
大切な人との最後のお別れを前に、故人の姿を美しく整えたいと考える方は多いでしょう。その際に重要な役割を果たすのが「エンゼルケア」です。しかし、エンゼルケアの具体的な内容や費用については、十分に知られていないのが現状です。ここでは、エンゼルケアの基本知識から費用相場、手順、依頼時の注意点までを徹底解説します。この情報を参考に、故人との最後の時間を大切に過ごすための準備をしていただければ幸いです。
エンゼルケアとは

エンゼルケアとは、亡くなった方の身体を清潔に保ち、生前の姿に近づけるための処置です。「エンゼル」は故人が天使のように安らかな姿で旅立つことを願って名付けられました。
似たような意味で「エンバーミング」があります。エンゼルケアはご遺体を表面的に整えるのに対し、エンバーミングは修復や防腐処理など、体内にまで及ぶ処置を行うため、処置の範囲や目的が異なります。
エンゼルケアの目的
エンゼルケアが行われる主な4つの目的をご紹介します。
感染症の予防 | 体液や血液の漏出を防ぎ、遺族や医療従事者の安全を確保。 |
ご遺体の状態保持 | 腐敗を遅らせ、葬儀までの間、故人の姿を整え続ける。適切な処置を行うことで、通常3〜4日程度の保存が可能に。 |
故人の尊厳維持 | 生前の姿に近づけることで、故人の人柄を偲ぶ機会を提供。可能な限り健康だった頃の姿に近づけることで、遺族の心の負担を軽減する効果も期待できる。 |
遺族の心のケア | 遺族が自らケアに参加することで、死の受容を促す効果が期待できる。最後のコミュニケーションの機会となる。 |
エンゼルケアは故人があの世へ旅立つ際の、身支度の一環でもあります。旅立ちをお見送りする意味でも、エンゼルケアは重要な役割を担っていると言えるでしょう。
エンゼルケアを行う人
エンゼルケアは、看護師もしくは葬儀社のスタッフが行います。
看護師が医療器具の除去や創傷ケアを重点的に行い、運搬後に葬儀社スタッフがエンゼルメイク(死に化粧)や清拭を実施するケースも多いです。
なお、高度な防腐処置や修復が仏様な場合は、エンゼルケアではなくエンバーミングを行うため、エンバーマーがケアを施します。
エンゼルケアの費用相場

エンゼルケアの費用は、実施場所や内容によって大きく異なります。エンゼルケアの費用相場について、実施場所別にご紹介します。
病院でのエンゼルケアの費用
病院でのエンゼルケアの費用相場は、5,000~30,000円程度です。医療器具の除去や清拭を含めた基本処置費が10,000円前後で、追加オプションが加算される形になります。
追加オプションの相場 | |
エンゼルメイク | 約5,000円程度 |
特殊清拭(褥瘡ケア等) | 約10,000円程度 |
冷却処置 | 約3,000~5,000円程度 |
ただし、病院によっては「看護師の人件費」として別途費用が発生する場合があります例えば、夜間や休日の対応では、基本料金の30~50%増しになることも。
また、家族の立ち会いが制限されるケースもあるため、なにか希望がある場合は事前に確認をするとよいでしょう。
訪問看護によるエンゼルケアの費用
訪問看護によるエンゼルケアの費用相場は、15,000~50,000円程度です。時間帯や処置の複雑さ、移動距離などによって費用が増減します。
訪問看護によるエンゼルケアは、自宅で最期を迎え、なおかつ訪問看護を実施している場合に行われます。
自宅でのエンゼルケアになるため、家族の立ち会いや参加が可能です。そのため、故人との最期の時間を大切に過ごすことができます。
葬儀社によるエンゼルケアの費用
葬儀社によるエンゼルケアはパッケージに含まれる場合と、別途オプションとして提供される場合があります。
エンゼルケア単独での費用相場をご紹介します。
サービス内容 | 費用相場 |
基本エンゼルケア | 約10,000~30,000円程度 |
高度なエンゼルメイク | 約15,000~50,000円程度 |
湯灌(ゆかん)付き | 約30,000~100,000円程度 |
葬儀社によるエンゼルケアは、医療行為が不要な場合や、高度なメイクアップを希望する場合に適しています。ただし、医療器具の除去などは対応できない場合があるため、事前に確認が必要です。
エンゼルケアの費用は保険適用される?

エンゼルケアは医療保険の対象外です。なぜならば、エンゼルケアは医療行為ではなく「死後処置」に分類されるからです。
ただし、一部の自治体では「葬祭費補助金」の対象となる場合があります。例えば神奈川県横浜市では最大50,000円の補助を実施していますが、葬儀全般の費用に適用されるため、エンゼルケアの補填にすることが可能です。
また、生命保険の特約として「エンゼルケア特約」を付けている場合、一定額の給付金が支払われることがあります。ただし、特約を提供している保険会社は限られているため、加入時に確認することをおすすめします。
エンゼルケアの手順

エンゼルケアの具体的な手順について解説します。なお、実際の手順は故人の状態や家族の希望によって異なる場合があるため、一例として参考にしてください。
1. 医師による死亡確認とご家族への説明
医師が死亡を確認後、看護師が遺族に状態を説明する際に、エンゼルケアの必要性や内容が伝えられます。
医療機関によっては「普段着を持参してください」などの指示が出る場合もあるため、必要なものを準備しておきましょう。
2. エンゼルケアの説明とご意向確認
看護師が具体的な処置内容を提示します。家族の希望(化粧の有無・衣類の選択など)を詳細に確認します。
故人の生前の希望や宗教的な配慮が必要な場合は、その確認を行い、尊重した内容でエンゼルケアを実施します。
また、場合によっては家族の参加希望の有無を確認することも。
3. 必要物品の準備
エンゼルケアに必要な物品を準備します。
- 清拭用タオル(温タオル用と乾拭き用)
- 消毒液(クロルヘキシジンなど)
- 保湿剤
- 綿棒・ガーゼ
- 歯ブラシ・口腔ケア用スポンジ
- 髭剃り(男性の場合)
- 化粧品(家族の希望がある場合)
- 保冷剤やドライアイス(必要に応じて)
基本的には病院が葬儀社側に用意してもらえますが、着替えの服が必要な場合は、遺族が用意しなければなりません。事前に確認をして、必要に応じて準備を進めましょう。
4. 医療器具の抜去と創傷のケア
点滴チューブやカテーテルを慎重に除去します。創傷部は消毒後、専用パッドで保護します。
ケア内容の一例 |
・点滴や輸液ラインの抜去 ・尿道カテーテルの抜去 ・胃ろうチューブの抜去(該当する場合) ・気管内チューブの抜去(該当する場合) ・創傷部位の消毒と保護 |
体液の漏出に注意が必要な男系です。適切な処置を行うことで、腐敗を遅らせる効果も期待できます。
5. 口腔・眼・鼻のケア
口腔内を湿潤ガーゼで清掃。眼瞼を閉じるための専用テープを使用し、鼻孔に綿を詰めます。最近ではゼリーを使用する施設が増加しています。
ケア内容の一例 |
・口腔内の清拭と消毒 ・義歯の装着(家族の希望がある場合) ・目を閉じる処置(専用テープまたは綿球を使用) ・鼻腔へのケア(綿球またはゼリーを使用 |
口腔ケアは体液の漏出や悪臭を防ぐ効果があります。また、目を自然に閉じた状態にすることで、安らかな表情を作ることができます。
6. 洗髪・清拭・着替え
38℃前後の湯で清拭します。爪切りやひげ剃りを実施し、故人の好みに合わせた衣類を選びます。
ケア内容の一例 |
・全身の清拭(温タオルを使用) ・洗髪(ドライシャンプーを使用することも) ・爪のケア(必要に応じて爪切り) ・ひげ剃り(男性の場合) ・故人の好みの衣服に着替え |
すでに体液の漏出や悪臭を防ぐ処理が行われた後のため、遺族が参加するケースも多いです。故人の好きだった服を選んだり、思い出の品を身につけたりすることで、最後のコミュニケーションの機会となります。
7. 肌の整え・髭剃り・化粧(エンゼルメイク)
特殊な化粧品(耐水性ファンデーションなど)を使用して、表情を整えます。闘病中の血色不良を補うため、頬に淡いピンクを入れることが多いです。
エンゼルメイクは、故人の生前の姿に近づけることが目的で行われます。家族の希望があれば、故人が普段使用していた化粧品を使うことも可能です。
葬儀社によっては、葬儀中にエンゼルメイクを実施することもあります。
8. ご遺体の冷却
保冷剤やドライアイスを使用し、腐敗を遅らせます。病院では冷蔵庫(コールドルーム)を利用する場合もあります。
適切な冷却処置を行うことで、通常3〜4日程度の保存が可能に。なお、季節や環境によって必要な処置が異なります。
9. ご家族へのお見送りの声がけ
ゆっくりお別れの時間を過ごすための声がけと案内があります。必要に応じて写真撮影のサポートも行います。
エンゼルケアを依頼する際の注意点

エンゼルケアを依頼する際に注意するべき点についてご紹介します。
費用の内訳を事前に確認する
エンゼルケアの費用は、サービス内容によって大きく異なります。後にトラブルへ発展させないために、合計の費用だけでなく内訳もきちんと確認をしましょう。
確認するべきポイント |
・基本料金とオプション料金の区別 ・時間外手当の有無(夜間は+30%が目安) ・消費税の取扱い ・交通費や出張費の有無 ・追加処置が必要になった場合の料金 |
合計金額だけでなく、細かな内訳がわかるように見積もりを出してもらってください。細かく内訳を確認することで、不要なオプションを削除したり、必要なサービスを追加したりすることができます。
解約やキャンセルポリシー
急なキャンセルに対する費用負担とキャンセルポリシーについては必ず確認をしましょう。解約やキャンセルポリシーは、業者によって異なるため、わからない場合は直接問い合わせることもおすすめです。
また、「エンゼルメイクのみキャンセル」といった部分的な変更が可能かどうかも、事前に確認しておくとよいでしょう。
訪問看護と病院のどちらを利用するか
訪問看護と病院でのエンゼルケアには、それぞれ違った特徴があります。そのため、故人や家族の希望に合わせて選ぶことをおすすめします。
訪問看護と病院のエンゼルケアの違いは以下の通りです。
比較項目 | 病院 | 訪問看護 |
費用 | 約5,000~30,000円 | 約15,000~50,000円 |
対応時間 | 通常業務時間内 | 24時間対応可能 |
医療処置 | 高度な処置可能 | 基本処置のみ |
家族の立ち合い | 制限あり(感染症対策) | 自由 |
環境 | 病院の設備を利用 | 自宅の環境で実施 |
故人との時間 | 限られる場合が多い | ゆっくり過ごせる |
宗教的配慮 | 対応が限られる場合がある | 柔軟な対応が可能 |
自宅で最期を迎えたい場合は、事前に訪問看護ステーションと契約しておくとよいでしょう。
また、病院で亡くなった場合でも、自宅に戻ってからエンゼルケアを行うことも可能です。病院から自宅に戻る場合は、病院と訪問看護の連携が必要となります。
最終的には、故人の意思を尊重しつつ、遺族の心情に配慮した選択をしましょう。
まとめ

エンゼルケアは、故人の尊厳を守り、遺族の心のケアを行う重要な処置です。費用相場は5,000円~100,000円と幅広く、依頼先や処置内容によって大きく異なります。
エンゼルケアは、単なる処置ではなく、故人との最後の大切な時間です。専門家のサポートを受けながら、家族で協力して故人を送り出す準備をすることで、心に残る最後の時間を過ごすことができるでしょう。