日本には固有の「神道」と呼ばれる宗教があります。あらゆるものに神を見出し崇める宗教で、よく聞く「八百万の神」というのは神道による考え方です。
日本では葬式の9割以上が仏教式ですが、次いで多く行われているのが神道のお葬式。
神道の葬式は「神葬祭」と呼び、仏教と異なる意味で執り行われるため、儀式の形式や流れも全く違います。
神道の葬式の執り行いかたについて、費用相場や葬儀社の対応状況と頼み方を交えて解説します。
もくじ
神道(神式)の葬式と仏教の葬式の違いとは
神道の葬式を神葬祭と言いますが、仏教の葬式とは意味や内容が大きく異なります。
神道の葬式と仏教の葬式の違いについて、それぞれの考え方を解説します。
仏教(仏式)の葬式は故人を極楽浄土に送るために行われる
仏教の葬儀は、宗派によって違う部分はあるものの、葬式は故人を極楽浄土に送り出すに行われるものです。
仏教では故人の魂が天国に行くか地獄に行くかは、10人の王(十王)によって審判が下されると考えられています。
初七日法要や四十九日法要(七七日)など、忌明けまで7日ごとに法要がある理由は、その日に十王による審判が行われるからです。法要を行い故人を供養することで、生前あまり行いがよくなかった人であっても、極楽浄土への道が開かれるとされています。
最終審査は四十九日の日に7番目の泰山王によって下されますが、正式に行き先が決まるのは三回忌の日に行われる10番目の五道転輪王による審判です。
浄土真宗では故人は仏様に導かれて極楽浄土に行くと考えられているため、一般的な供養の考え方とは異なりますが、葬式は故人を極楽浄土へ送り出すために行われるという考えは共通しています。
神道の葬式は故人を守護神にするための儀式
神道の葬式である神葬祭は、仏教と異なる意味で行われます。
仏教は故人を極楽浄土へ送り出す儀式であるのに対し、神葬祭は「故人を家に留めて守護神にするための儀式」です。
仏教では死後生まれ変わる「輪廻転生」という考え方がありますが、神道では故人は家を守り続ける守護神になると考えられているので、輪廻転生の考え方はありません。
そして神道では肉体は魂の器と捉えられており、生命は神からお任せになられたもので、いずれは返さなければならないと考えられています。
生命を神に返すときが「死」ですが、神道では死は穢れや災いであると考えられているため、故人を守護神にするために儀式によって死の穢れを清める必要があるのです。
神道の葬式(神葬祭)の執り行い方と葬儀社への頼み方を解説
神道の葬式である神葬祭の流れは、仏教の葬式と全く異なります。そのため、神葬祭を執り行うために必要な手配も違い、葬儀社によっては対応していないケースも・・・。
では、神道の葬式を執り行うには、どのように進めればよいのでしょうか?
神道の葬式の執り行い方を当日の流れとともに、葬儀社への頼み方や対応状況を交えて解説します。
神葬祭は日本古来の葬法だから多くの葬儀社が対応している
日本では葬式の9割以上が仏教式ではあるものの、実は多くの葬儀社が神道式の葬儀「神葬祭」に対応しています。
そもそも死を穢れと捉えられている神道では、汚れを神社に持ち込むことはできないと考えられているため、自宅や専用の葬儀場などでしか葬儀ができません。
また、神葬祭自体は日本古来からある葬法であり、必要なものや設備もほとんど仏教式の葬儀と変わらないので、多くの葬儀社で対応してもらえます。
葬儀社への頼み方は神式の葬儀で申し込むだけです。葬儀社によっては対応していないケースもゼロではないため予め確認をする必要がありますが、神式で申し込めば専用のプランを案内してもらえます。
突然の訃報で神葬祭に対応できる葬儀社を探せるか不安な場合は、予めインターネットや資料請求などを利用して事前に調べておきましょう。
神道ではご臨終から儀式が始まる
神道ではご臨終した時点で儀式が始まります。神葬祭を行う日程が決まったら、当日までに神葬祭を執り行うにあたって必要な儀式を終わらせておきましょう。
帰幽奉告(きゆうほうこく)
故人の訃報を神棚や祖霊舎(仏壇のようなもの)に奉告し、神棚に穢れが及ばないように扉を閉じて白い半紙を貼る「神棚封じ」を行います。神棚封じは神道の忌明けである五十日祭まで続きます。
枕直しの儀
ご遺体に白い小袖を着せ、北枕にして寝かせます。さらに祭壇を設置し、米や酒、水などを枕飾りのように供えます。
納棺の儀
ご遺体を棺に納めて白い布で覆い、拝礼します。
神葬祭の流れは通夜祭から始まり帰家祭で終了
神葬祭は仏教式の一般葬と同じく、通夜から葬儀・告別式までを2日間に渡って執り行います。
「通夜祭」|神葬祭1日目、はじめに行う儀式
神葬祭1日目はまず、「通夜祭」から始まります。
- 手水の儀:会場の入口にて手水を行い、参列者が入場します。
- 神職者・遺族入場:神職者と遺族が入場するので黙礼します。
- 開式の辞:始まりの改札です。斎主に合わせて一同が拝礼します。
- 献饌・奉幣:奏楽の中で供物をお供えします。
「遷霊祭」|通夜祭の後に行う儀式
通夜祭が終わると斎主一拝より「遷霊祭」が始まります。
- 遷霊詞を奏上し霊璽を仮霊舎に奉遷:遷霊詞を唱えて霊が霊璽に移り、仮霊舎に納めます。
- 献饌・遷霊祭詞
- 玉串奉奠:斎主より玉串を受け取り、喪主から遺族、近親者、一般参列者の順番で玉串を捧げます。
- 閉会の辞
- 通夜ふるまい
神葬祭で行われる「玉串奉奠」とは、仏教の焼香にあたるもので、故人への手向けとして行います。玉串は榊の枝に四手という白い紙片を下げたもので、玉串奉奠は祈りを玉串にのせて神に捧げ、故人の魂を慰める儀式です。
「葬場祭」|神葬祭2日目、はじめに行う儀式
玉串奉奠は神葬祭2日目にも行われます。神葬祭2日目は「葬場祭」から始まります。
- 手水の儀
- 神職者、遺族入場
- 開式の辞
- 修祓の儀:神官が会場と参列者を清めるお祓いをします。
- 献饌・奉幣:
- 祭詞奏上:故人の冥福と遺族の加護を祈ります。
- 誄詞奏上:故人の生前の徳を讃えます。
- 弔電紹介・弔辞拝受
- 玉串奉奠
- 撤幣・撤饌:奏楽の中で供物を下げます。
- 神職者退場
- 閉会の辞
「帰家祭」|葬場祭の後に行う儀式
葬場祭閉会後は火葬祭。埋葬祭、帰家祭を行います。
- 遺族と故人が最後の対面をして、小石で棺の蓋に釘打ちをします。
- 出棺:火葬場に行かずに残った人は後祓を受けます。
- 祭詞奏上:火葬炉の前に棺を安置し、祭詞を唱えます。
- 玉串奉奠
- 火葬・骨上げ
- 埋葬祭:遺骨を墓に納め、銘旗や花を供えます。
- 帰家祭:火葬から帰ってきたら門口で神官によるお祓いを受け、手を洗い塩で清めます。霊前に神葬祭が終わったことを奉告します。
- 直会の儀:神職者やお世話になった人を招いて宴を行います。
神道の葬式(神葬祭)の費用相場を解説
神道の葬式は仏教の葬式と流れが全く異なるため、費用も大きく差が出ると思われがちです。しかし、必要な設備などはほとんど変わらないので、実際の葬儀費用は仏教の葬式とほとんど変わりません。
神葬祭に必要なものと費用内訳とともに、費用相場について解説します。
神葬祭に必要なものと費用内訳
玉串のような特有のものもありますが、神葬祭で必要なものは仏教の葬式とほとんど変わりません。以下は神葬祭に必要なものの費用です。
- 式場使用料:約5~10万円(規模によって異なる)
- 祭壇:全国平均約54万円(神道専用以外にもさまざまな種類の祭壇あり)
- 遺影写真:約4万円
- 棺:約14万円(素材や形状で価格が大きく異なる)
- 玉串:1本100~200円程度
- 神饌物:約2~4万円
- ドライアイス:約1万円
- 供花:1基約1~2万円、1対約3~4万円
- 火葬費用:約1~5万円程度(地域によって異なる)
- 骨壷:約1万円
- 返礼品・香典返し:1個あたり約3,000円
- 通夜ふるまい:1人前あたり約3,000円(料理によって異なる)
- 直会の食事:1人前あたり約5,000円
- 人件費:スタッフ1人につき約3万円
- 湯かん(着せ替え、メイク):約13万円(不要な場合は納棺費用はかかりません)
- 御祭祀料:神職者1人あたり合計約15~20万円
そのほかにも安置費用や搬送費用など、必要に応じてさまざまな費用が加算されます。
神道の葬式の費用相場は仏教の葬式とほぼ変わらない
神道の葬式では仏教の葬式とは異なる部分が多いですが、実際の葬儀費用はほとんど変わりません。
仏教の一般葬の場合、50名程度なら約70~90万円、150枚程度であれば約100~120万円が相場ですが、神道も同じように人数規模に応じて約80~140万円程度が相場となります。
地域や人数規模、食事の有無などによって大きく変動しますが、100万円以上かかるケースが多いです。
神道の葬式は仏教と違うので事前に確認を
神道の葬式で必要な設備は、仏教の葬式とほとんど変わりません。
しかし、必要な道具や葬儀の流れが違うので、多くの葬儀社が対応しているとは言え事前に確認することをおすすめします。
また、日本の葬式の9割以上が仏教式なので、参列者や近親者の中には神葬祭の流れや作法を知らない人もいらっしゃるでしょう。
葬式のご案内を行う際は神葬祭であることを事前に伝えておくと親切です。