自分が生きている間に配偶者お子様お孫様などに財産を贈与する「生前贈与」。節税対策の一つとしても知られており、上手く活用すれば大幅に節税できる可能性があります。
しかしその一方で使い方を誤ると、贈与税が多額になってしまったり、相続時にトラブルになってしまったりすることもあります。正しいやり方や注意点を知っておきましょう。
生前贈与の知識やメリット、注意点について解説します。
もくじ
生前贈与とは?
生前贈与とは、相続発生前に贈与により、予め配偶者や子、孫などに財産を贈与しておくことです。様々な目的やメリットがありますが、制度の内容がかなり複雑であり、また頻繁に改正されます。この記事では基本的な内容をまとめました。
生前贈与をするメリット
生前贈与は、相続発生前に将来の相続人等に贈与によって財産を移転することですが、次のようなメリットがあります。
- 予め相続財産を減らせるという相続税の節税対策
- 相続時のトラブル防止。遺産分割において、被相続人の意思をあらかじめ反映させることができ、相続時の相続人の間の紛争を防止できる。
- 法定相続人以外の人にも自分の財産を分けることができる。(例:お世話になった知人や長男のお嫁さん等)
生前贈与の注意点
生前贈与を相続税の節税対策として用いるには、贈与税・相続税の専門的な知識が必要です。贈与税の税率は相続税よりも相当に高く、下手な使い方をすると、多額の税金がとられかねません。
また、生前贈与が節税対策として使われることから、富裕層が財産を次世代に有利に移すことができ、富める者は世代を超えて富み貧富の格差がそのまま継承される、といった批判もあります。そのため、生前贈与についての税法上の優遇措置は、しばしば改正が行われます。
ご自身の相続に関して、どのように生前贈与を有効に活用するのか、また、直近時点でどのような改正があり、ご自身の相続にどういう影響があるのか、専門家にしっかり相談することが必要です。
1:相続税については大きな基礎控除があります。
基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)。
課税される相続財産がこの範囲ならば、相続税は一切かかりません。
これを超える部分について、法定相続分に応じて次の税率で相続税が計算されます。
法定相続分に応ずる所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | – |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超え | 55% | 7,200万円 |
参考:国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」
2:贈与税については、年間110万円の基礎控除があるだけで、税率も相続税と比べて割高になっています。
出典:財務省「もっと知りたい税のこと」『4.「相続税」と「贈与税」を知ろう』などより抜粋
生前贈与を相続で上手く活用する方法
それでも、生前贈与をうまく使えば、全体の税金を安くすることができます。生前贈与を相続対策として上手く活用するための代表的な方法をご紹介します。
暦年贈与
贈与税は1年間でもらった金額が110万円までならば「基礎控除」として税金がかかりません。従って、贈与したい相手に年間110万円以内で贈与することはよく行われます。これが暦年贈与ですが、2つ注意点があります。
110万円の非課税枠は財産をもらう人についての枠です。例えば、お子様がお父様とお母様から110万円ずつ贈与を受ければ合計220万円です。110万円分について贈与税がかかります。
また、例えば毎年同じ時期に同じ額の贈与を繰り返していると、「定期的な贈与の約束ではないか」とみられて、多額の贈与税が課される可能性もあります。税理士等の専門家にしっかり確認しましょう。
住宅取得資金の一括贈与
両親や祖父母等から成人が住宅取得資金の贈与を受ける場合、一定の条件のもとに最大1,000万円までの贈与が非課税になる制度です。
贈与される年の翌年3月15日までに、贈与された金額を全額あてて住宅用家屋を新築・取得・増改築し、対象の住宅に居住すること、等細かな条件があります。省エネ住宅なら1,000万円まで、それ以外なら500万円までが非課税となります。この特例は2023年12月31日までの時限措置です。
参考:国税庁「No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」
教育資金の一括贈与
両親や祖父母等から30才未満の方が教育資金の贈与を受ける場合、一定の条件のもとに最大1,500万円までの贈与が非課税になる制度です。教育資金用の口座に入金し、教育資金として使う場合に払い出すことができますが、教育資金として払われたことを教育機関等の領収書などで証拠として示す必要があります。30才までに使い切れなかった残額は、贈与税の対象になる等、細かな要件があります。2026年3月までの時限措置です。
※23年度税制改正で時限措置の期限が2026年3月までに延長されています。ネット情報等では従来の「2023年3月まで」という記述も残っているようです。注意が必要です。
参考:NHK ニュース2022年12月12日「祖父母や親から教育資金 贈与税非課税措置 要件見直し延長方針」
結婚子育て資金の一括贈与
両親や祖父母等から18歳~50歳の方が結婚子育て資金の贈与を受ける場合、一定の条件のもとに最大1,000万円までの贈与が非課税になる制度です。贈与を受ける人(受贈者)の金融機関の口座等に結婚、妊娠・出産、子育てに必要な資金を拠出する際に贈与税が非課税となるものです。結婚関係は婚礼、家賃等、引越し等に係る費用、妊娠・出産、子育て関係は、不妊治療・妊娠・出産・産後ケア・子の医療費・育児に係る費用などが非課税の対象になります。
期間中に贈与者が死亡した場合には、残高は贈与者の相続財産に加算されます。また、受贈者が50歳到達時に制度が終了し、残高には贈与税が課税されます。2025年3月までの時限措置です。これも23年度税制改正で時限措置の期限が25年3月まで延長されたものです。
夫婦間での居住用不動産の贈与
婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合、基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで控除(配偶者控除)できるという特例です。
国税庁「No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」
相続時精算課税
相続時精算課税制度は、生前に合計2500万円まで贈与をしても贈与税はかからないが、相続の際に贈与額を相続財産に足し戻し、この2500万円を含めて相続税がかかる、という制度です。贈与税と相続税の控除や税率の違いを考慮して、うまく使えば、全体の納税額を少なくすることができます。但し、いったんこの制度を使う選択をした間柄では、前述の暦年課税制度は使えなくなります。
これについても、今般の改正で、24年以降は相続時精算課税制度に新たに「年110万円の基礎控除」の枠が加わりました。2024年1月1以降、相続時精算課税制度を選択した人への贈与でも、年110万円までなら贈与税も相続税もかからず、贈与税の申告も不要になります。
生前贈与の注意点
生前贈与については、頻繁な改正が行われています。前述の様々な税制上の優遇措置も様々な改定が行われてきています。また特に、住宅取得資金、教育資金、結婚子育て資金、それぞれについては、期限が定められ、使い残しがあった場合等には課税されるといった問題もあります。
マスメディアでも、ネットでも、いろいろな解説が掲載されていますが、中には古い情報がそのまま残っているものもあります。実際にこのような特例を使おうとお考えの場合には、専門家に相談しないと間違いをおかしかねません。
生前贈与を活用した相続対策の相談をするなら税理士法人へ
以上のように、生前贈与を活用した相続対策は、うまく使えば大きなメリットが得られますが、贈与税相続税に相当詳しい人でなければ、使いこなすことは困難でしょう。頻繁に改正も行われているので、ネット情報等を鵜呑みにすると、改正前の古い情報であったり、説明が不十分であったりして、間違いをおかしかねません。
相続対策に詳しい税理士法人に相談されることを、強くお勧めします。
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■執筆者
社会保険労務士 玉上 信明(たまがみ のぶあき)
三井住友信託銀行にて年金信託や法務、コンプライアンスなどを担当。定年退職後、社会保険労務士として開業。執筆やセミナーを中心に活動中。人事労務問題を専門とし、企業法務全般・時事問題・補助金業務などにも取り組んでいる。
【保有資格】社会保険労務士、健康経営エキスパートアドバイザー
■監修者
相続・贈与相談センター赤坂支部
税理士 城 行永(じょう ゆきひさ)
税務と生命保険、不動産の専門知識によって総合的な相続税コンサルティングを行っております。さまざまなケースに対応できますのでご質問ご相談はなんでもお気軽にご連絡ください。
【保有資格】税理士 生命保険募集人 宅地建物取引士
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