卒塔婆(そとば、そとうば)は故人の成仏を願うのと同時に、親族が故人へ近況を伝える便りとしての重要な役割をもつものです。また、故人の成仏だけでなく、先祖への感謝として立てる場合もあります。
一般的に初七日やお盆、彼岸などのタイミングで卒塔婆供養は行われますが、浄土真宗の場合は卒塔婆を用いず供養を行うため、卒塔婆を建てるかどうかは事前に寺院へ相談し確認しておくのがベストです。
もくじ
卒塔婆供養はどんな供養?
故人の成仏を願い、立てられる「卒塔婆(そとば、そうとば)」。生きている人が善行を積むことで、故人の善行にもつながり、また自分にもかえってくるとされている追善供養のひとつです。
また、故人へ近況を知らせるための便りでもあります。卒塔婆供養について詳しく解説します。
卒塔婆(そとば、そうとば)の役割
「卒塔婆」とは墓石の後ろ側に立てる細長い木製の板のことで、1m〜2mほどの長さです。別名「塔婆」とも呼ばれています。
故人が無事成仏するよう願いが込められているだけでなく、遺族が故人に近況を伝えるための便りの役目も果たします。
卒塔婆が誕生した背景〜起源はお釈迦様の入滅
卒塔婆の誕生した背景は、お釈迦様の入滅が大きく関わってきます。
お釈迦様が入滅後、そのご遺骨は八つの地方の国王に分け与えられました。そしてその御遺骨を納めるために建てられた「仏舎利」のことを、サンスクリット語で「ストゥーパ」と呼んだのです。
この塔には多くの人々が集まり、お釈迦様を供養しました。そして徐々に仏舎利への信仰が広り、各地の権力者のお墓として用いられ世界中に広がっていったのです。
インドから中国に伝わった際、漢字があてがわれ「卒塔婆」となり、そのままの形で日本に入ってきました。
ストゥーパは、もともと五重塔や三重塔の起源ですが、時と共に石から成る五輪塔に変わり、やがて現在の木製の板の卒塔婆の姿となったのです。
日本では平安時代末期から石塚信仰と相まって、徐々に直接的な墓地ではなく、追善供養の意味合いとして石塔をたてることが増えていきました。
権力者であれば、財力で立派な木造の塔が建てることができますが、庶民の間では難しかったことが要因で、石塔、別名「供養塔」のほうが供養の心を表わすシンボルなっていきました。塔ををたてるのではなく、石塔を墓石に添えるものとして広まっていったのです。
追善供養とは生きている人が積んだ善が、故人の善行にもなるという考えです。そしてその善行は自分にもかえってくると信じられています。争いや飢饉で大混乱の時代の狭間で、そのような信仰は、大きく揺れ動いた人々の心の拠りどころだったのでしょう。
時代が進むとさらに簡略化が進み、卒塔婆には石塔ができるまで代わりに立てる角塔婆になり、やがて現代の法要で供養されるのはおなじみの板塔婆となりました。
簡略化はされましたが、卒塔婆の板の上部両横には四つの切れ込みがあり、五重塔や五輪塔と同じく「空・風・火・水・地」の5つから成る仏教の宇宙観をしっかり表しています。
卒塔婆はぜったいに立てなければいけないというものではないですが、禅宗の考えでは自分自身の中にいるご先祖様と向き合うことは、自分自身の心と向き合うことにもなる修行の一環だという解釈があります。
つまり、塔婆を立てることで、故人の供養を自ら行っているのだという意識をよりはっきり持つことができるのです。
また、卒塔婆は新しい故人のためだけでなく、先祖への感謝を込めて、追善供養として立てることもあります。
卒塔婆に書いてある文字の意味|空・風・火・水・地
一般に表には上から「キャ=空」「カ=風」「ラ=火」「バ=水」「ア=地」と書かれています。
そして宝珠型は「空」、半球が「風」、三角形は「火」、球は「水」、一番下の方形は「地」を表わし、色、方角に当てはめた如来が存在するのです。
密教系ではこれらの5つの要素で宇宙のすべてを構成しているという宇宙観をもち、この5大要素によって人間も生かされていると考えられています。
同じく表の下には故人の戒名、法要の回忌数、塔婆の建立年月日、塔婆を建てた人の名前などが記載されています。
限られたスペースの中に文字を書き込むための知恵として、略字も見られるのが興味深いポイントです。
裏面には菩薩名や真言の一部を表わす梵字が書いてあります。
大抵は卒塔婆を依頼した寺院の僧侶が毛筆で手書きしますが、最近ではプリント印刷する場合も増えてきました。
「梵」という字には神聖さや清める意味があり、人々の幸福と安らぎを求める想いが形になったものです。
卒塔婆供養を行うタイミングは納骨時
一般的に卒塔婆供養は納骨時に行うのが最初で、年忌法要、お盆、お彼岸、お施餓鬼法要のタイミングで新しい卒塔婆に交換します。
卒塔婆は5種類あり、地域でも違いがあります。
板塔婆〜木製の板で作られる卒塔婆
一般的に見られるお墓の後ろに立っている木製の板です。
角塔婆〜四角い柱型の卒塔婆
四角い柱型をした卒塔婆で、五輪塔の名残を色濃く残しており、先端が尖っているのが最大の特徴。
墓石ができるまでの目印として使われます。
七本塔婆〜49日まで7日ごとに1本ずつ増やしていく卒塔婆
49日まで7回の法要を行い、法要ごとに1本ずつ追加していくので、計7本の卒塔婆が立ちます。
経木塔婆〜水に流して供養することもある小さな卒塔婆
板塔婆より小さく薄く水に流して供養することもあるため、別名水塔婆とも呼ばれます。
お彼岸、お施餓鬼法要で用いられることが多いです。
梢付き塔婆〜杉・松・柳などの生木で作られる卒塔婆
33回忌や50回忌などの弔い上げの時に使われます。
別名は生木塔婆と呼ばれ、枝葉の処理がない杉・松・柳などの生木をそのまま使います。
浄土真宗では卒塔婆を立てず供養を行う
仏教の中でも、浄土真宗では卒塔婆を立てる習わしはありません。
なぜなら、他力本願、他力念仏のもとに、生きている人も故人も阿弥陀様の功徳の中にある教えがあるからです。
また、人は亡くなるとすぐに極楽浄土へ往生成仏するとされているので、卒塔婆を立てて成仏を願う行いをしません。
ただし、卒塔婆を用いることがありませんが、浄土真宗にもしなければいけない法事はあります。
私達凡人は自分の力で仏にはなれないため、阿弥陀仏が私達を救って仏にしてくださるという考えが根本にあり、その阿弥陀仏のご加護に気づくためのご縁の場として法要が重要視されるのです。
卒塔婆供養のやり方とその費用相場
実際に卒塔婆供養はどのように行うのでしょうか。
供養のやり方や費用相場を解説します。
卒塔婆供養のやり方
卒塔婆供養をする前に、事前に寺院に依頼して卒塔婆を準備してもらう必要があります。
立てる卒塔婆の数には決まりはなく、一人の故人に複数たてても良いです。
もしくはご先祖様に一つ、新たな故人へ一つという形で立てることもできます。
また卒塔婆は必ず遺族が立てる決まりはなく、友人のような間柄でも立てて良いとされ、家族一同や兄弟一同などのように、共同でもマナー違反にはなりません。卒塔婆は立てること自体に意味があるからです。
仮に法要の施主ではない人が卒塔婆を立てたい場合は、施主にその旨をお伝えし、卒塔婆料を渡して依頼します。主は卒塔婆を立てる依頼をまとめ、寺院に申し込んでください。
供養までに用意することを考えると、どれだけ遅くとも1週間前までには連絡をしましょう。
卒塔婆供養の流れは、お寺の本堂や自宅の仏壇のそばに立てて読経してもらい、お墓に持っていきお墓参りをします。
ちなみに卒塔婆料以外にお布施が必要となるので、忘れず別途用意しましょう。
もし、卒塔婆は立てたいけれど、諸事情でお墓参りができないという場合は、寺院に相談すると卒塔婆供養をしてくださるケースが多いようです。一度相談してみてくださいね。
卒塔婆供養の費用相場は2,000〜5,000円
卒塔婆料の相場は、卒塔婆1本につき2000円〜5000円、高くとも1万円程度です。
これは卒塔婆自体の価格であり、卒塔婆供養の「お布施」の金額は含まれていないので注意してくださいね。
お布施を寺院にお渡しする時は、水引やのしなしの白い封筒を用意しましょう。
表書きは「卒塔婆料」「御塔婆料」「御塔婆供養料」などで、下には卒塔婆供養を行う人の名前を書きます。
そしてお願いする卒塔婆の本数分の卒塔婆料を入れ、中に入れるメモ用紙には縦書きで右から「施主」「親族」「親戚」などの名前と、左端に金額を記します。
お布施は別の包みを用意し、表書きは「卒塔婆御布施」「お布施」などとします。
お布施は気持ちの面が強く、卒塔婆料とは異なり明確な金額は存在しません。地域によっても相場が異なるため、直接寺院や、身近な年長者などに確認しましょう。
その他に「御車代」の5,000円程度や、僧侶が会食を共にされない場合「御膳料」として5,000円〜1万円ほどがかかる場合があります。
卒塔婆の管理方法
卒塔婆の功徳は一日のみとされ、法要が済んだ後は、実はすでに役目は終えているのです。
しかし次の日に処分というケースはごくまれで、納骨から年忌、お彼岸、お盆ごとに立て替えるのが一般的です。
卒塔婆は木製なので、古くなったタイミングで処分しても良いでしょう。
もし立て替えや撤去が希望の場合、自分で地域の燃えるゴミに出すこともできるのですが、気になる方は寺院や墓地・霊園管理者にお願いしてお焚き上げしてもらってください。
このご時世ではお焚き上げに許可がいる場合もあり、依頼が難しいことも考えられます。
そんな時は削り直しや回収業者もあるので、どのような形が良いか検討してみてくださいね。
まとめ 卒塔婆は故人や先祖を供養する気持ちを表現するための手段
何気なく見ていた卒塔婆ですが、実は先祖への愛があふれるお手紙の役割もあります。見方が変わることで、より大切に扱っていきたいという気持ちも芽生えるでしょう。
塔婆立てを使い、あらかじめ強風などで乱雑しないように対策することもできます。お墓は皆が祈りを捧げる場です。そういった配慮は故人だけでなく、隣接のお墓の方からも喜ばれるでしょう。
故人だけでなく、先祖のためにたてることもできるので、卒塔婆をたてることで追善供養を行うこともいいかも知れませんね。