故人があの世へ旅立つ四十九日まで、お線香は故人にとっての食べ物だと考えられています。さらにお線香の煙は、あの世(幽世)とこの世(現世)を繋ぐ架け橋となるため、煙を通じて仏様と心を通わせ、故人と対話する意味もあります。
お線香をあげる意味は宗派や地域によって大きな違いはないものの、あげ方の作法や本数には違いがあるので、基本的なマナーを知っておきましょう。
お線香の基本的なあげ方とともに、宗派や地域による特徴的なマナーについて解説します。
もくじ
お線香の基本的なあげ方とやってはいけない行為を解説
お線香をあげることは、故人や仏様と繋がる意味を持つ大切な行為です。ただあげればいいわけではなく、あげ方には決まりがあります。
お線香の基本的なあげ方とともに、やってはいけない行為などを解説します。
お線香は基本的に「立てて」あげる
お線香のあげ方は地域や宗派によって異なりますが、一般的には立ててあげるのが基本です。お線香のあげ方の基本的な手順は以下の通りです。
- 左手に数珠を持つ
- お仏壇の前で一礼と合掌をする(立ったままか座るかは状況に応じて判断)
- ろうそくに火を灯す
- ろうそくの火からお線香に火を点ける
- お線香から煙が出たら香炉に立てる
- おりんを1回鳴らす
- 合掌と遺影に一礼をする
法要などで遺族や参列者の前でお線香をあげる場合は、最初にお仏壇の前で遺族に一礼をしてからお線香をあげ、最後に再度遺族に一礼をして終了です。
複数人でお線香をあげるときは空いているスペースに立てる
ひとりでお線香あげる場合は香炉の中央に立てるのが基本ですが、複数人であげる場合は香炉の空いているスペースにお線香を立てましょう。
また、お線香を複数本あげる場合はくっつけて立てても、間を空けて立てても問題ありません。ただ、お線香をあげる人数が多い場合は、香炉のスペースを確保するために、くっつけたまま立てるとよいでしょう。
お墓参りでお線香をあげるときは束で供えても大丈夫
お墓参りでお線香をあげるときも、宗派によってお線香の本数が決められている場合があります。しかし、無宗教や宗派で決まりがない場合は束のままあげても問題ありません。
束であげる場合は帯を外してもそのままでも、どちらでも良いです。ただし、帯に火が移って燃えかすが残ることや、火事の原因になる可能性もゼロではないので、なるべく帯は外してからあげた方が良いでしょう。
また、お線香を束の状態であげる場合は火が点きにくくなったり、強く燃えてしまったりする場合もあるので注意が必要です。
お線香に直接火を点けたり息を吹きかけて消したりするのはNG
お線香をあげるときにやってはいけない行為が、「直接お線香に火を点けること」と「息を吹きかけて火を消すこと」です。
お線香に火を点けるときはライターなどで直接点けるのではなく、まずはろうそくに火を灯してから点けましょう。また、お線香を複数本あげる場合は、本数に関わらずまとめて火を点けます。
そしてお線香を供えるときは火を消しますが、火を消す際は絶対に息を吹きかけないようにしてください。基本的にお墓やお仏壇に息を吹きかける行為自体マナー違反なので、お仏壇のろうそくの火も息をかけて消してはいけません。
息を吹きかけて消してはいけない理由は、人間の口は穢れたものを飲み食いし、悪口などを言うことから不浄なものだとされているからです。不浄な口からお線香に息を吹きかけることは、仏様につばをかける行為と同等でとされており、故人や仏様に非常に失礼な行為です。
お線香自体を振って消す行為も、火の粉が飛び散って仏様に火傷を負わせてしまう恐れがあるため避けてください。故人や仏様に失礼のないよう、お線香の火は手であおいで消すようにしましょう。
宗派や地域によって違うお線香のあげ方の特徴的なマナー
基本的なあげ方の通りに備えればとくに大きな問題はありませんが、宗派や地域によってはそれぞれで特徴的なマナーがあるケースもあります。
宗派や地域によって違うお線香のあげ方を解説します。
お線香は宗派によって本数や立て方が違う
お線香の宗派によってあげる本数や立て方が違います。
- 浄土宗・臨済宗・曹洞宗・日蓮宗:1本に火を点け、香炉の中央に立てる。
- 浄土真宗本願寺派:1本を2つに折って同時に火を点け、火が左向きになるように横に寝かせる。また、おりんは鳴らさない。
- 真宗大谷派:1~2本を2つに折って同時に火を点け、火が左向きになるように横に寝かせる。
- 天台宗・真言宗:3本同時に火を点け、手前に1本、お仏壇側に2本の逆三角形になるように立てる。
お線香を故人にあげる際、故人もしくは遺族の宗派の方法に合わせます。初めてお線香あげる場合は、必ず故人や遺族の宗派とあげ方の決まりを確認してからあげましょう。
関東ではお墓に供えるときはお線香を横向きに寝かせる
かつて、関東地方ではお墓にお線香をあげる際は香炉に立てて供えていました。しかし、現在では横向きに寝かせて供える方法が主流です。横向きが主流になった理由は、複数人でお墓参りをする際に、たくさんの線香を供えることができるからだと言われています。
浄土真宗本願寺派や真宗大谷派も横向きに供えますが、横向きの場合は基本的に火が点いている方を左側に来るように置きましょう。
関西ではうず巻き線香を仏前に供える
関西地方では、うず巻き型の仏前用線香を使います。うず巻き線香と言えば、蚊取り線香の印象が強いですが、関西地方では蚊取り線香のように平面状のまま使用するのではなく、専用の香炉でお線香の中央を持ち上げて釣り鐘状にして使用します。
仏教では人が無くなってから49日間は、お線香を絶やしてはいけないとされています。うず巻き線香は長時間燃やし続けられるので、お線香を絶やさずに四十九日を向かえることが可能です。
ちなみにうず巻き線香は12時間ほど持つものが多く、中には2メートル以上の大型で数日もつものもあります。
北陸では長香炉にお線香を寝かせて供える
関東地方では、お墓参りでお線香をあげる際に寝かせる方法が主流でしたが、北陸地方ではお仏壇に供える際も長香炉にお線香を寝かせてあげる方法が主流です。
北陸地方には浄土真宗本願寺派が多いため、地域の風習として長香炉を使用することから主流になったのでしょう。
沖縄ではヒラウコー(平線香)をあげる
沖縄では全国的に使われている細いお線香ではなく、平たい形状になっている「ヒラウコー(平御香)」を使用します。細いお線香との違いは形のみで、役割はお線香そのものと同じです。
ヒラウコーは6本一対でくっ付いた板状になっており、1人が焚くのは半分の3本がほとんどです。3本焚くのが主流な理由は、天地人の調和を意味するからだと言われています。
宗教や地域によってお線香のあげ方には細かな違いがある
お線香は故人や仏様と繋がる意味を持つだけでなく、上品な香りで自分自身や空間を清める意味もあります。ただし、あげ方を間違えるとお線香を穢して、故人や仏様に失礼な行為になってしまうことも。
また、宗教や地域によってお線香のあげ方に細かな違いもあります。お線香あげるときはまず、基本的なあげ方や宗派・地域による特徴的なマナーを理解してから、故人や仏様に失礼のないように心がけましょう。