かつては先祖代々お墓を受け継ぎ、供養することが一般的でしたが、合計特殊出生率の低下や核家族化などの社会の変化から、供養のあり方も変化してきました。
その中でも徐々に注目を集めているのが、ご遺骨を粉骨して海や山などの自然に還す「散骨」です。
「お墓の管理などで子供や孫に迷惑をかけたくない」
「窮屈なお墓の中ではなく、広々としたところで静かに眠りたい」
このように考える人は、散骨を検討してみるとよいでしょう。
では、実際に散骨をするにはどうすれば良いのでしょうか。どんな手続きが必要なのか、散骨をする際に必要となる知識を解説します。
もくじ
散骨の意味や種類、おすすめのやり方を解説
「自分は散骨で弔って欲しい」
「故人から海に散骨して欲しいと頼まれていた」
こういった理由から、散骨に関する情報を集めている方も多いのではないでしょうか。散骨をするためには、必ず知っておくべき知識があります。
散骨とはご遺骨を粉骨し、粉末化して海や山など自然に還す葬法のこと
多くの人が、人が亡くなった時の弔い方として一番に思い浮かぶのは、「火葬後、お墓にご遺骨を埋葬する」方法ではないでしょうか。供養のあり方が多様化してきたとはいえ、まだ一番ポピュラーな弔い方です。
「散骨」とは、故人のご遺骨を粉骨し、粉末化した状態で海や山に撒く方法のことを指します。
- ご遺骨の一部を散骨し、残りは別の方法で供養する
- ご遺骨の全てを散骨する
- 納骨していたご遺骨を取り出し、改めて散骨で弔う
主に上記3つが多く、散骨する場所は主に「海」が選ばれています。
お墓を持たずに「散骨」することで、お墓の後継者問題なども気にしなくても良いため、徐々に散骨を考える人も増えてきました。
散骨の種類「海洋散骨」「樹木葬」「山散骨」「宇宙散骨」
粉末状になっているとはいえ、どこにでも散骨していいわけではありません。
散骨する場所によって、散骨の方法が変わります。「海洋散骨」や「山散骨」、「宇宙散骨」、「空葬散骨」などさまざまな方法がありますが、主に行われているのは「海洋散骨」です。
「海洋散骨」が多いのは、周囲への配慮などを考えると一番合理的な場所が「海」のため。実際に多くの散骨業者が「海洋散骨」プランを提供しています。
そのほかにも山などの決められた区画に散骨する「樹木葬」もあります。散骨した後に樹木を植えるものや、複数人が同じ樹木もとへ散骨するものなど、プランもさまざまです。
散骨は個人でもできるが、業者を使った方がよい
海で散骨をする人が最も多いですが、漁業権や海水浴場といった様々な理由で気軽に海に流すことはできません。また、流したとしても犯罪と誤解されてしまうなど、面倒なことに繋がってしまう可能性もあるでしょう。
そもそも、散骨は個人で行って良いものなのでしょうか。
結論から言うと、散骨は個人で行ってもなにも問題ありません。なぜなら散骨に関して法的な規制はないからです。
しかし、中には厳しい罰則付きの条例を設けている自治体もあり、散骨禁止区域もあります。個人で調べるとなると正直、骨が折れる作業になるでしょう。
業者に頼らず個人で行っても良いですが、専門の業者に依頼することを強くおすすめします。
散骨を行う際の準備や流れを解説
では、実際に散骨を行う際はどうしたらよいのでしょうか。
散骨をするために必要な準備や実際の流れを解説します。
まずは散骨する場所を決める
まずはどこに散骨するのか、散骨場所を決めましょう。一番多いのは「海」に撒く「海洋散骨」です。
思い出の場所など散骨したい場所の希望があっても、さまざまな事情から実施することが難しいケースもあります。
散骨できない場所やルールについては後述しますので、そちらを参考にしてください。
一番良いのは専門業者に相談すること。私有地などで散骨を行ってしまった場合、民事裁判などにもなりかねません。プロのアドバイスを受けたほうが安心です。
散骨の準備|ご遺骨を粉末状の「ご遺灰」にするため粉骨する
場所を決めたら、ご遺骨の全てを散骨するのか、一部だけを散骨するのかを決めましょう。散骨した場合、二度とご遺骨を手元に置くことはできません。
今後の供養をどうしていきたいのかまで考えて、慎重に決めてください。
次に、散骨する分の墓遺骨を「2mm以下」に粉骨します。
粉骨作業は、大きく3つの方法で行います。
- 葬送業者に全てお願いする:粉骨費用は約1万円~
- 葬送業者とともに立ち会う:粉骨費用は約3万円前後
- 自らの手で行う:粉骨費用は0円
業者に依頼しても良いですが、自分たちで行うことも可能です。
通常、手作業で粉骨する場合は薬品類などを粉状にするときに使用する乳鉢を用いますが、通販等で購入できます。価格は直径15cmのもので約2,000円前後です。
ただし、故人のご遺骨を自分たちで粉骨するのはかなり精神的な負担もかかります。
「粉骨」のみを承っている業者もいるため、難しいようであれば依頼したほうが良いでしょう。
あわせて読みたい:粉骨は自分でできる?粉骨の方法とかかる費用などをわかりやすく解説
お墓に納めているご遺骨を持ち出すのに書類は不要
墓じまいなどをきっかけに、お墓に納骨していたご遺骨を取り出して、改めて散骨で弔う人もいます。
その場合はご遺骨をお墓から取り出した後、粉末状にします。ご遺骨の状態によっては、洗浄を行ったほうが良い場合もあるので、自分たちで行うのではなく業者に相談した方が良いでしょう。
本来、ご遺骨を移動する際は「改葬許可証」が必要です。だだ、散骨の場合は別の場所に埋葬しなおすわけではないため、「改葬許可証」は必要ありません。
自治体によっては発行する場所もあるため、念のためお墓がある自治体に確認すると良いでしょう。
散骨の流れと費用相場〜海洋散骨を業者に依頼した場合
ここまで準備ができたら、実際に散骨を行います。散骨したい場所にご遺灰を撒きましょう。
先述しましたが、散骨は専門の業者に依頼するのがおすすめです。
では、実際に業者に依頼して海洋散骨を行った場合の流れと費用相場を解説します。
業者に依頼し自分たちの手で海洋散骨を行う場合、散骨費用は15万〜30万円
自分たちの手で散骨しする場合の費用相場は15万〜30万円程度です。業者が用意した船に乗り、指定された場所で散骨します。
献花・献酒などもできますが、包装紙やリボン、酒ビンなどはゴミとなってしまうためNG。花やお酒だけを海に撒きましょう。
複数の人と一緒に散骨する合同プランと、自分たちだけで行う貸切プランを提供している業者が多いです。基本的には合同プランのほうが費用は安くなります。
業者に代行で海洋散骨をしてもらう場合の散骨費用は5万円程度
業者にご遺灰を預け、代理で散骨してもらう場合の費用相場は5万円程度です。ご遺骨を渡すだけで、粉骨から散骨までを行ってくれる業者もあります。
散骨時の写真をアルバムにしてくれたり、ムービーで残してくれたりと、業者によってサービスはさまざまです。
散骨する場所なども違うため、希望に沿った業者を探してみましょう。
散骨するために必要な書類はない
散骨するのに、死亡届や死亡診断書といった書類はいりません。
しかし業者によってはトラブル回避のため、書類提出を求めるところも あります。相談の際は業者に確認してください。
■ご遺骨の証明書として求められる可能性があるもの
・埋葬許可証
・火葬許可証
・改葬許可証
・依頼者の身元確認として求められるもの
■依頼者の身元確認として求められる可能性があるもの
・運転免許証
・健康保険証
・住民票
・戸籍謄本
■改葬許可証を申請する際に求められる可能性があるもの
・埋葬証明書
・改葬許可証申請書 ※ 自治体によってはサイトからDL可能
・受入証明書 ※お墓からお墓へ移転する際に必要
散骨をする際のルールと罰則を解説
散骨に関する法律は、まだありません。しかし、法律がないからなにをしても良いというわけではなく、最低限守るべきルールはあります。
せっかくの弔いの場を台無しにしないためにも、最低限のルールを知っておきましょう。
散骨に法的にグレーゾーンである
現在、散骨に関する法的規制はありません。ただし、刑法第190条の遺骨遺棄罪に罰せられる可能性があると見られています。
死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、三年以下の懲役に処する。
刑法第190条
「節度を持って行うものであれば問題はない(※)」と法務省の官僚が発言したとされていますが、実際には法務省では散骨に対する省としての見解はないとの公式発表あるため、法的規制はないもののグレーゾーンであると言えるでしょう。
※ 愛知学院大学 法務支援センター / 原田保教授のブログより
また、 墓地、埋葬等に関する法律(埋葬法)はありますが、その中に散骨に関する記述がないのも、グレーゾーンである所以です。
遺骨問題は、地域ごとに異なる風習や宗教観の違いがあるので国は介入せず、各自治体に管理を任せています。
しかし散骨の場所が私有地であったり商用地であった場合は、事情も変わります。
例えば山に散骨する場合、その山の所有者に散骨をしてもいいか許可を取らければならなりません。 許可なく散骨した場合は不法侵入などの刑法にふれ、民事で賠償金請求の訴訟を起こされるケースもあるでしょう。
くれぐれも勝手に散骨しないようにご注意ください。
散骨をしてはいけない区域がある
- 散骨許可のない私有地や公共施設
- 農業・畜産業・水産業が行われている地域
- 観光地や観光ルート内 ・自治体が決めた禁止地域 (要確認)
自治体の中には、 懲役および罰金が課せられる地域もあります。中でも静岡県の御殿場市が定めた罰則は大変厳しいものです。
また禁止されていないとはいえ、例えば誰でも利用できる公園などに散骨をした場合どうなるのでしょうか。
そこを管理する自治体が散骨を明確に禁止していなかった場合、散骨した人が罰せられることはほとんどありません。
しかし、民事で訴訟を起こされる可能性は大いにあります。公園は多くの人々の憩いの場です。知らなかったこととは言え、足で遺灰を踏みつけていたとわかれば不快な気持ちになる人は一定数いることでしょう。
禁止区域ではないから散骨しても良いわけではありません。散骨は必ず決められた場所で行いましょう。
散骨をする前に知っておくべきこと
いざ散骨の時を迎えても、その場に居合わせた人との間でトラブルが発生したら、せっかくのセレモニーが台無しになってしまうこともあります。
散骨を行う前に、最低限のマナーを心に留め置いておきましょう。
散骨をする時は、基本的に喪服を着用しない
散骨をする際は、基本的に「喪服」は着用せず自然なスタイルで行いましょう。
散骨によって地元住民から反発の声が上がり、ある日突然、そこでの散骨が禁止となったケースがあります。理由の多くがイメージの問題です。
その場所で生活する人々や商売をしている人々にとって、地元にマイナスのイメージがつくのは好ましくありません。商売への風評被害、地価の値下がりを懸念する声もあります。自宅横に葬儀場や火葬場があるのと同じ感覚なのです。
散骨をしていることがわからないように、「お葬式」などのイメージが強い喪服は着用しないようにしましょう。
周囲に迷惑をかけないよう配慮する
散骨を行うことで、周りの人に不快感を与えたり、迷惑をかけないように配慮しましょう。できることなら、散骨をしていることがわからないように工夫をしてください。
また、うっかり禁止区域で散骨しないよう、業者に頼ることをおすすめします。
散骨の際は他人に遺灰がかからないように風向き・場所でのルールを守って、故人を自然に還してあげましょう。
まとめ:散骨を行うための流れとおさらい
- どんな方法で散骨するのか決める
- 任せられる業者を見つける or 散骨場所を確保する
- 遺骨を粉骨する
- 散骨当日に献酒などお供え物が必要な場合は用意する
散骨は法的規制がないからこそ、グレーゾーンなことも多く、トラブルも起きやすいです。トラブルが起きないよう、周囲に配慮し迷惑をかけないような散骨を行いましょう。
自分だけ行うのではなく、専門業者に依頼するとより安心して故人を弔うことができるかも知れません。