リビングウィル5~実践編|書式やポイントを解説します

リビングウィル5~実践編|書式やポイントを解説します

自分の人生の最期のとき、どのような治療やケアを受けたいか事前に意思表示することで、家族も医療従事者もそれに基づいて行動することができます。意思表示の方法としては、リビングウィルやアドバンス・ディレクティブなど、さまざまな書式があります。

アメリカのように法律がある国は既定の書式がありますが、日本は法律がないため書式も自由です。そこで、生前の意思を書こうと思っている人に具体的な書式を解説します。

実は、生前の意思表示は単に書くということではあまり意味を持ちません。そればかりかあなたの意思とは違った解釈をされる可能性すらあります。実際に取り組む前にこの記事も参考にしてください。


基本的に書式は自由

厚生労働省や全日本病院協会、日本尊厳死協会などが書式を公開しています。また、独自の書式を用意している病院もあります。

主治医がいる場合は、書式について相談してみましょう。いない場合は自分が書きやすいものでかまいません。市販のエンディングノートもあります。エンディングノートは遺産や遺品、葬儀のことも書くことができます。そのほかにも弁護士や行政書士にお願いする方法もあります。

どのような書式であっても、医療従事者はあなたの意思を尊重するので安心してください。この記事は最期のときの指示書に特化した内容になっています。

 書くだけではなく共有することが大切

最期のときがどのような状態なのか、明確に予測することは困難です。そのため、あらゆることを想定した書類は作成できません。いざその時を迎えたとき、これに関して触れていなかった・・・、ということが起こるかもしれません。また、状態によって医療処置がもたらす効果や予後は異なります。

ひとこと「人工呼吸器は不要」とあっても、予測された経過をたどり最後を迎えるときなのか、一時的な病状の悪化なのかで人工呼吸器のもつ意味は変わります。指示書に書いていない事態が起こったとき、あなたが意思表示できなければ周囲の人々がそれを見てあなたの意思を予測することになります。あなたの意志決定の根底にある人生観や価値観を周囲の人に理解してもらうことが最も重要です。


各書式の解説

インターネット上で閲覧することができる書式を3つ紹介します。厚生労働省のものは2019年9月に開設されたもので、まだあまり知られていません。

しかし、医療をつかさどる厚生労働省が推奨する方法なので一読することをおすすめします。その他に全日本病院協会とリビングウィルの先駆的な団体である日本尊厳死協会の書式について解説します。

厚生労働省の書式

厚生労働省では人生の最期とのきについて話し合い、事前に意思表示することを「人生会議」と呼んでいます。ゼロからはじめる人生会議というサイトでは、人生の最期を考える上で参考になる情報があり、ネット上で指示書を作成できます。書いた内容はWeb上に保存できないので、数回にわたって記入したい場合は印刷することをおすすめします。

手書きで作成したい場合は神戸大学のHPに同じ内容のPDF版があります。

ステップ1では自分にとって大切なことや自分の最期がどのようなものでありたいかイメージを整理。ステップ2は代理決定者の選出。ステップ3は主治医への相談。ステップ4は話し合い。ステップ5はまとめという内容で、医療処置の指示というより、思考のプロセスを重要視しています。

(厚生労働省ゼロからはじめる人生会議)

(神戸大学アドバンス・ケア・プランニング)

全日本病院協会

終末期医療に関するガイドラインの添付資料として掲載されており、この書式の内容は実際多くの病院で採用されています。PDFファイルなので印刷してそのまま使えます。

輸液、中心静脈栄養、経管栄養、昇圧剤、心肺停止時の蘇生術、人工呼吸器、その他の治療について希望する、希望しない、わからないという3択で〇をつけるような形式です。そして、それ以外のことについての判断を委ねる代弁者を書きます。

とてもシンプルで分かりやすい内容になっていますが、なぜその選択をしたのかということを記入する部分がありません。病院で使用する場合は、病状に関して説明している、あなたや家族の意向を確認しているなど、話し合いがされているという前提だからです。

(全日本病院協会終末期医療に関するガイドライン)

 日本尊厳死協会

ホームページで書式の内容が閲覧できます。会員になるとリビングウィルを協会で保管してもらえ、原本証明つきのコピーと会員証が届きます。会報や電話相談などのサービスがあり、受容医師リストも閲覧することができます。

「私の傷病が、現代の医学では不治の状態であり、既に死が迫っていると診断された場合には、ただ単に死期を引き延ばすためだけの延命措置はお断りします。ただしこの場合、私の苦痛を和らげるためには、麻薬などの適切な使用により十分な緩和医療を行ってください。私が回復不能な遷延性意識障害(持続的植物状態)に陥った時は生命維持装置を取りやめてください。」(原文より引用)という文言に対し、自筆のサインを書きます。そして、あなたの自筆であることを証言する人のサイン、代理決定者の氏名を書きます。

(日本尊厳死協会HP)

書式の選び方

現在の健康状態に問題がなく、いざという時のために備えておきたいと考えている人は厚生労働省の書式をおすすめします。記入することで自分の価値観などを見つめることができるからです。主治医がいない人は記入できない部分もありますが、書ける範囲で書いた後、大切な人と共有するということまでプロセスになっているところがポイントです。

持病があり、繰り返し入院をしているような人は主治医に相談しましょう。病院独自の書式があるかもしれません。多くの病院では、患者さんや家族が最期のときを考えられるよう、医師や医療スタッフがサポートしてくれます。生前の意思表示の確認は、医療スタッフの方から提案してもらえることがほとんどです。

病院以外に相談できるところが欲しい、定期的に情報が欲しいという人は日本尊厳死協会をおすすめします。1976年に設立され、日本の医療に大きな影響を与えてきました。リビングウィルには治療に関して細かい記載がありませんが、2018年から医療に関しての希望を書くことができる別紙が用意されています。

書く前に要点をおさえましょう

書く前に要点をおさえましょう

書式を目の前にしていざ書いてみよう・・・、というときに知っておいていただきたいことを解説します。

厳密なルールはありませんが、思考のプロセスを明らかにする、無理に決定する必要はない、変わってもよいということを理解しておいてください。

完成させなくてもよい

完成させないと意味をもたないように感じるかもしれません。しかし、書式を埋めることだけにとらわれると思考のプロセスが不十分になってしまう恐れがあります。なぜその選択をするのかということが最も重要なので、「まだ迷い中」ということがあってもよいのです。

その場合は書式の余白や、別紙にありのままの気持ちを書いておきましょう。

例えば「最期を自宅で過ごしたいと思うが、病院の方が十分な医療が受けられて安心ではないかとも思う。家族の負担も心配だ。最期のときをどこで過ごしたいかはまだ決まっていない。〇年〇月〇日」と書いておけば分かりやすいです。

完成がゴールではありません。あなたの心の中を明らかにすること、疑問や不安は相談して対処することが目的なのです。

内容をアレンジすることも可能

既成の書式では自分の意思を伝えにくい場合は内容を追加することもできます。主治医のもとで病院指定の書式の場合は、あらかじめ追加したい内容を相談するといいでしょう。

また、余白や別紙に自分の言葉で書くことができます。

例えば「最期は家族にできるだけ声をかけてもらいたい。」「その匂いで故郷を思い出すから、みかんをそばにおいて欲しい」「このお守りを手に握らせてもらいたい。」などです。細かい内容でも自分にとっては大切なことがあります。

「これはあくまで自分の希望です。最期のとき妻が納得できる方法、私の死を糧にしてもらうを最優先にして欲しい。必ずしも意思通りでなくてかまわない。」など最も大切にしてもらいたいことなども自分の言葉で残しておきましょう。

気持ちは変わるもの、見直すことも大切です

実際に指示書に取り組むと、かなり骨の折れる作業になります。自分を見つめ直したり、大切な人のことを想ったり、実際に行われる医療を考えたり、それらを周囲の人と共有したり・・・。

どれも真剣に取り組めば取り組むほど達成感を覚えるでしょう。しかし、それが落とし穴になる可能性があるのです。環境は変化し、人の気持ちも変化します。意思表示を記した紙が古くなってしまう場合もあるため、節目でアップデートをすることが必要です。健康な人の場合は1年に1度、誕生日などに見直してみましょう。

いざとなっとき、突然の変更もできます

病状が進行していて、見直す余裕もない場合もあります。しかし、実際にそのときになったら「想像と違った」「気持ちが変わったと」いうこともあるでしょう。

「もう決めたことだから覆すなんて・・・」と思う必要はありません。「苦痛だ」「納得できない」「違和感がある」ということを我慢しなくてよいのです。

死に直面して穏やかで冷静にいられる人は多くありません。あなたの人生の最期は一度きりです。後悔がないよう、あなたの気持ちを自由に表現しましょう。そして、あなたを大切に思っている人にとっても大きなできごとになります。あなたの代理決定者の意見が変わることも考えられます。

実際にこのような話を聞いたことがあります。

末期がんで余命は数日であろう50代の患者さんがいました。事前に心肺蘇生はしないという意思を確認し、
「私に何かあったときは妻に任せます。」
ともおっしゃっていました。だいぶ衰弱されていましたが、かろうじて会話ができる状態だったようです。

ある日、奥様と話をしている最中に心臓が止まりました。
「〇〇が死んじゃう!お願い!何とかして、心臓マッサージをして。」
と慌てた奥様の言葉に主治医は心臓マッサージを行いました。事前の決定を覆す結果となりましたが、しばらく心臓マッサージを行っているとき、奥様がつぶやきました。
「もうだめなんですね。わかりました。やめてください。悲しいけど、先生ありがとう。一生懸命やてくれてありがとう。」

奥様が自分の死を受け入れられるかどうかをとても心配していた患者さんのことを知っていた医師の判断でした。


 望まない治療を避けるための取り組み

あなたが意思表示をしても、目の前の医療従事者に伝わってなければ意味がありません。そのため、意思通りの対応ができるような取り組みを行っています。生前の意思表示を記入する人に役立つ内容なので、補足として解説します。

医師による指示書POLST

アメリカ発祥で、主治医が書く指示書、「POLST」がありますPhysician Orders for Life Sustaining Treatment の頭文字で「生命を脅かす疾患」に直面している患者の医療処置(蘇生処置を含む)に関する医師による指示書」と訳されています。
この指示書があることで、全ての医療従事者が同じ対応をすることができるのです。採用している病院とそうでない病院があります。

POLSTを採用していない病院でも、一時帰宅や在宅療養をする患者のために心肺蘇生を行わないという内容の指示書を発行していることがあります。病院以外で急変した際にも対応できるようにするためです。

東京消防庁の心肺蘇生を望まない傷病者への対応

2019年12月から終末期の傷病者の救急要請において、心肺蘇生を中止するプロセスが施行されています。病院以外で心肺停止が起きた場合、慌てた家族が救急要請してしまうということは少なくありません。
傷病者が人生の最終段階にあり、本人が心肺蘇生を望んでいない、かかりつけ医に確認がとれたなどの要件が揃えば心肺蘇生を中止するというものです。

東京都以外でこのような取り組みをしている地域はありませんが、運用結果によっては広く採用される可能性があります。

(東京消防庁心肺蘇生を望まない傷病者への対応について)

あなたらしさが伝わる内容を 無理に決める必要はありません(まとめ)

生前の意思表示には様々な書式があり、どれを使えばいいか迷ってしまうかもしれません。どのような書式であってもあなたらしさが伝わるよう心がけてください。

たとえ主治医に提示された書式であっても、自分の意思が十分に伝わらないだろうと感じた場合は、追記や別紙に書いてもかまいません。法律による制限がない分、世界に一つしかないあなただけの指示書を作成することができるのです。

決められないことは無理に決める必要もありません。大切なのは「あなたが何を感じ何を考えているか」ということなのです。また、書くだけでなく「なぜそう思ったのか」を周囲の人に伝えておくことも大切です。

「自分がどのように生きていきたいか。」言葉にして整理することで、より明確にもなると思います。あなたの人生をより豊かに、最後まで満足いくものにするためにも、ぜひ一度考えてみてください。

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