医学の研究や発展に貢献できるなどの理由で、最後のボランティアとして献体に興味を示す方が増えています。しかし、献体としてご遺体を提供するかどうかは最終的に家族が決めるため、献体者と家族がきちんと向き合うことが重要です。
また、献体後に葬儀を行う場合、一般的な葬儀とは流れや状況が違うので、僧侶や周囲への理解が得られにくいデメリットも。
そのため、意義ある行為であっても献体をするかどうかはしっかり考えて検討する必要があります。
そもそも献体後のご遺体はどうなるのでしょうか?献体後に葬儀を行う場合の流れや登録方法について、献体者と家族の向き合い方を交えて解説します。
もくじ
献体後はどうなる?葬儀の流れと返還期間を解説
医学の研究や発展において必要不可欠な献体ですが、献体をするとお通夜から火葬までを行う一般的な葬儀はできません。
そもそも献体後のご遺体はどうなるのでしょうか?献体後の葬儀の流れを、ご遺体の返還期間とともに解説します。
献体とはご遺体を医学の研究や発展のために提供すること
献体とは医学や歯学の研究や発展のために、ご遺体を提供することです。提供されたご遺体は主に、医師を目指す学生たち解剖学の授業で使われます。
近年では、「最後に世の中の役に立ちたい」「身寄りがないので献体に出したい」と献体を希望する方が増えているようです。
献体としてご遺体を提供しても、遺族にお金が入るわけではありません。また、生前に登録が必要ですが、登録料は無料です。
献体後は遺骨となって遺族に返還される
提供されたご遺体は主に解剖学の授業で使われます。解剖が終わったご遺体は、火葬された後に遺骨となって遺族のもとに返還されます。火葬にかかる費用を負担するのは、遺族ではなく提供先の団体です。
提供したご遺体はすぐに解剖されるわけではありません。
ご遺体を解剖するためには防腐処理などを施す必要があるため、提供されてから実際に解剖が始まるまで、早くても半年ほどかかります。
長期間に渡り段階的に解剖が行われるうえに、カリキュラムやご遺体の数に応じて解剖を始める時期が調整されるので、解剖が始まるまでに1年以上かかるケースもあります。
遺骨が返還されるまで早くても1年ほど、長ければ3年以上もかかるので、葬儀を行う場合は一般的な葬儀と異なる形式で執り行う必要があるのです。
献体後に葬儀を行う場合の流れは2通りある
献体にご遺体を提供しても、葬儀を執り行うことは可能です。
献体後に葬儀を行う場合はご遺体のない状態で行うか、遺骨が返還されてから行うかの2通りあります。
どちらにしても、ご遺体のある状態の葬儀とは形式が異なるので、葬儀社や僧侶への相談は必須です。
なお、葬儀にかかる費用は提供先の団体が負担するわけではないので注意しましょう。
1:献体後にご遺体なしで葬儀を行う場合の流れ
ご遺体がない状態で葬儀を行う場合、棺桶は用意せずに、祭壇に遺影と供花を飾って葬儀を執り行います。なお、遺骨となって返還された際に、再度葬儀を行うケースもあるようです。
ちなみに、葬儀社によっては献体に対応したプランを用意しているところもあるので、事前に故人が献体を希望していたことを伝えておきましょう。
2:遺骨が戻ってから葬儀を行う場合の流れ
ご遺体が遺骨となって戻ってから葬儀を行うケースもあります。遺骨での葬儀を「骨葬」と言います。お寺や宗派によっては骨葬ができない場合があるため、事前に骨葬の可否を確認しておきましょう。
献体後に遺骨が返還されてから葬儀を行う場合は、すでに火葬が終わった状態からスタートします。
以下は、献体後に遺骨が返還されてから葬儀を執り行う場合の一例です。
1.お通夜
一般的なお通夜と同じ流れで行います。ただし、棺桶ではなく遺骨の前にお参りのためのスペースが設けられます。
2.葬儀・告別式
お通夜の翌日に葬儀と告別式を行います。一般的な葬儀・告別式と同じように僧侶の入場から始まり、読経や焼香を経て閉式の辞で終了です。
3.会食
火葬がすでに終了しているので、火葬場へは向かいません。会食がある場合は葬儀・告別式終了後に行われます。
なお、お通夜を省いたり、火葬の代わりに納骨を行ったりするケースもあります。地域や葬儀社によって流れに多少の差があるので、希望通りの流れで葬儀が執り行えるのかきちんと確認をしておきましょう。
葬儀後に献体としてご遺体を提供することも可能
葬儀後に献体としてご遺体を提供することもできます。葬儀後に献体する場合は、お通夜や告別式は通常通りの流れで行いますが、火葬は行わません。
そのため、告別式終了後に火葬場には運ばず、生前に登録していた提供先の団体に運ばれます。
火葬は献体後に提供先の各団体が行うので、火葬や搬送の費用はかかりませんが、お通夜や告別式にかかる費用は遺族が負担しなければなりません。
献体者と家族の向き合い方とは
献体は未来の医学を支えるための意義ある行為です。しかし、献体者の意思と家族の考えが必ずしも一致するわけではありません。
献体には家族の同意が必要なので、献体を望んでいるなら家族ときちんと向き合う必要があります。
献体者と家族の向き合い方について、それぞれの立場から解説します。
献体には献体篤志家団体か医科歯科大学への登録が必要
そもそも献体を行うためには、献体篤志家団体もしくは近隣に医科歯科大学へ登録する必要があります。
献体に登録する流れは以下の通りです。
1.申込書を取り寄せる
献体篤志家団体もしくは医科歯科大学に問い合わせて、申込書を取り寄せます。近年ではインターネットからの申し込みが可能な団体も増えているので、まずは各団体の申し込み方法を確認しましょう。
2.申込書の記入・送付
必要事項を記入したら申込書を各団体へ送付します。なお、申込書には肉親もしくは家族の同意を示す捺印が必要です。
3.献体登録証発行
申込書が受理されたら献体登録証が発行されます。献体登録証は不慮の事故などに備えて、常に持ち歩くことをおすすめします。なお、死亡時の連絡方法や登録先の団体情報が書かれているので、無くさないように注意しましょう。
家族に理解してもらうには献体の必要性を伝えることが大切
たとえ自分自身が献体を希望していても、家族は反対するケースも少なくありません。
家族からしてみれば、火葬までご遺体を見届けたいと思うのは当たり前です。なによりも、自分の大切な家族の体が知らない人たちの手で解剖されるのは、残された家族にとって気分がいいものではないでしょう。
自分の死後に家族に献体を理解してもらうためには、献体者自身がまずは家族と向き合う必要があります。
そもそも、家族の同意がなければ献体に登録することすらできません。
最後のボランティアにと献体を希望するのであれば、口先だけでなく、資料などを交えながら家族に献体の必要性を理解してもらうように努めましょう。
医療の発達に献体がどれだけ重要なものなのか、きちんと理解してもらうことで、同意を得られるかもしれません。
たとえ息を引き取ったとは言え、なにをされるかわからないようなところに家族を送り出すのは不安です。献体への理解を深めてもらうことは、家族の不安を取り除くことでもあります。
家族の不安を取り除ければ向き合ってもらいやすくなるので、献体を希望するなら献体の必要性を理解してもらうところから始めましょう。
家族は何年も遺骨が戻らないことを覚悟する必要がある
献体者の家族は、献体したら何年も戻ってこないこと、また、返還される際はすでに遺骨になっていることを覚悟してください。
家族なら火葬されるまで見守りたい気持ちはあるでしょう。しかし、献体する場合は最後まで見守ることができません。
ただし、遺骨は必ず返還されます。戻ってきたとき「おかえりなさい」と笑顔で出迎えられるように、日々の供養を忘れないようにしましょう。
最終的に献体するかどうかは家族が決める
最終的にご遺体を提供するかどうかは家族が決めます。献体前に再び同意が必要なので、生前に故人の献体に同意していたとしても拒否することができます。
故人の意思を尊重するのであれば、逝去された際に進んで献体登録先の団体へ連絡を入れましょう。
献体は未来の医学を支える最後のボランティア。故人が最後に世の役に立とうとしている姿は、きっと仏様も見ているはずです。
家族は故人の意思を尊重して、日々の供養を疎かにせずにいれば、極楽浄土への道は開かれるでしょう。葛藤はあるかもしれませんが、故人の意思を大事に思うところから向き合ってみてください。
献体後の葬儀は遺骨の状態で行われるので周囲の理解を得ること
献体後のご遺体は遺骨になって返還されます。そのため、献体後に葬儀を行う場合は、すでに遺骨になっていることを周囲に伝え、理解を得てから葬儀を行いましょう。
そもそも遺骨の状態で葬儀を行う「骨葬」自体は、一部の地域では一般的であり、ご遺体の損傷が激しい場合でも行われるので、特段に珍しい葬儀というわけはありません。
しかし、中には骨葬ができないお寺や葬儀社もあるので、献体後に葬儀を行う場合は、骨葬に対応しているかしっかり確認しておきましょう。