近年、生前に葬儀を契約する「プレニード」を行う人が増えています。
利用者増加の理由は、葬儀を生前契約することで自分らしい葬儀ができたり、遺族への負担が減らせたりなどさまざまなメリットがあるからでしょう。
しかし、プレニードならではのデメリットや注意点もあります。
そもそもプレニードとはどのようなものなのか、意味や考え方、メリットなどを詳しく解説します。
葬儀を生前に契約する「プレニード」とは
近年、日本で広がりを見せているプレニードは、海外からきた文化・考え方です。
では、プレニードとはどのような意味なのか、利用者増加の背景とともに解説します。
プレニードの本来の意味は「生前契約」
プレニード(プレニードー/pre-need)とは「生前契約」のことです。
プレニードはアメリカやフランス、イギリスなどの欧米を中心に広がっている文化・考え方です。
葬儀におけるプレニードは「お葬式の生前契約」
近年、日本でさまざまな形式の結婚式が開催されていますが、葬儀にも多様化の動きが広がっており、「自分らしい葬儀がしたい」と考える人が増えています。そのため、日本でも生前に葬儀のプランやコースを自分で考え、自分で契約をするプレニードを選択する人が増えてきました。
生前契約を行う場合、自分と喪主もしくは行政書士、葬儀社の三者間にて葬儀生前契約書を締結する必要があります。喪主候補者がいない場合は、自分と行政書士の間で死後事務委任契約の締結が必要です。
また、喪主候補者の有無に関わらず、自分と行政書士で公正証書遺言も同時に作成する場合もあります。
ちなみに生前契約は葬儀の内容だけでなく、終末期の過ごし方から契約可能です。例えば、どのような終末期を送りたいか、財産管理や精算、遺骨の安置場所、埋葬についてなど、契約内容は多岐に渡ります。
日本では「生前予約」としてプレニードが使われることもある
プレニードは生前契約のことを指しますが、日本では生前予約の意味で使われることもあります。
生前予約は単純に葬儀社との契約のみを指します。日本では生前契約よりも生前予約として、「プレニード」という言葉が使われるケースが多いです。
生前契約に比べて契約内容に厳密さは求められませんが、自分らしい葬儀を自分で契約することに変わりありません。
葬儀社によっては費用を前払いする場合を「生前契約」、前払いをせずに内容だけ決めるのは「生前予約」と使い分けているケースもあります。
プレニード利用者の増加の背景には家族への想いがある
プレニードを利用することで、自分の死後に希望通りの葬儀ができるようになります。
そして、葬儀の内容も手配も費用の支払いも全て生前に自分で行えるので、残された家族の負担を最小限にすることができます。
「好きな花でいっぱいの祭壇にして欲しい」「棺桶は華やかな装飾が付いているものがいい」など、自分らしい葬儀を執り行いたいと思っている人がプレニードを利用するケースは多いです。
しかし、一方で家族にあまり負担をかけたくない、死後に迷惑をかけたくないなど、家族への想いからプレニードを利用する人も増えています。
かつては親戚や近隣住民が一丸となって協力し、葬儀を営むのが普通でしたが、近年、核家族化が進み「ご近所付き合い」も少なくなっているため、少人数で準備を進めなくてはならないケースが増加しています。
社会の変化に合わせて人々の考え方が変わっていくので、おそらく今後もプレニード利用者は増加していく可能性が考えられるでしょう。
プレニードの利用と葬儀までの手順を解説
通常、葬儀は死後から家族や近親者が準備を始めるものですが、プレニードの場合は自分で準備を進める必要があります。
プレニードの利用と、実際に葬儀を執り行うまでの手順を解説します。
プレニードを利用する手順
プレニードを利用するためには、まずは自分で葬儀会社を決めます。
資料請求をしたり、ホームページを見たりして自分の理想に近いプランがある葬儀社を選びましょう。
どうしても決められない場合や、プランの内容がよくわからない場合は、仲介業者を挟んで相談するのもおすすめです。
また、葬儀社を決めるときはサービス内容や、料金システムについてきちんと説明を受けてから決めてください。
実際に消費生活センターには、葬儀社の説明が十分ではなかったなどの相談が届いているので、わからない部分はきちんと理解できるまで確認しましょう。
できれば1社ではなく複数の葬儀社から説明を受けてから決めることをおすすめします。
契約する葬儀社を決めたら、具体的な葬儀の内容を相談します。一般葬にするか家族葬や一日葬にするか、どんな祭壇を使うか、用意して欲しい棺や会食、香典返しなどの詳細を決めましょう。
葬儀の内容が決まったらプレニード(生前契約)を進めます。前払い制の場合は葬儀費用を支払い、契約書などを作成してプレニードを成立させます。
契約内容が実行されるのは契約者本人が死亡したときです。
家族がプレニードを利用したことを知らなかった場合、費用を支払っていても実行されないので、必ず家族や周りの人にプレニードを利用したことを知らせておきましょう。
プレニードによる葬儀を執り行う手順
プレニードによる葬儀を執り行う場合は、契約者の死後に生前に契約した葬儀社に家族が連絡を入れます。
余裕があれば死後ではなく、危篤・重篤に陥った時点で連絡を入れるとよいでしょう。
なお、危篤・重篤の場合は回復する可能性があるので、まだ亡くなっていないことをきちんと伝えてください。もし、存命のうちから死後についての連絡をすることに抵抗があれば、連絡する必要はありません。
葬儀社に連絡を入れたら、プレニードで決めた内容に従って葬儀を執り行います。
また、支払いが済んでいない場合や、追加料金が発生した場合は支払いも済ませましょう。
葬儀のプレニードを行うメリット
葬儀の契約を生前に自分で行うプレニードには、遺族や自分にとってさまざまなメリットがあります。
では、プレニードにはどのようなメリットがあるのか解説します。
自分の希望通りの葬儀ができる可能性が高くなる
プレニードは予め自分で葬儀の内容を決めておくので、希望通りの葬儀ができる可能性が高くなります。
通常は死後に葬儀の内容を決めるので、急いで準備を進めなければなりませんが、プレニードならじっくり時間をかけて葬儀の内容を決められます。
また、予算が厳しくて妥協しなくてはいけない部分も、プレニードなら妥協する必要はありません。
意識はその場になくても、家族と過ごす最後の時間なので、素敵な儀式にしたい人にとって、プレニードは有効な手段だと言えるでしょう。
遺族の精神的・肉体的負担を減らせる
葬儀は悲しい想いを抱えたまま、限られた時間の中で多くの決定事項や準備に対処する必要があります。
そのため、遺族の精神的・肉体的負担は非常に重いものになります。
しかし、プレニードなら生前に内容を決めているため、遺族は葬儀社に連絡を入れて最低限の準備をするだけで葬儀を執り行えます。
準備に割く時間を故人と過ごす時間にできるうえに、少しの余裕が生まれるので、遺族の負担を減らすことができるでしょう。
遺族の経済的負担を減らせる
プレニードを利用する場合、葬儀費用は基本的に前払いです。全額前払いか一部のみか、全額事後払いかは葬儀社によって対応が異なりますが、前払いするケースが多いです。
例え前払いでなくても、予め葬儀にかかる費用はわかっている状態なので、葬儀費用を自分で用意することができます。
状況によっては追加で費用が発生する可能性もありますが、遺族の経済的負担を減らせるのはプレニードならではのメリットと言えるでしょう。
身寄りがない人でも利用可能
葬儀は家族もしくは近親者が執り行うのが一般的です。
そのため、自分の葬儀を頼める人がいない身寄りのない人は、自分の死後に不安を抱いたまま最期を迎えることもあるでしょう。
プレニードは行政書士を挟むことで、喪主候補者がいなくても利用可能なので、死後の不安を解消することができます。
プレニードを行うデメリットと注意点
プレニードにはメリットがたくさんありますが、デメリットも多いです。中には、まだ考え方が広まっていない日本ならではのデメリットもあります。
致命的なリスクもあるので、契約前にプレニードのデメリットをきちんと理解しておきましょう。
プレニードを家族に反対されるケースがある
自分の死と向き合う「終活」は一般的になりつつあるものの、生前から葬儀を契約するという考え方はまだ一般的ではありません。
終活は死と向き合うものの、身の回りを整理することが中心なので、抵抗を見せる人は少ないですが、死について具体的にイメージをするプレニードは受け入れ難い人も多いです。
そのため、プレニードを家族に反対されるケースもあります。
家族の同意なしに契約可能ですが、滞りなく契約を実行してもらうためには、きちんと家族の理解を得る必要があるでしょう。
葬儀社が倒産すると前払金が返ってこないリスクがある
プレニードは性質上、実行の時期が不確定です。もしかすると実行までに数十年以上かかるかもしれません。
そのため、万が一契約先の葬儀社が倒産した場合、前払金が返ってこないリスクがあります。
事前に葬儀費用を支払っておくことで、経済的負担を家族にかけずに済む安心感はありますが、すぐに実行されるわけではない分、リスクが大きいのはプレニードの致命的なデメリットだと言えるでしょう。
なお、2021年1月時点で消費者保護の法整備がされておらず、消費者トラブルの増加が懸念されています。
当時の契約よりも大幅な値上げが行われるリスクがある
プレニードは実行時期が不確定なので、葬儀社の方針によって当時の契約よりも大幅な値上げが行われるリスクもあります。
例えば、当時は100万円で契約できたプランが、年月を経て50万円以上の値上げが行われる可能性があるということです。
大幅な値上げがあっても、契約当時の金額で葬儀が行えるケースもありますが、葬儀社によっては差額を遺族に請求するケースもあります。
値上げした金額にもよりますが、場合によっては遺族の経済的負担が重くなる可能性もあるでしょう。
逆に大幅な値下げがあり、損をしてしまう可能性もあるかもしれません。
商品の価格が変動するのは珍しいことではありませんが、葬儀の場合は費用が大きいので、値上げのリスクも考慮する必要があるでしょう。
プレニードはメリットが多いがリスクも考慮するべき
死と向き合う「終活」が広まっている中で、プレニードも自分らしい最期を迎えられるとして今後も利用者が増加する可能性が考えられます。
しかし、現時点ではまだまだプレニードは一般的な考え方ではありません。
自分らしい葬儀が行える、家族への負担が減らせるなど、さまざまなメリットがありますが、法整備も不十分なため致命的なデメリットもあります。
もしプレニードを検討するのであれば、リスクもしっかり考慮して決めるべきでしょう。