通夜見舞」、葬儀では「御香典」を渡すという慣習です。
滋賀県の一部地域では、近隣住民は葬儀に香典を持参しないこともあります。葬儀・告別式と初七日が終わった翌日に会食の席が設けられ、これに招待され場合にのみ香典を持参するという慣習です。
この時に渡す香典を「こうぎ」と呼びます。大分県大分市内では通夜と葬儀・告別式両方に参列する場合、通夜のときは香典を出さずに供養品を受け取った後そのまま帰り、葬儀のときに渡します。
香典をその場で確認する地域
北海道は受付で香典袋の中身を確認し領収書を発行します。そのため、芳名帳に記入はしません。広島県も同様に、受付で香典袋の中身を確認します。
ユニークな香典「新生活」と「村香典」
群馬県と栃木県にはユニークな香典の慣習があります。「新生活」といって香典の金額をあえて少なくし、香典返しを辞退するというものです。
この場合、香典袋の表の左わきに「新生活」「新生活運動の趣旨に添って お返しを辞退致します」と書きます。受付も「一般」と「新生活」に分かれています。
三重県では近隣の人たちが1,000円~3,000円程度、一定の額をお香典として持ち寄って故人にお供えする、「村香典」というものがあります。故人を知らない人であっても、一律で集める地域もあるようです。
47都道府県別のお葬式の風習やマナー
一般参列者の参考になる情報をまとめました。
北海道
芳名帳に記名しません。受付で香典袋の中身を確認し、領収書を発行するのが通例です。
青森県
葬儀の前に火葬する前火葬が一般的です。
岩手県
前火葬が多いですが、火葬後数日開けてからお通夜を行うのが特徴。基本的に招待された人が会葬します。お通夜の時間が決まっていない地域があります。
宮城県
通夜ぶるまいに対し、香典とは別に「お悔み」として1000円お包みする地域があります。
秋田県
前火葬が主流ですが、お通夜をせずに火葬後に葬儀・告別式を行う一日葬もあります。
山形県
前火葬が多いです。お通夜のことを「おつうや」とよぶ地域があります。
福島県
前火葬と後火葬の地域があります。遺族は通夜ぶるまいなどの接待をせず、近隣の人が行うという考え方があります。
茨城県
香典を3回に分ける地域があります。訃報を聞いたときにすぐ、赤いのし袋に「病気見舞い」と書いたものをお渡しします。お通夜では「通夜見舞い」、お葬式では香典をお渡しします。また、神式と仏式の葬儀が混在しています。
栃木県
多くは後火葬です。通夜ぶるまいは親族のみの場合があります。
群馬県
香典には「新生活」というものがあります。香典返しが必要にならない1000円から3000円くらいの金額をお包みします。受付には新生活と一般があるので注意が必要です。通夜ぶるまいは行われないこともあります。
埼玉県
前火葬と後火葬の地域が混在します。お通夜の香典は紅白の水引があしらわれた香典袋に「お見舞い」と書いてお渡しする地域があります。
東京都
後火葬が多いです。お通夜に多くの一般会葬者が参列し、通夜ぶるまいが行われ、告別式は親族のみというケースが主流です。東京都は火葬場が少ないので、亡くなられてから1週間後に葬儀というケースも珍しくありません。一般会葬を辞退する家族葬も増えています。
神奈川県
東京都とほとんど同じです。通夜ぶるまいには必ず箸をつけるのが慣習になっています。
千葉県
都市部は東京都とほとんど同じで、房総半島では前火葬が主流です。地域によって古くからの風習が残っているので注意してください。
山梨県
甲府市地域以外の多くは前火葬です。わずかですが、土葬する地域もあります。
新潟県
後火葬が多く、東京に似た慣習ですが、お通夜の香典は紅白の水引があしらわれた香典袋に「お見舞い」と書いてお渡しする慣習があります。
福井県
「廻り焼香」を行うことがあります。お通夜や葬儀の前から参列し、お焼香が済んだ人から帰るというものです。
長野県
近隣住民で組織された隣組のつながりが強く、地域によっては仕事を休んでもお手伝いするという考えもあります。お通夜は紅白の水引があしらわれた香典袋に「お見舞い」と書いてお渡しのが慣習です。
石川県
後火葬が主流です。浄土真宗が浸透している地域なので、香典は「御仏前」と書きます。
富山県
一般会葬は告別式に参列することが多いです。浄土真宗が浸透している地域なので、香典は「御仏前」と書きます。
静岡県
前火葬と後火葬の地域があります。地域によって細かい会食の風習があるので、注意が必要です。
岐阜県
前火葬と後火葬の地域があります。通夜ぶるまいは親族のみが主流です。家族葬が増加傾向にあります。
愛知県
前火葬と後火葬の地域があります。出棺でのしきたりが地域によって細かく分かれています。
三重県
前火葬と後火葬の地域があります。近隣の人が1000円から3000円程度を持ち寄る「村香典」というものがある地域があります。お通夜では香典のほかに食料品をお渡しする「夜伽見舞い」の慣習があります。
滋賀県
後火葬が主流です。一部の地域では、近隣の人が参列する場合、香典は葬儀の後に渡すことがあります。
京都府
後火葬が多いです。香典は白と黄色の水引を使用します。家族葬が増加する傾向にあります。
大阪府
友引でも葬儀が行われます。京都と同様に香典は白と黄色の水引ですが、地域によっては白と黒の水引なので注意が必要です。供花として樒塔を多く出しますが、順位があるので供花を希望する場合はご遺族に確認しましょう。
兵庫県
後火葬が多いです。京都と同様に香典は白と黄色の水引ですが、地域によっては白と黒の水引なので注意が必要です。お焼香を水で行う地域があります。
奈良県
後火葬が多いです。お香典は白と黒の水引を用います。通夜ぶるまいは親族のみで行います。
和歌山県
友引や三隣亡でも葬儀を行います。通夜ぶるまいは親族のみで行うのが一般的です。
鳥取県
後火葬が多いです。友引でも葬儀場を行います。お通夜のことを「伽」「夜伽」とよぶことがあります。
島根県
前火葬が多いです。西部地域では通夜が主流、東部地域では葬儀・告別式が主流となっているので注意が必要です。出雲大社があるため、大安を避ける風習があります。
岡山県
後火葬が多いです。香典のことを「くがい」と呼ぶ地域があります。また、お通夜のことを「伽(とぎ)」「夜伽(よとぎ)」とよぶことがあります。
広島県
後火葬が多いです。香典はその場で中身を確認する慣習があります。友引や酉の日は葬儀を避けていましたが、最近ではその限りではないです。
山口県
後火葬が多いです。香典の他に果物や米などの供物をお送りする慣習があります。
徳島県
後火葬が多いです。お通夜では一般会葬者へ向けた通夜ぶるまいが行われます。
香川県
後火葬が多いです。香典の表書きにはお通夜は「御悔」、葬儀は「御香典」と書くのが一般的です。
愛媛県
後火葬が多いです。通夜ぶるまいは親族のみに行われるのが一般的です。
高知県
後火葬が多いです。神仏習合の名残があり、神式と仏式が混在します。わずかですが、土葬を行う地域があります。
福岡県
前火葬と後火葬の地域があります。お通夜では香典の他にお酒や缶詰などの通夜見舞い用意することがあります。
佐賀県
前火葬と後火葬の地域があります。通夜ぶるまいは親族のみに行われます。
長崎県
前火葬と後火葬の地域があります。お通夜を行わない地域もあります。
熊本県
前火葬が多いです。お通夜には香典の他にお酒や缶詰などの「夜伽見舞い」を渡すことがあります。
大分県
前火葬と後火葬が混在しています。お通夜には「通夜見舞い」として、1,000円程度を香典と別に包む地域があります。
宮崎県
後火葬と前火葬が混在しています。通夜ぶるまいは親族のみです。神道が多くいので葬儀のマナーの違いには注意が必要です。
鹿児島県
前火葬と後火葬の地域があります。通夜ぶるまいは親族のみの場合と、一般会葬者もにも振舞われる場合があります。
沖縄県
前火葬が多いです。一般の人も新聞の訃報欄に掲載されます。お通夜は親族や親しい友人のみで行います。古い風習の残る地域では、妊婦など参列できない人がいます。
お葬式のマナーは地域によってさまざま、知らない土地の葬儀に参列するときには要注意
故人の冥福を祈り、最後のお別れの場である葬儀。しきたりの違いは、生活習慣や価値観の違いでもあります。
仕事や結婚などで知らない土地の葬儀に参列する際には、失礼がないよう火葬の順番・お通夜・香典袋・焼香のマナーなどに気をつけましょう。