リビングウィル4~発展編|延命治療について理解を深めましょう

投稿:2020-09-26
リビングウィル4~発展編|延命治療について理解を深めましょう

 自分や大切な人の最期を考えるとき、延命治療について向き合わねばなりません。知識がないと何をどのように選択すべきか迷ってしまいます。

そこで、一般的な延命治療を具体的に解説します。治療の目的や効果というよりは、治療をすることでどのように変化するのかをイメージできるような解説にしています。最期のときに特化し、これからリビングウィルやアドバンス・ディレクティブを書こうとしている人に向けた内容です。

■リビングウィル入門編~実践編もくじ

この記事の対象者は「回復の見込みのない人」

まず、注意していただきたい点としてこの記事は、健康な人の急変は対象ではないということです。元気だった人が救急車で運ばれた場合は、回復の見込みがあるとして治療が行われるからです。救急搬送後の治療が一段落したとき、予後について判断されます。搬送後数時間で最期のときを迎えることもあれば、数カ月後のこともあります。今回の記事は医師に回復の見込みがないとされた場合の治療として考えてください。

延命治療は心肺蘇生とそれ以外の治療に分かれる

延命治療とは文字通り命を延ばすための治療です。持病があり回復の見込みがないものの、その治療をすることによって死を遅らせるという対処療法です。突然心臓が止まってしまった場合に行われる心肺蘇生と、治療をしなければすぐに死を迎えるわけではないものの、対処をしなければ近い将来それが原因で亡くなる可能性が高いものに対する治療に分けて解説します。

 心肺蘇生とは

心停止に対して命を救うために行われる治療です。心臓マッサージや電気ショック、気道に管を入れて呼吸を助ける気管挿管、点滴などによる薬液投与があります。

回復の見込みのない状態であっても、あなたや家族の意思が確認できていない場合は、心肺蘇生が行われます。

 心配蘇生をしているときのあなたのイメージ

あなた自身の意識はありません。モニター装着や処置のためにほぼ裸の状態で、医療従事者に取り囲まれています。心臓マッサージをされている傍ら、口から管を入れられ、注射を打たれています。腕や足や額にはモニターの電極が装着され、多くの医療従事者の声や機械の音がします。あなたの命を救うためだけに、あなたの周りの医療従事者は全力を尽くしている状況です。

 心肺蘇生をしているときの家族のイメージ

心肺蘇生には、家族が立ち会うケースとそうでないケースがあります。心肺蘇生中の立ち合いについては研究途中で課題も多く、スタンダードが確立されていません。心停止に至った状況や家族の精神状態などによって対応が決められます。家族が立ち合いの意思を表示すれば、それも考慮されます。

立ち会う場合は、治療を受けているあなたを見ていて、状況によっては声をかけたり、手を握ったりできます。立ち会わないケースでは、家族は別の場所で待機しています。治療が落ち着いた段階であなたと会うことになります。

 心肺蘇生の予後

心肺蘇生が成功すれば、ひとまず死を免れます。そもそもゆるやかに死を迎える段階にあるため、意識が戻るか戻らないかは分かりません。また、生きられる時間も分かりません。数時間のこともあれば、数週間ということもあります。蘇生後にどのような状態になるかをあらかじめ予測することはできません。

心肺蘇生で得られるもの

心肺蘇生で得られるものとはなんでしょうぁ。

その時点での死を免れることができる

「余命が数カ月と言われていて、まさか今日心臓が止まるとは思っていない。自分も家族も心の準備ができていない。」「海外にいる息子が数日で帰ってくる。どうしてもそれまでは生きていたい。」という場合は望む結果が得らえるかもしれません。

命を絶やさないために全力をつくしたという達成感

実際に「自分は最期の最期まで努力したことを周りに見せたい。あきらめないことの大切さを伝えたい。」という意思表示をした人もいます。

心肺蘇生が負の効果をもたらす場合

心肺蘇生を行うことで、かえって負の効果をもらたらしてしまう場合もあります。

延命されたとしても、自分や家族が望む状態にはならなかった

これはとても悲しいケースですが、延命されたものの意識が戻らず寝たきりの状態が1ヶ月以上続いたということもあります。

家族に囲まれた穏やかな最期を迎えにくい

心肺蘇生は一度に様々な処置を伴うので、家族が手を握れる距離にいるのは難しいことが多いです。

治療に伴う経済的な負担

心肺蘇生を行い命をとりとめたとしても、その後の延命治療で思った以上に高額な費用がかかる場合もあります。

人工呼吸器など生命を維持するための治療の中止はしにくい

人工呼吸器など、延命治療を行った場合は途中で中止することは難しいです。目を冷ます可能性が低くても、延命治療は続きます。

心肺蘇生以外の延命治療

心肺蘇生以外の延命治療

心肺蘇生以外の治療は、生命を維持するための機能が著しく低下している状態に対して行われる治療をさします。呼吸、食物の摂取、腎機能の補助に分けて解説します。

 呼吸を助けるための治療

▼酸素の投与

マスクなどから酸素を投与することです。苦痛を伴わないため、終末期の患者に多く用いられています。拒否する人はほとんどいません。ここで気を付けたいのが流量です。「苦しそうだから、酸素を増やしてほしい」という家族の声がありますが、酸素を増やすことで状態を悪化させてしまうことがあります。酸素は医師の判断する適量が望ましいということを理解しておいてください。

▼人工呼吸器

肺に直接酸素を送り込む装置です。鼻や口から気道に管を入れます。食べ物が間違って気道に入ったことを想像してください。せき込んで苦しいですよね?

起動に管が入っているということはかなりの苦痛を伴います。意識がある場合は眠らせることが多いです。しかし、これがとても難しいのです。持病が進行していて全身状態が悪い人を眠らせると、呼吸が止まってしまうことがあるからです。意識がない状態での挿管は難しくありませんが、意識のある全身状態の悪い人の挿管はとても難しい判断を強いられます。

一般的に10日以上人工呼吸器の使用が必要な場合は気管切開を行います。気管に穴をあけて管を入れます。口から管を入れるより苦痛は少なくなります。気管内挿管、気管切開を行うと声を出すことができなくなります。

人工呼吸器の装着は負の面が大きいように感じられるかもしれません。しかし、状態によっては人工呼吸器の装着で全身状態が改善し、活動範囲が広がった方もいます。

また、意識がはっきりしていて、呼吸状態が悪化し、「とにかく苦しい、助けてほしい」ということも考えらます。単に人工呼吸器イコールただ生かされているだけという考えは危険です。医師としっかりと話し合い、人工呼吸器の判断をすることが必要です。

 食べることを助けるための治療

▼点滴

腕などの血管から水分や薬剤を投与します。多くの人がイメージしやすい治療ではないでしょうか。

点滴からは1日に必要な水分を摂取することはできますが、十分なカロリーを得ることはできません。点滴だけで病状を回復させるのは困難です。また全身状態が悪化すると、体内に水分を取り入れる力が衰え、むくみや腹水などの原因になることも。血管がもろくなると、点滴が漏れてしまうなどのトラブルも多くなります。点滴の針を入れる血管の確保も難しくなります。

点滴で得られる効果と患者さんの苦痛のバランスを考えることが重要です。苦痛の方が大きくなった場合、中止するという選択肢もあります。

中心静脈栄養(IVH)

首や鎖骨下などの太い静脈から点滴を行います。30分程度の処置で、苦痛もそれほどありません。一般的な点滴に比べ、高いカロリーの輸液をすることができます。また、点滴が漏れる心配もほとんどありません。

しかし、感染症を起こすリスクがあるため、2週間程度で刺し換えが必要です。稀ではありますが合併症などのリスクもあります。在宅での管理も可能です。普通の点滴に比べ、延命の効果は高いです。

▼経管栄養

消化管には異常がないものの、食べ物を飲み込むことができなくなった人のための治療です。鼻から胃に管を入れて、栄養剤を注入します。飲み込む代わりに胃へ直接入れるイメージです。口に食べ物を入れて噛む、飲み込むということをしないので、長期間になると口から食べることが難しくなってしまう可能性が高くなります。また、常に管が入っているので違和感を覚えることも。

自分の意思とは関係なく胃が充満するので、吐いてしまうなどのリスクもあります。経管栄養のひとつに胃ろうがあります。胃に穴をあけて、チューブの差し込み口をつくるものです。鼻から管を入れなくても、直接胃に栄養を入れることができ、点滴や中心静脈栄養に比べて延命の効果は高いです。

腎臓を助けるための治療

▼透析

腎臓の機能が低下した場合、その機能の代わりとして透析という治療があります。腎不全が進行すると死の直接の原因となるため行う治療です。方法は様々ですが、一度開始すると定期的に行う必要があります。透析を行うことで、全身状態が改善し、自宅で生活できるようになったケースも。通院しなくても在宅でできる方法もあります。

延命治療を考える上で注意したいこと

延命治療は、負の面が大きいというイメージがある方が多いでしょう。また、一度始めると中止できないのでは?という心配する声もあるのではないでしょうか。

延命治療は、場合によっては良い効果をもたらします。

 単なる延命ではなく、活動範囲を広げる可能性がある

意識が回復する可能性が極めて低い人にこれらの治療を行うことは、もしかしたら単なる延命かもしれません。

しかし、効果的なタイミングで治療が行われれば、一定期間体力を回復することができます。「自宅で過ごしたい」「あの場所に行きたい」などの希望を実現することができるかもしれません。癌で余命を宣告されたら、これらの治療は一切行いたくないと決めつけてしまうと可能性を狭めてしまうことにつながります。

治療の効果は、実際にやってみないと分からないのです。「まず1週間試してみて、効果が得られなかったら中止を検討する。」と考える医師もいます。

 全ての治療は中止することができる

多くの人が避けたいことは「意思表示が全くできない状態で、体はチューブだらけ、機械音だけがする環境の中にいる、それがいつまで続くかわからない」という状況ではないでしょうか。

人工呼吸器や点滴、透析など中止が直接的に死を招く治療は、一度開始すると中止できないと考えている人が多いようです。日本には治療の中止に関して法律は存在しませんが、判例や厚生労働省のガイドラインでは中止は可能との見解です。

医師が回復の見込みがないと判断している、あなたがこのような状態を望んでいないと明らかになっている、医療チームや家族など複数の関係者で話し合いをしてそれらを確認したという条件が揃えば中止することができます。

大切なことは「してほしくないこと」より「したいこと」

「苦しいのは嫌だ」「意識がない状態では生きているとは思えない」「家族に負担をかけたくない」など最期のときにしてほしくないことを思い浮かべると、それを避けるためにひとつひとつの治療を選択することになります。

しかし本来の治療は、あなたのしたいことができるようにするためのものです。「穏やかな気持ちでいたい」「最期まで自分らしく生きたい」「家族を安心させたい」などの希望を大切にしてください。

治療の選択で迷ったとき、「自分はどうありたいのか」という希望が道しるべになります。最終的な目標は望まない死を避けるのではなく、望む死をとげることです。ゴールをしっかりとイメージすることで、その治療が何のために行われるか理解することができます。あなたの意識がなくなった場合、判断するのはあなた以外の人です。その人にも同じ意識を共有してもらうことも大切なことです。

延命治療はあなたの意志と医師でそのつど判断を(まとめ)

ひとことに延命治療といっても、行うタイミングによって全く違う意味をもつことがあります。まずはあなたが大切にしていること、あなたの意志を明らかにしましょう。そして、その意思を家族や医療従事者と共有し、意志が実現できるよう治療を決定することが大切です。

決定は変更しても構いません。一度開始した治療を中止することも可能です。一度決めたから大丈夫というものではなく、段階ごとに見直すことが大切なのです。

すべてのことを事前に確認することはできません。想定外の事態が起きたときなどは、あなたが望んでいることに立ち戻って考えることが必要になります。自分が最期までどう生きたいか、それを家族や医療従事者と共有することが最も大切なことです。

生前の意思表示に関してくわしく知りたい人はこちらの記事もおすめします。

著者:葬儀のデスク編集部
葬儀のデスク編集部
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