お経は何が書いてあるのか、文字を読むのも意味を理解するのも難しいため、僧侶ではない一般の信仰者や仏教に関心のない人にはなおさら理解し難いものでしょう。
そこで、お経の内容をよりわかりやすく表現したのが「御詠歌(ごえいか)」です。僧侶ではない一般の信仰者が、寺院や霊場を巡礼する際に唱える歌で、和歌に節を付けたものになっています。
宗派によって御詠歌はそれぞれ異なり、時代の流れに合わせて新しい御詠歌も誕生し、近年では動画サイトやホームページに音声をアップロードしている寺院が増えてきました。
お経よりもなじみやすい御詠歌とはどのようなものなのか、宗派ごとの御詠歌の内容や有名な巡礼地を紹介します。
もくじ
宗派ごとに違いがある「御詠歌」とは
御詠歌は宗派や流派、寺院ごとに違いがあります。内容自体は共通する部分も多いですが、歌詞やメロディは違っておりそれぞれ特徴があります。
そもそも御詠歌にはどのような意味があるのか、宗派ごとの御詠歌とともに解説します。
御詠歌とは仏や教祖を讃美する和讃
インドや中国にはサンスクリット語の「凡讃(ぼんさん)」や、漢語の「漢讃(かんさん)」と呼ばれる詩句があります。
どちらも仏の教えや、教えを伝え導いた教祖を賛美するものであり、これらにならった日本語の詩句「和讃」が奈良時代に誕生しました。
日本では平安時代中期に、僧などの限られた身分の人だけでなく民衆にも広く教えを伝えるため、教化や法会の際に和讃にメロディを付けて詠唱するようになっていました。これが現代の「御詠歌」に通じています。
仏の教えが書かれているお経は、内容どころか読み方すら理解するのが難しいものです。
しかし、御詠歌はお経などに書かれている仏の教えが、「五・七・五・七・七」の和歌でわかりやすく表現されているので、詠唱するだけで自然と仏の教えに触れることができます。
基本的には、鈴と鉦の響きとともにメロディを付けて詠唱しますが、近年ではさまざまな楽器を使った新しい御詠歌も誕生しています。
御詠歌は寺院の参拝や葬儀などで歌う
御詠歌は寺院の参拝や霊場巡礼、法会などで歌われることが多いです。
宗派や慣習によって歌う場面は異なりますが、近畿地方などでは葬儀や法要など、弔いの儀式の際にも御詠歌を歌う慣習があります。
近年ではあまり見られなくなりましたが、故人の親族は葬儀から四十九日まで毎晩御詠歌を歌い、お盆には法要の参列者全員で詠唱する慣習もありました。現在でも続いている地域はありますが、それもごく一部です。
また、近年では各寺院でさまざまな体験を催しており、体験の中に御詠歌を含んでいるケースも多く、動画サイトやホームページ、SNSに積極的に御詠歌の音声や映像をアップロードしている寺院も増えています。
ほかにも全国各地で行われている霊場巡礼にて、巡礼者たちが御詠歌を歌っているケースもあります。自分自身が霊場巡礼をしていなくても、たまたま立ち寄った寺院で巡礼者が詠唱している場に居合わせることがあるかもしれません。
御詠歌は宗派ごとに違い、今も作られ続けている
御詠歌は基本的に仏の教えや仏への願い、高僧の教えに思いを馳せる内容になっています。
しかし、宗派や宗派内の流派によって、御詠歌の内容や歌詞は異なり、時代に合わせて今もなお新しい御詠歌が作られ続けています。
同じ流派でも寺院によって御詠歌が異なるケースもあるので、寺院ごとの御詠歌を聴き比べてみてもよいでしょう。
御詠歌は宗派ごとにどのような違いがあるのか、ピックアップして簡単に紹介します。
真言宗の御詠歌は宗祖空海の教えや本尊の徳について歌う
真言宗には「高野山真言宗の金剛流」「豊山派の豊山流」「智山派の密厳流」「東寺派の東寺流」の4つの流派があります。
真言宗の御詠歌では、それぞれの本尊の徳や宗祖空海の教えなどについて歌っています。
特に金剛流の御詠歌は特徴的で、陽旋調で明るい雰囲気の曲が多いです。
臨済宗の御詠歌は禅の教えに親しむという目的がある
臨済宗系には「臨済宗東福寺派の慧日流」「妙心寺派の花園流」「円覚寺派の鎌倉流」「南禅寺派の独秀流」「建長寺派の鎌倉流」があります。
臨済宗の各宗派・流派の御詠歌の目的は「禅の教えに親しむ」です。
御詠歌は鈴と鉦を使うのが一般的ですが、南禅寺派の独秀流では琴と尺八とともに歌います。
浄土宗の御詠歌は一心に仏にすがることを歌っている
浄土宗にはさまざまな流派がありますが、どの流派の御詠歌も一心に仏にすがることを歌っている曲が多いです。
浄土宗には念仏を熱心に唱えることで、悪人であっても往生できるという教えがあります。
そのため、どんなに罪深い悪行をしていたとしても、救いを求めて一心に念仏を唱えましょうという内容が御詠歌として表現されています。
御詠歌が有名な巡礼地・体験できる寺院を紹介
御詠歌は霊場巡礼の際によく歌われており、御詠歌が有名な巡礼地は多く存在します。
御詠歌は民衆に教えを伝えるために、簡単な言葉で作られた和歌です。一般人にも教えを広めることを目的に、寺院が体験の一種として提供しているケースもあります。
御詠歌が有名な巡礼地や、御詠歌の体験ができる寺院を紹介します。
臨済宗妙心寺派大本山妙心寺
法堂の天井に龍の図が描かれている「臨済宗妙心寺派大本山妙心寺」では、体験の一種として御詠歌を歌います。
体験をしてみたいという場合は、社会情勢の影響によって中止になるケースもあるため、予めスケジュールを確認するか、メールや電話で問い合わせることをおすすめします。
住所:京都府京都市右京区花園妙心寺町1
アクセス:JR嵯峨野線「花園駅」徒歩5分
拝観料:大人700円(団体630円)/小学生・中学生400円(団体360円)
高野山真言宗総本山金剛峯寺
高野山にある「高野山真言宗総本山金剛峯寺」では、さまざまな体験を提供しています。
寺院へのアクセスはしにくいですが、金剛峯寺が提供している御詠歌教室は東京と大阪にある会場で行うため、都心からもアクセスしやすいのが特徴です。
■東京教室
住所:東京都港区高輪3-15-18高野山東京別院
アクセス:都営浅草線「高輪台駅」徒歩10分、JR「品川駅」徒歩13分
年会費:昼の部30,000円(半期15,000円)/夜の部24,000円(半期12,000円)/昼・夜の部36,000円(半期18,000円)
■大阪教室
住所:大阪府大阪市北区太融寺町3番7太融寺
アクセス:JR「大阪駅」徒歩5分
月額(月2回):3,000円
西国三十三所巡礼
御詠歌は霊場巡礼で歌われることが多く、特に「西国三十三所」の巡礼は御詠歌で有名です。
西国三十三所とは京都府、大阪府、和歌山県、奈良県、兵庫県、滋賀県の近畿地方2府4県と岐阜県に点在する33か所の霊場の総称。
ちなみに、令和元年度に「日本遺産」として「1300年つづく日本の終活の旅〜西国三十三所観音巡礼〜」は認定されました。
西国三十三所の御詠歌はCDとしても発売されており、御詠歌と言えば西国三十三所と言われるほど有名です。寺院に立ち寄った際に、巡礼者による御詠歌が聴けるかもしれません。
御詠歌は仏の教えをわかりやすく表現した歌
日本でおなじみの仏の教えが書かれたお経は漢訳されたものなので、理解するのは非常に困難です。
しかし、御詠歌は日本語でわかりやすく表現しているため、お経よりも親しみやすいのが特徴です。
仏の教えを理解することは徳を積むことにも繋がるうえに、日々心安らかに過ごすためのヒントにもなります。
お経を本格的に理解できなくても御詠歌で親しむことができれば、仏教の考え方がより好きになるかもしれません。
自分自身で歌えなくても、霊場巡礼者の御詠歌を聴いたり、寺院で体験したり、動画を視聴したりするだけでも仏の教えに触れられるので、一度体験してみるのも良いでしょう。