現在の日本では、御影石(みかげいし)で作られたお墓が大半を占めていますが、墓石として使われる石の種類は300以上あります。
もともと御影石ではなく大谷石がよく墓石に選ばれていましたが、御影石が選ばれるようになったのには日本ならではの理由がありました。
なぜ、日本では御影石が墓石に選ばれるようになったのか、理由と歴史を解説します。
もくじ
墓石によく使われる御影石(みかげいし)とは
現在の日本でよく見られる、表面がツルッとして光沢のある墓石の多くは、御影石(みかげいし)から作られています。御影石は日本の墓石の大半を占めており、新しい墓石の多くは御影石が用いられたものです。
そもそも、御影石とはどのような石なのでしょうか?
御影石とは岩石の一種で最高級の石材のこと
墓石として使われている石の種類は300以上ありますが、日本のお墓の大半で使われているのが「御影石」です。
御影石とはマグマが地殻の深いところで冷え固まった石材のこと。いわゆる「岩石」の一種で、吸水率が低く耐久性や色、艶ともに最高級の石材として知られています。
御影石は墓石としてだけでなく、鳥居や道標などとして古くから使われていました。かつての御影石による石造物はゴツゴツしていましたが、加工技術が発展している現代では、ピカピカに磨いて艶を出し加工したものが、さまざまな建造物などに使われています。
花崗岩と御影石は同じもの
「花崗岩」も墓石によく選ばれる石ですが、実は花崗岩と御影石は全く同じものです。花崗岩は「石」としての名前であり、御影石は「石材」としての名前です。
花崗岩が御影石と呼ばれるようになったのは、兵庫県神戸市の御影地区が由来と言われています。
花崗岩自体は日本全国で採れる石ですが、御影地区の花崗岩をほかと区別するために「本御影石」と呼ばれることも。
なお、墓石として使われる御影石には「黒御影石」や「白御影石」があります。
お墓のパンフレットなどで、白御影石と黒御影石で表現が分かれている場合、一般的な花崗岩を指しているのは白御影石です。一方の黒御影石は、花崗岩ではなく「斑レイ岩」のことなので間違えないように注意しましょう。
御影石が墓石に選ばれるようになった理由を解説
現在、日本のお墓の大半が御影石を用いたものだと言われています。御影石が墓石に選ばれるようになった理由は、御影石が墓石にふさわしい石だったからです。
御影石が墓石に選ばれるようになった理由を詳しく解説します。
御影石は非常に耐久性が高い
御影石は火気に弱いものの、非常に耐久性が高く寿命が長い丈夫な石です。
海外ではお墓に細かな彫刻を施すケースが多いため、加工しやすい大理石が選ばれています。
一方、日本のお墓は細かい彫刻を施すことはほとんどありません。
そもそもお墓は長く引き継がれるものなので、墓石には高い耐久性が求められます。そのため、加工のしやすさではなく耐久性の高さを重視し、御影石が選ばれるようになりました。
磨けば磨くほど美しく輝く
御影石は岩石が結晶化してできた石なので、磨くと結晶が美しく輝きます。
大理石も磨くと美しい艶が出てきますが、御影石の艶も大理石に遜色ないほど光沢が美しいです。
さらに、丁寧に手入れを続けることで、御影石の艶と光沢は持続します。
石そのものの耐久性だけでなく長く美しさを持続できるところも、御影石が墓石に選ばれるようになった理由のひとつです。
全く同じ模様や色は存在しない一点もの
御影石は黒雲母や白雲母、カリ長石、斜長石、角閃石などさまざまな鉱物からできています。
鉱物の混ざり方が不規則であり、産地によって鉱物の種類や割合も違うので、御影石の墓石は全く同じ模様や色のものは存在しません。
一点もので全く同じものが存在しないため、個性を表現できるなどの理由で、多くの人に選ばれるようになったと言われています。
御影石が墓石に選ばれるようになった歴史を解説
現在では墓石と言えば御影石が定番ですが、もともとは違う石がよく選ばれていました。
なぜ御影石が選ばれるようになったのか、墓石の歴史を解説します。
以前は御影石ではなく大谷石が墓石に選ばれていた
お墓の歴史は非常に古く、埋葬の風習自体は約15000~2300年前の縄文時代からありました。
現在よく見かける形式のお墓になったのは、明治時代。正式にお墓が現代の形式になるように規定されたのは、第2次世界大戦終了後の1946年に制定された「墓地、埋葬等に関する法律(墓地埋葬法)」からです。
しかし、当時からお墓の大半を御影石が占めていたわけではなく、墓石として選ばれていたのは大谷石でした。
大谷石は耐火性と防湿性に優れており、石垣や擁壁、かまど、防火壁などあらゆる場所に使われています。また、柔らかくて加工がしやすいのも大谷石が墓石に選ばれていた理由のひとつです。
阪神淡路大震災から御影石を墓石に用いられるようになった
御影石が大谷石に代わってよく選ばれるようになったのは、ここ30年くらいからです。大きなきっかけは、1995年に起きた阪神淡路大震災だと言われています。
日本の建物の耐震性を強化するきっかけにもなった阪神淡路大震災では、多くの建造物や道路が崩壊しました。さらにお墓も倒壊し、大谷石で作られた墓石は崩壊が相次ぎました。
ちなみに2011年3月11日に起きた東日本大震災でも、大谷石で作られた墓石の崩壊が多数見られています。
墓石の倒壊が相次いだことを契機に、加工のしやすさではなく耐久性に優れている頑丈な石を選ぶ傾向が強くなり、御影石が墓石に用いられるようになりました。
御影石は非常に頑丈だから長く受け継がれる墓石に選ばれている
御影石が墓石に選ばれるようになった大きなきっかけは、阪神淡路大震災で墓石の崩壊が相次いだからです。
お墓は家で代々受け継がれるものなので、加工のしやすさよりも頑丈で長く美しさを持続できる石がふさわしいとされています。
柔らかくて加工しやすい大谷石よりも、非常に耐久性に優れている御影石が墓石に選ばれるようになりました。
大谷石は多孔質で表面がゴツゴツしている一方で、御影石は磨くと表面が滑らかになり、艶と光沢を出し美しく輝きます。大理石と遜色ない光沢とメンテナンスのしやすさも、長く受け継がれる墓石に選ばれるようになった理由のひとつです。
墓石に選ばれている石の種類は300以上ありますが、災害が多く、天候の移り変わりも激しい日本だからこそ、御影石が多く選ばれているのでしょう。