葬儀の際の合掌は、右手は仏様、左手は衆生の世界を表しており、両手を合わせることで仏様と衆生が一体になるという意味があります。
仏様と人間が一つとなり、故人の成仏を仏様に祈願するために行うものです。
数珠の選び方や使い方など、宗派によって合掌礼拝のやり方は異なる点もあるため、合掌する際は相違点を把握しておくと良いでしょう。
仏教だけでなく、キリスト教や神道にも合掌礼拝に相応する儀礼があります。
葬儀における合掌の意味や由来、正しいやり方など、宗派ごとに詳しく解説します。
もくじ
葬儀で合掌をする意味とは
通夜や葬儀やお参りだけではなく、誰かに「お願い!」と頼むときや「いただきます」というときにも日本人は左右の手のひらを合わせ合掌します。アジアの国では挨拶するときにも合掌する地域も多いです。
キリスト教でも、他の宗教でも、世界の多くの地域でみられる祈りのポーズですが、仏教ではどのような意味があるのでしょうか。合掌の由来と共に説明します。
合掌の由来はインド古来の礼儀作法から
仏教はインドより日本に伝わった宗教で、元々合掌はインド古来の礼儀作法でした。語源もサンスクリット語によるもので、サンスクリット語の「アンジャリ」が転じて合掌という言葉になったといわれています。
相手に対して礼節を尽くすことを挨拶にする風習があり、それが合掌です。
合掌は仏様と一体になり自分の身を清める
合掌では何故左右の手のひらを合わせるのでしょうか。
キリスト教では祈りに際して心を鎮めるために手のひらを合わせると考えられていますが、仏教の場合はより明確な理由があります。
インドでは右手は清浄を表すのに対し、左手が表すのは不浄です。つまり、右手が仏様で左手は衆生(しゅじょう)、現世にいる一般の人たちを象徴しています。左右の手のひらを合わせることによって、仏と人間とが一体となって調和し清められるというわけです。
調和し清められることは、成仏することにほかならず、だからこそ仏事では手を合わせることが大切な供養になります。
合掌は仏様や亡くなった方に対する敬意を表すもの
仏事だけではなく、日本でも食事の際やお願い事がある際に手を合わせます。相手に対して感謝や敬意の気持ちを表すためです。
特に食事の場合は、食事を作ってくれた人だけではなく、食材を育ててくれた人や、食材として命を捧げてくれたものへの感謝が込められています。
仏事でも、供養する気持ちと共に仏様への感謝や敬意を持って合掌することが大切です。葬儀の場では、故人にお別れの言葉をかけながらも仏様に故人のことをお願いします。
礼拝合掌の宗派ごとの正しいやり方
通夜や葬儀、法事や法要の際は数珠を用意して合掌しますが、数珠の選び方や持ち方が宗派ごとに違いますので、それぞれ解説します。
浄土真宗の合掌
浄土真宗の数珠は数や形にこだわらないことが大きな特徴です。そのため、蓮如結びという長めの房がついています。
浄土真宗では人は供養しなくても、ありのままで救われると考えられており、それが数珠にも反映されているのでしょう。
数珠の数にはこだわりはありませんが、長い数珠を二重にし、手にかけて合掌するのが正式なマナーです。本願寺派(お西)では、房を下にたらし、大谷派(お東)では房は重ねた手の上にかけ、左側にたらすのが正しい作法になります。
浄土宗の合掌
浄土宗の一般在家信徒が使用する数珠は「日課数珠」と呼ばれています。「一日に〇回念仏を唱えます」と誓い念仏を日課とするためのもので、2つの輪を交差させた独特の形が特徴的です。
男性用と女性用とで玉数が異なり、男性用は「三万浄土」、女性用は「六万浄土」と呼ばれ、女性が男性の倍念仏を唱えるようになっています。
親玉と呼ばれる他とは色が異なる玉があるので、玉がそろうようにかけ、房は手のひらの間に下へとたらして合掌してください。
真言宗の合掌
真言宗では玉数が重視されており、主玉が108、親玉2個、四天玉4個が一般的です。長い形状のものを二重にして使うため、「振分(ふりわけ)数珠」とも呼ばれています。
数珠をすり合わせ音を鳴らして使うのは、それを合図に鳥羽僧正が修法の終わりを告げたことが始まりのようです。数珠をこすり合わせることで、108の煩悩は砕かれ、悟りをえることができると考えられています。
そのため、数珠をすり合わせるように合掌することが大切です。左右の中指に数珠をかけて手を合わせて合掌します。
天台宗の合掌
真言宗と同じく天台宗の場合は、数珠の数は煩悩の数を表しており108個です。
数珠はまず人差し指と中指の間にかけて、そのまま手を合わせます。手のひらの間と手の外とで数珠が二重になるので、房は下にたれるようにしてください。
仏教以外の葬儀で合掌をする儀式
仏教以外の宗教でも合掌は行いますし、仏教の葬儀の焼香にあたることも行います。
キリスト教や神道の葬儀ではどのように礼拝をするのでしょうか。それぞれ解説します。
キリスト教では献花の後に合掌する
キリスト教の葬儀で焼香にあたるのは献花です。実は日本独自の風習で海外ではあまり行われません。参列者が神に感謝の祈りを捧げながら、故人が神の下で安らかに眠れるように祈ります。
献花に使われる花は遺族が用意し、カーネーションやバラなど、故人が好んでいた花を選ぶケースも多いです。
献花は焼香と同じように一人ずつ順番で行い、花を手渡されたら花のほうを右で茎が左に両手で持ってください。片手で花を持つのはマナー違反なので、気をつけましょう。祭壇に花を手前にして献花を行い、そのとき一礼か手を合わせます。
キリスト教もいくつかの宗派があり、宗派別で式の流れも違うこともあるので、分からない場合は前の方を真似るとよいでしょう。
神道では玉串奉奠(たまぐしほうてん)の後に合掌する
神道の葬儀は、神葬祭(しんそうさい)と呼ばれています。葬儀を「祭」とするのは、神道独自の思想によるものです。
神道では亡くなった方は神々の世界へ旅立った後、子孫を見守る守護神になると考えられています。つまり、葬儀であると同時に神様をお迎えする儀式でもあるわけです。
神道では焼香の代わりに、「玉串奉奠(たまぐしほうてん)」を行います。参列者一人一人が順番に榊の枝に紙をつけた玉串を祭壇に捧げる儀礼です。玉串には参列者の心をのせ、神に捧げるものと考えられています。それによって、故人の御霊を慰めるのです。
献花と同じように玉串は両手で受け取り、祭壇の前に立ったら一度玉串を時計回りに回転させてから根本を祭壇側にして置きます。その後で二礼して、音を立てないように二拍打って一礼しましょう。
まとめ|合掌は自分の身を清め、相手を敬うために行うもの
手を合わせるという行為は、切羽詰まったときや強く願っているときに思わずしてしまうほど自然と身についています。日本だけではなく、仏教以外でも、手を合わせることは祈りを表現していることが多いです。
仏教ではとくに身を慎み、神だけではなく相手を敬う仕草なので、心を込めて行うようにしましょう。
焼香での合掌は宗派それぞれ細かい作法が分かりにくい点もありますが、菩提寺があればその宗派のものを覚えておくのがおすすめです。