涅槃会(ねはんえ)とはお釈迦様が亡くなられた日におこなわれる法要であり、仏教の三大行事の一つです。
日本ではお釈迦様の入滅日は2月15日とされ、その日は涅槃図を掲げて各寺院で法要がおこなわれます。
涅槃会は一般参加も可能であり、寺院によっては日頃は非公開とされる文化財級の大涅槃図を見られる機会でもあります。
仏教三大行事、涅槃会・灌仏会・成道会の意味、そして涅槃会について詳しく解説します。
もくじ
涅槃会(ねはんえ)の意味と日付
旧暦2月15日が釈迦が入滅された日とされていますが、これはインドでの釈迦入滅の月を中国が倣ったことが所以です。
そして涅槃はサンスクリット語でニルヴァーナといい、「吹き消す・風に吹き消される」「消滅」を意味します。
釈迦が一貫して説いてきた苦・集・滅・道の四諦(したい)の3番目である滅諦(めったい)がニルヴァーナです。苦痛、あらゆる感情・煩悩をろうろくの炎にたとえ、それを吹き消して消滅させた状態・すべての行動が停止する状態がを指します。
その状態になると六道の輪廻転生の輪から抜け、生まれ変わることはありません。これを解脱といいます。
涅槃は苦しみと再生の終わりであり、人間で初めてそこに達し仏陀となられたお釈迦様への崇敬と追慕をあらわす法要が涅槃会なのです。
涅槃会とはお釈迦様が入滅された日に行われる法要
日本では2月15日に、お釈迦様への追悼報恩の法要として涅槃会が執り行われます。
輪廻転生という生まれ変わりの苦行から解脱する方法、生き方を説かれた四諦と八正道を残してくださったお釈迦様に感謝すると同時に、涅槃に到達するまでの修行の道のりに想いを馳せ、その教えを再び認識する日でもあります。
一般的に2月15日が涅槃会
インド、タイや東南アジアで主流である上座仏教(頭を撫でてはいけない等でも知られる)ではインド暦の第二の月の最初の満月の日に、誕生・悟り・入滅3つをあわせて祝うウェーサーカ祭があります。これが中国に伝わり、中国では2月15日を釈迦入滅の日と定めました。
中国・日本の大乗仏教では2月15日、それ以外では2月8日におこなう国もあります。ただし、京都では旧暦に合わせて3月14日~16日頃に涅槃会をおこなう寺院もあり、春を告げる風物詩のひとつです。
涅槃会では涅槃図を見ることができる
涅槃会の際は、釈迦入滅時の涅槃図を前に法要を執り行います。
涅槃図とは、満月が照らし出す沙羅双樹の下で頭を北向き・右半身を下にして横たわるお釈迦様と、その周りを取り囲む菩薩と天部衆、十大弟子、善男善女、そして動物や虫たち、生あるものすべてがお釈迦様の入滅を悲しむ様子が描かれたものです。
極彩色豊かに表現され、中には金箔を用いたもの、絵画のみならず織物など様々な形があります。
その中でも京都の三大涅槃図が有名です。旧暦の2月15日である3月14日~16日頃に、一般公開とともに涅槃会がおこなわれます。
真言宗泉涌寺派総本山「泉涌寺(せんにゅうじ)」
泉涌寺が所有する、高さ16m・横幅8mの国内最大級の大きさを誇る極彩色の大涅槃図は、江戸時代の浄土宗報恩寺の第十五代住職で絵師であった明誉古磵上人(みょうよこかん)によって描かれたもの。
その大きさから法要の際はL字型に折って、正面祭壇には横たわるお釈迦様、天井にはお月様の部分がくるように設置されます。
臨済宗東福寺派大本山「東福寺」
すでに平安時代には、巨大な伽藍を誇る藤原氏の氏寺があり、鎌倉時代にそこに15mの釈迦如来坐像の建立を時の摂政・九条家が発願し、奈良の東大寺と興福寺から一文字ずつとって東福寺が創建されました。現在では京都を代表する禅寺の一つです。
東福寺の僧侶であり、室町時代の絵画の礎を築いた絵師であった明兆が描いたのが、東福寺の大涅槃図。そこには度々絵の具を咥えてやってきたとされる猫が描かれており、以降、東福寺の魔除けの猫として今に伝えられています。
仏教にまつわる伝承で、猫はあまり良い存在とは言えない中、愛らしい姿で描かれていることからも明兆の人柄が伝わってくるようです。
丁寧に彩色された大涅槃図は、高さ12m・横幅6m、国内第二位の大きさを誇り、別名「猫入り涅槃図」とも呼ばれています。
日蓮宗本山「本法寺」
本法寺は室町時代に久遠成院日親上人によって創建されたお寺で、本阿弥家の菩提寺としても知られています。
1599年、安土桃山時代を代表する画家で日蓮宗において多くの仏教画を手掛けた長谷川等伯が61歳の時に描き奉納したのがこの涅槃図です。
描表装を含め、長さ10m・幅6mの大作で、等伯が雪舟五代と名乗るキッカケとなった作品。そして他では見られないユーモアが隠されています。
お釈迦様の入滅に集まった白象や虎に混じって、当時南蛮人が連れ歩いていたとされる2匹のコリー犬が楽しそうに描かれており、それを見つけた訪問者たちに一瞬の驚きと、そして笑顔にさせているのです。
涅槃会と3大法会
誕生・悟り・入滅、お釈迦様の人間界での大きな転換期であるこの3つは、仏教界においてとても大切な日。なぜなら、お釈迦様は人間として初めて悟りを開き、仏になられた日のためです。
灌仏会・成道会・涅槃会の3つは日本仏教全宗派ともに共通し、重んじられています。また、仏教美術を見てもこの3つは最大のテーマであり、絵画・像・建築物などで多くの芸術作品をも残しています。
「灌仏会(かんぶつえ)」はお釈迦様の誕生日
「四月八日の花まつり」寺院が運営する幼稚園に通っていた人はすぐにピンとくる「お釈迦様の誕生日」です。さらに「花まつり=甘茶」と結びつく人もいるのではないでしょうか。
この花まつりの呼称は浄土宗が発祥です。そして甘茶の由来は、釈迦誕生時に天より降りてきた九匹の龍が口から吐き出した甘露(天人の飲物)であり、それで産湯を満たしたとのいわれからです。江戸時代までは5種類の香水を用いて甘露に見立てていました。
花御堂で飾られた浴仏盆(水盤)の中央に、誕生直後7歩歩いた後に天と地を同時に指して「天上天下唯我独尊」と唱えた時の姿を象った、誕生釈迦仏を安置します。その釈尊に甘茶をかけて祝います。
日本で初めて灌仏会が行われたのは、飛鳥時代もしくは奈良時代と謂れていますが、花まつりと呼ばれるようになったのは明治時代からであり、戦前までは稚児行列といった子供中心のお祭りでした。
東アジア以外では誕生日というよりも、釈迦が甘露によって浄化された沐浴に重点を置いた入浴式となっています。釈迦の初沐浴に肖って心の内の汚れを浄化するために、釈尊に香りのついたお水を注ぎます。
灌仏会の灌は水を注ぎ込むという意味です。
海外では旧暦の4月8日、または4月に入って初めての満月、5月上旬に行われることが多く、台湾の場合は5月の母の日と同じ日に定められています。海外で4月8日におこなわれるのは、日本仏教の海外寺院のみです。
ブッダの生誕地・ルンビニ(現在のネパール・ルンビニ州)は観光地化されてはおらず、純粋に釈迦信仰の聖地として今も多くの寺院があります。
成道会(じょうどうえ)はお釈迦様が悟りを開かれた日
成道とは仏の道を成就するとの意味で、つまりは悟りを開くということです。日本では12月8日を、お釈迦様が菩提樹の下で悟りを開かれた日としています。
この日は仏教の祖である、お釈迦様が悟りを開かれ、身を以て救済をお示しくださったことへの感謝を込めて法要がおこなわれます。
また、仏教徒が教えに従って修行に励む決意を新たにする日でもあります。
禅宗、曹洞宗では12月1日から8日の朝まで昼夜を通して臘八摂心(ろうはつせっしん)がおこなわれます。坐禅をされていたお釈迦様を追慕・追随しての修行であり、不眠不休でおこなう大変な修行です。
大本山では鎌倉時代から今もなお、毎年おこなわれています。
まとめ|涅槃会はお釈迦様が亡くなったことを偲んで行われる儀式
涅槃会は別名・涅槃忌ともいいます。
お釈迦様の入滅(死)、そして仏陀になられるまでの厳しい修行の道を偲び、感謝するための法要です。