ターミナルケア(終末期ケア)とは、病気などで余命が決まってしまった人に対して行うケアのひとつです。人生の終末期をどのように充実させるか、それがターミナルケアの核になります。
死をもうすぐ迎えることが確定している人が、最期まで痛みだけに苦しむのではなく、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)を保つために、私達家族は何をしてあげられるでしょうか?
ターミナルケアを支える三本柱から、ケアを受けられる場所とそれぞれのメリット・デメリットを解説します。
もくじ
ターミナルケアとは苦痛を緩和しながらQOLを保つための医療や看護
ターミナルケアとは、近い未来に死を迎えることが分かっている人の生活向上のためのケアをのことを指します。
通称QOL(クオリティ・オブ・ライフ)と言われ、限られた残りの時間をより充実したものにするということが目的です。
大事な人の死期を変えることは出来ないが、せめてどうか安らかに旅立ってほしいと思うのは残される者の願いでしょう。
このターミナルケアの考えは1960年代のイギリスのホスピスケアを通して生まれ、欧米に浸透していきました。日本では1980年代以降から緩和ケアを通して、少しずつ広まっています。
家族が病気または自然に人生の終わりに差し掛かった時、本人とその家族には「延命するか」または「残りの時間に焦点を当てるか」の選択が迫られます。本人と意思疎通が取ることができれば、本人の意思を尊重することが多いです。
様々な思いはあれど「死」を迎えることへの覚悟を決めることは難しく、本人もきっと迷うでしょう。
また、すでに本人との意思疎通が叶わず、家族が代わりに決めなければいけない状況もあると思います。
最期まで人間としての尊厳を保ち、苦しみだけでなく、充実した時間を過ごすことができるよう考えなければなりません。どうすることが一番幸せなのか、考えてみましょう。
余命を宣告された患者の気持ちの動き
病気による人生の終末期を迎える人は、「否認」「怒り」「取引」「抑うつ」「受容」の5段階あるプロセスを辿ると言われています。
「否認」から「抑うつ」までの間は、迫り来る死への複雑な思いが押し寄せるため、時には乱暴になったり自暴自棄になったり、人が変わったように見えることもあるかもしれません。
全ては死を受け入れる行為に対する自然な抵抗なので、家族においては患者が持つ心の葛藤があることを理解しておいてください。その心構えがあるだけで少しは余裕ができ、相手を思いやった対応することが出来るので、患者も安心感を抱くことができるでしょう。
一旦は受け入れることが「受容」の段階でも、情緒不安定な状態には違いないので、できる限り心穏やかに過ごせるようにサポートしてあげることが大切です。
ターミナルケアを支える三本柱とは?
ターミナルケアは、「身体的ケア」「精神的ケア」「社会的ケア」の三本柱が大切です。実際にどのようなケアができるのか、それぞれ解説していきます。
1.身体的ケア
病気の終末期には強い痛みが発生することが多く、患者は眠れなかったり、体を動かせなくなったりとかなり苦しい状態になります。
身体の痛みや不調は、精神面にも影響してしまうことがあるので、薬で痛みを緩和することがメインです。
そして、介助ありでも食事が取れなくなった時が、通常ケアからターミナルケアに移行する一つのタイミングとなります。
鼻から胃に管を通したり、胃に直接管を挿入したりする「経管栄養」や、胃に小さな穴を開けて食べ物を注入する「胃ろう」、そのほかにも点滴で対応するのが一般的です。
しかし、これは延命の一環にあたるものです。食事ができなくなったタイミングで、これからも栄養を送り延命治療を行うのか、本人の意思を尊重した上で家族でしっかりと話し合いましょう。
日常生活では、着替えやお風呂、トイレをいかに負担が少ない形で行い、本人に気持ちよくいてもらえるかが大事です。
寝たきりの場合、体重で圧迫されることで血流が悪くなり、褥瘡(じょくそう)ができてしまうこともあります。褥瘡とは、いわゆる床ずれのことです。定期的に体位を変えてあげて、褥瘡ができないように注意しましょう。
特にお風呂の介助は素人がすると危険なこともあるので、自分でお世話することに不安や限界があるなら、プロを頼るのも一つの手です。
毎日お風呂に入れてあげるのは双方の負担が大きいので、基本は全身を拭いてあげます。
最近ではいろんな洗わないタイプのシャンプーも売っていますので、ぜひ活用してくださいね。女性の場合は特にメイクやヘアセットで身だしなみを整えてあげると、気分も良い方向に向きやすくなるかもしれませんね。
2.精神的ケア
家族や仲間の存在が、精神的ケアの中心です。人間は産まれる時も死ぬ時も一人。わかっていても、いざ死を目の前にすると恐怖や困惑、不安などいろんな感情が湧いてくるのは当然だといえるでしょう。家族や仲間を残し、この世の誰もが知らない世界に一人で進もうとしているのです。
既に自身の運命を受け入れたようにみえる人でさえも、ある種の孤独を抱えているのではないでしょうか?
家族が出来ることは、まず「大事な人に死が迫っていることを受け入れること」です。受け入れることで、患者が求める最期の形や、残された時間に一緒に出来ることが浮かぶかもしれません。
少しでも本人が孤独に感じないように、一番身近なベッド環境から整えていきましょう。
思わず顔が緩んでしまうような絵や写真、思い出の品を飾ると良いですね。
好きな音楽をかけ、好きな香りで包んであげることもいいでしょう。患者の不安な心を、少しでも解放してあげられるかもしれません。
患者は「自分はいてもいなくても関係ない」というマイナス思考に陥りやすく、周りの気持ちが伝わりにくい時期もあります。それでも出来るだけ存在意義を感じてもらうことができるよう、一緒にいる時間を長くしたり、友人と会う時間を多く設けたり、なるべく孤独を感じさせないよう寄り添っていきましょう。
3.社会的ケア
長く入院や介護を受けていれば、当然経済面も圧迫してきます。実は、経済面については、家族よりも患者本人の方が気にしているケースが多いのです。
特に一家の大黒柱や家庭を切り盛りしていたという責任感が強い人ほど、プレッシャーを感じやすいとされています。
医療ソーシャルワーカー等に相談すると、遺産相続や遺品整理のサポートもしてくれます。
ターミナルケアは高額療養費制度(医療費の負担が重くならないよう、1ヶ月の医療費の上限額を超えた額が支給される制度)の対象になるので、前もって健康保険組合や協会けんぽの事務所で限度額適用認定証を取得しておくとよいでしょう。
場所によって異なるターミナルケア
ターミナルケアを行う場所は主に「在宅」「施設」病院」の3つです。
それぞれで行うケアが異なりますので、詳しく解説します。
在宅でのターミナルケア
在宅ケアのメリットは残りの時間をめいいっぱい一緒に過ごせて、患者も我が家でリラックスできることです。
毎日病院に通っていた人からすれば、住み慣れた家で家族の顔を見て過ごせるのは、何よりも安心できるのことではないでしょうか。
デメリッとしては、お世話全般を家族でしていかなければいけないことや、万が一の急変に医者が駆け付けるまでの時間がかかる点です。
家族で上手く分担して介助が出来れば理想ですが、お仕事や学校の関係で一人が大半の負担を背負ってしまいがちですよね。
特に床ずれが起こらないよう数時間おきに身体の向きを変えなくてはいけないので、介助者が体を壊してしまわぬよう配慮する必要があります。
床ずれがあると後に施設でターミナルケアを行おうとしても、受け入れ拒否される場合があるので注意が必要です。今は数時間ごとに自動で体勢を変えられるベッドも販売されているので、介護用の機械を利用してもいいかもしれません。
往診や各種サービスは高額療養費制度の対象なので、不明点は詳しい方にアドバイスを聞きながら進めていきましょう。利用する事業所によっては、訪問に必要な交通費や、各種書類の発行費が必要な場合もあるので事前に確認が必要です。
上手くプロを利用し家族内でも役割分担することが、在宅ケアの秘訣です。
施設でのターミナルケア
有料老人ホームや介護老人保健施設、特別養護老人ホーム等の高齢者の入居施設では、入居は看取り介護であり、いわゆるターミナルケアありきとして高齢者を受け入れています。意識がなくなっても安らぎを与え、最期まで人間の尊厳を守り、身体介助や声かけをおこないます。
平成18年の介護報酬改定で高齢者向けの福祉施設として「看取り介護加算」が創設、平成27年4月にもあらためて看取り介護加算の要件が見直されました。
厚生労働省が定める医療・介護体制を満たす施設には、介護報酬の加算がされるようになっているのです。施設の体制が気になる場合は、看取り介護加算の有無を確認するのも一つの手です。
施設でのターミナルケアを行うメリットは、身体的ケアをプロに任せてることができるため、家族はメンタル面に集中できる点です。
中には「可哀想で家族を施設に送れない」という方もいるかもしれません。しかし、程よく他人を介入し、負担を分散させることは社会生活において大事なことです。
何か心配事があれば、すぐプロに相談することも出来ますし、他の入居者との交流もあります。そうした双方の精神面の健康が良好な関係につながり、しいては患者の日々揺れ動く心を力強く支えることにつながるかもしれません。
デメリットは面会時間がある上、他人の目があること、そして経済面の負担といえるでしょう。高齢者の数が増え続けている中、すぐに希望の施設に入れるとも限りません。もし入居までに待ち時間が出来た場合のことも、考えておきましょう。
病院でのターミナルケア
病院でのターミナルケアは、緩和ケアと必ずセットになります。つまりは厚生労働省がホスピスの診療対象として認めている、がん患者とエイズ(後天性免疫不全症候群)患者のみが対象です。
そのため他の病気や老衰の人のターミナルケアは、病院では行うことはできません。
病院でのターミナルケアのメリットは、医療現場のため急な容体の変化にも対応できるという点です。看護師が24時間体制で傍にいてくれることほど、心強いものはないでしょう。
また家族にとっても、病院の地域医療室にいる医療ソーシャルワーカーに、経済面も含め、様々な相談に素早く対応してもらえますというメリットがあります。
デメリットは面会時間の制限、経済的負担、そして病院の雰囲気から情緒不安定になりやすい点です。頼もしい医療スタッフがついていますが、24時間患者の出入りがあるため騒がしく、死を肌で感じる機会が他のケアに比べて多いので心細くなりがちです。
ターミナルケアと他のケアとの違い
ターミナルケアと緩和ケア、ホスピスケアにはいがあります。それぞれの特徴を解説します。
ターミナルケアと緩和ケアの違い
緩和ケアは終末期にのみ行われるものと誤解されていますが、実は病気の進行度に関係はありません。すべての医療者によって、一般的な病棟・外来・訪問診療で提供されます。
日本ではがん患者に行うことが主流ですが、海外では疾患を問わないことが多いです。緩和ケアは患者の痛みを和らげることに重点を置きつつも、依然として治療は行い続けます。
それに比べターミナルケアは、治療を目的としているものではありません。最期の時間をいかに充実させるかが最大のテーマです。つまりターミナルケアを行うことは延命しないという決断をしたということ。回復の見込みや余命を加味しながら、いつからケアを行うのか決めていくのです。
ターミナルケアとホスピスケアの違い
ホスピスケアとは、本来「全人的に患者をケアするという考え方」を指します。生命の終末期に瀕している患者が身体的・心理的・社会的・スピリチュアルな苦痛から解放され、残された日々を人間としての尊厳を保ちながら、心身ともに安楽に過ごすことができるようにするためのケアです。
ホスピスプログラムは症状の軽減を優先するので、診断検査や延命治療は必要に迫られた時のみ行います。ちなみに米国ではホスピスというと、訪問診療や看護を指すことが多いです。
まとめ|できるだけ充実した最期を過ごすためのターミナルケア
ターミナルケアは、近いうちに死を迎えることが決まっている人が、最期の時間をできるだけ充実したものにするため行うケアのことです。どこまでのケアを行うのか、本人と家族で考えなければなりません。
最近では、残される者への負担を軽くしようと、元気なうちにリビングウィル(延命治療に対する希望の有無を意思表明した書面)やエンディングノートの作成する方が増えています。特にエンディングノートの種類は豊富で、思わず書きたくなるようなデザインも多いです。
死を受け入れることはとても難しいことです。それでも、「自身の最期を考えること」は、「自身の生き方を考えること」でもあります。意思決定をできるうちに、最期をどう迎えるか考えておくと良いでしょう。