自然葬とは、その名の通りご遺骨を自然に還す埋葬方法のことです。日本ではご遺体は火葬した後、ご遺骨をお墓へ納骨することが一般的でした。しかし、近年では自然葬を選ぶ人も増えています。
自然葬にはさまざまな方法があり、それぞれ特徴や気をつけなければいけない点があるので注意が必要。自然葬の種類やそれぞれの特徴、近年誕生した珍しい形式の埋葬方法まで詳しく解説します。
もくじ
自然葬を選ぶ人が増えている背景
日本では火葬が一般的ですが、火葬後の遺骨を埋葬する方法として自然葬が注目されるようになりました。
その背景には、少子化の影響で先祖代々の墓を守ることが難しい、新しい墓の購入が大変、自然回帰を願う人が増えているという理由があると言われています。
ひと昔前まで、お墓というのは「墓石を作り、家族が共通の場所に眠ること」が一般的でしたが、少子化が進んで結婚や出産をしない人も増える中、代々管理が必要なお墓は負担になると考える人も出てきました。
粉骨された遺骨は、海や土に撒かれることで分解され自然と一体化します。
後継ぎがおらず永代供養墓を準備できない方や、配偶者やその家族と一緒の墓に入りたくないといった場合でも、遺族が受け入れやすい供養の方法だとも言えるでしょう。
代表的な樹木葬と海洋葬(海洋散骨)
自然葬で、代表的なものは樹木葬と海洋葬(海洋散骨)です。まずは、それらについて解説します。
樹木葬
樹木葬は、墓標を石ではなく樹木にした葬法です。人工物である石碑を用いないというのが最大の特徴でしょう。
樹木葬ができる墓地には、自然の里山をいかした墓地で埋葬と植樹を行う「里山型」や、公園のように整備された「公園型」があります。
里山に遺骨を埋葬することができる墓地が、岩手県一関市の知勝寺の運営する樹木葬墓地です。
雑木林づくりと墓地を合体させるという試みは1999年から始まり、この里山型の樹木葬は未だに他の事例がないと言われていますので、樹木葬は「公園型」が主流であると言っても過言ではないでしょう。
一般的に、植樹されるのはハナミズキやサルスベリなどの低木です。
桜の木の下に埋葬する「桜葬」もあり、桜の開花シーズンに合わせて法要を行うケースもあります。
樹木葬は、跡継ぎを必要としない「永代供養」で一定期間が過ぎると合祀されるのが一般的です。樹木葬には、さまざまな種類があります。
シンボルツリーの周辺に、他の人と一緒に埋葬するのは「合葬型」、個人や家族単位で入れる「納骨室」、より大きめの区画が用意されており、それぞれのお墓専用の樹木を植えることが可能な個人や家族で使用できる「個別型」などです。
ただし、遺骨が自然に還るというイメージはありますが、実際にはカロートの中に遺骨を埋葬するケースも多く、本来の意味で土に還るかどうかという点においては、難しいでしょう。
一方で、樹木葬をうたっている霊園などでは、お墓の掃除や維持・管理に力を入れていることも多く、利用者が掃除をしたり、花などを供えなくても、きれいな状態を維持できるというメリットもあるのです。
自然葬の意味や特徴、注意点を解説
自然葬とは、遺骨を墓地に納めるのではなく、大地や海といった自然に還すという考え方に基づいた弔いの形です。
自然葬の意味や特徴、注意点について、解説します。
自然葬はご遺骨を自然に還すもの
自然葬は、遺骨を墓地に納めるのではなく、大地や海といった自然に還すものです。現在、日本で行われている主な自然葬には、「散骨」と「樹木葬」があります。
遺骨を砕いて粉末にしたものを撒くことで、自然と一体化できるという考え方に基づいた弔いの形です。人間も一種の生き物として、死後は大自然の循環に回帰していこうと考えているのでしょう。
自然葬では、遺骨をお墓に納めるのではなく、海や川、山や空中などの自然の中に散骨します。
利用する霊園にもよりますが、新たにお墓を建立する場合と比べ、購入時の金銭的な負担は少ない傾向があります。
樹木葬は、自然に配慮した新しい葬送という意味では「自然葬」と言えますが、扱いとしては従来の「お墓」と同じです。
墓埋法が適用されるため、墓地として認可を受けた土地でないと行えません。
人工物を墓標として置かず、遺骨も一度埋葬を終えると時間の経過とともに自然に還るため、最終的にはその場所に何も残りません。
一般的なお墓のように、お墓の掃除をしたり、生花を供えて線香に火を灯したりする必要がないため、必ずしもお墓を継ぐ方を必要はなく、墓地管理は、契約者が納めた「環境管理費」などを使い、墓地全体の管理を行います。
太陽の恵みも冷たい雨も、枯葉が土に積もることもすべて受け入れることが供養であるという考えであり、自然保護が最善のお墓管理になるのです。
また、樹木葬は宗教・宗派を問わずに行える葬送です。
樹木葬にもさまざまな方法がありますが、一般的な相場は以下のようになります。
- 個別埋葬個別樹木:50万円〜80万円
- 個別埋葬共同樹木:20万円〜50万円
- 共同埋葬共同樹木:5〜20万円
- 里山型 :50万円(知勝院樹木葬公園墓地)
差はありますが、それぞれ50万円前後が相場であることがわかります。
海洋葬(海洋散骨)
海洋葬(海洋散骨)とは、パウダー状にした遺灰を海に撒く葬法です。海洋葬は、船に乗って海の沖合に出て、遺灰を撒き大自然に還します。
船上で儀式を執り行うこともありますが、葬法としては簡単であり、墓標がないのが特徴です。
海洋葬には、3つの方法があります。
- 個別散骨:個別に船をチャーターして沖合で散骨するプラン
- 合同散骨:複数の家族が一緒に乗船して沖合で散骨するプラン
- 委託散骨:散骨を業者に委託するプラン
海洋葬では、明確な法律やガイドラインがないというのが現状。
「埋葬」には定義がありますが、「散骨」には定義がないので、合法でも違法でもない、という状態がいまでも続いています。
たとえば、埋葬の場合、遺骨を土中に埋めるのであれば、登記上「墓地」として認められていない場所への勝手な埋葬はすべて罰せられるのです。
ところが散骨の場合は、パウダー状に細かく砕いた遺骨(もはや「遺灰」という状況)をそのあたりに撒くことは罰せられません。
なぜなら、そもそもそれを規定する法律がないからです。
しかし。利用者の多い海水浴場や漁船の多い場所など、周辺の状況も考慮して散骨するエリアを選ぶ必要があるでしょう。
また、条例によって海洋散骨のできるエリアを区切っている地域があるほか、海洋散骨を行う団体もガイドラインを設けるなどして、節度をもって散骨が行われるよう取り組んでいます。
マナーを守らないと、地域住民、特に漁業や観光など、海を資源としているところでは海洋葬に反感を持たれるケースも。
海洋葬にかかる費用の平均は、主に以下の通りです。
- 個別散骨(チャーター船による散骨):20〜40万円
- 合同散骨(他の家族との乗り合わせ):10〜20万円
- 委託散骨(業者に散骨を委託する) :7〜10万円
通常、海に散骨する場合、散骨地点を記した証明書を発行してもらえますが、散骨した場所に行くにも船代が必要です。
散骨を行っている会社によっては、お参りのためのクルーズを行っているところもあります。
なお、海洋葬・海洋散骨の場合、遺骨のすべてを海にまくというよりは、分骨という方法で故人の願いを叶えながら、お墓にも納骨するというように、併用するケースがほとんどです。
その他の自然葬儀
自然葬儀には、樹木葬や海洋葬以外にも、さまざまな種類があるのです。
その他の自然葬儀について、解説します。
山葬(山への散骨)
山が好きな人が、山への散骨を希望する場合もあります。著名な山や、故郷の山が選ばれることが多いでしょう。
山や森など木々が生い茂る場所に散骨するため「森林散骨」と呼ぶ場合もあります。山に散骨する場合、その山の所有者の許可が必要です。
遺族が自ら散骨する場合、散骨にかかるのは粉骨のための費用や旅費など。
通常、粉骨は1万円~3万円ほどで依頼でき、専用の散骨場や寺院で散骨することや、散骨を業者に委託することも可能です。
その際は、5万円~30万円程が相場価格で、散骨する場所や方法によって価格が変わります。
空中葬
空中葬は、文字通り空中で散骨することです。
具体的には、ヘリコプターやセスナ機を使って遺族が上空から散骨します。環境への配慮から、海の上まで移動し、そこから散骨するのが一般的な方法です。
大空を自由に舞いたい、遠くまで行きたい、高い所からみんなを見守りたい、などの故人の遺志を叶えることができます。
遺族にとっても滅多にできない体験となるでしょう。同じく、空中から散骨する方法としてバルーン葬があります。
バルーン葬
バルーン葬では、ヘリコプターなどの代わりに風船を使い、遺灰を空に送ります。使われる風船は直径が2メートルほどもある大きなサイズで、そこに遺灰の一部を入れて飛ばすのです。
高度35kmの成層圏に達したバルーンは、気圧の関係で膨張を起こし破裂。それと同時に遺灰も空中に飛び散ります。
遺灰はわずかな量ですので、環境を左右することはありません。多くの遺族で遺灰を見送ることも可能です。
ただし、風船の性能的にすべての遺灰を空に上げることができないので、分骨となります。
打ち上げ場所が必要になることがデメリットです。
宇宙葬
さらに高い所で散骨するのが宇宙葬です。
遺骨の一部を小さなカプセルに詰めて、衛星ロケットを介して宇宙に運ぶという方法となります。
このロケットは、地球の軌道を周回した後大気圏に突入し消滅するため、遺骨も一緒に消滅するのです。
このとき、カプセルに入った遺灰も燃えるため、文字通り自然に還るとも言えるでしょう。
宇宙葬にも複数のバリエーションがあり、宇宙空間を半永久的に進んでくものや、再び地球に戻ってくるものなどがあります。
ただし、ロケットの発射には失敗が伴うことや、日常的な輸送手段ではないために打ち上げ機会が少ない、予定された日時に変更が生じやすい、などの注意点は事前に織り込んでおく必要があるでしょう。
海外で行われている自然葬
海外では、土や海に遺体を沈める土葬・水葬が認められています。
チベットではハゲワシなど鳥獣に遺体の処理を任せる「鳥葬」や、インドネシアでは、洞窟に遺体を安置して風化を待つ「風葬」等が現在でも存在しているのです。
日本でも海事に関する仕事に就いている方が洋上で死亡した場合、一定の条件を満たすことで水葬が認められています。
また、過去に起こった東日本大震災でも、土葬が行われました。
ただし、現況では「自然葬」にこだわる流れで、火葬をせずに水葬や風葬を行うことは認められていません。
海外の葬送方法も「自然葬」の一つととらえることができますが、日本では違法となるため、正しい知識を身につけましょう。
土葬
土葬は、土中に遺体を埋葬する葬法です。かつての日本がそうだったように、世界的に見れば土葬地域が一番多いといわれています。
特に、キリスト教圏やイスラム教圏では復活思想があるために土葬が一般的で、むしろ火葬がタブー。ただし、衛生面や合理性から、火葬を推進している国や地域はどんどん増えています。
しかし、ヨーロッパでもイタリアやフランスやスペインなどの保守的なカトリック教圏では、まだまだ土葬が支持されているのが現状です。
風葬
風葬は、野天に遺体をさらして風化を待つ葬法です。沖縄地方での風葬は有名ですが、いまではあまり行われていません。
また、風化して白骨化した遺骨をのちにきれいにして厨子甕に納める「洗骨」は、沖縄だけでなく、東アジアをはじめとする環太平洋地域でも多く見られ、こうした遺骨への崇拝は死者供養、つまりシャーマニズムの名残だと考えられます。
鳥葬
鳥葬とは主にチベットで見られる葬法です。野天にさらした遺体を鳥(主にハゲワシ)に食べさせて遺体を処理させる葬法のことをいいます。
人が亡くなると、葬儀を行い、遺体を鳥葬台にのせ、裁断します。そうしてやってくる鳥が食べて天高く運んでくれるものと考えられているのです。そのため、中国では「天葬」と呼ばれることも。
チベット仏教では、魂の解放された身体はただの抜け殻でしかないと考えられています。さらに、高地であるために火葬のための薪が入手しづらいこと、寒冷であるために微生物の分解がしづらいことなどから鳥葬が一般化したと考えられています。
水葬
水葬とは、遺体や遺骨を川や海に流す葬法のことです。有名なところではインドのガンジス川があります。
インド仏教では魂は死後49日を経るとこの世に再び生まれ変わると信じられており(輪廻)、遺体にそこまで執着しません。
火葬した遺骨は川に流すのが慣例です。
自然葬を選ぶ時のメリットやデメリット
自然葬の最大のメリットは、墓地を用意する必要や、遺族、子孫が墓地を継承する必要がないということです。
墓地を持たないことは金銭的に大きなメリットとなるだけでなく、少子化、核家族化時代に対応するための一つの方法といえます。
また、自然葬には宗教的な制約がないので、宗教・宗派にとらわれる必要がありません。
自然志向、自然回帰、エコロジーといった現代的な考え方にもフィットします。
一方、こうした新しい考え方に、共感を得られない可能性もあるので注意が必要です。
特に、高齢の親族に反対されるケースがそれに該当します。
故人が自然葬を希望していたのにも関わらず、親族などの反対がある場合は、分骨という選択肢も含めて、しっかり話し合って理解を得られるようにしましょう。
メリット
自然葬を選ぶメリットは、「一代限り」というニーズに応えることができる点です。
ですから多くの樹木葬ではゆくゆくの永代供養もセットで考えられています。
人工の石造物であるお墓だと墓じまいの手間や費用が掛かりますが、樹木葬ではそこまでの手間はかかりません。
また、自然回帰、エコ志向などに応えている、費用が安価に抑えられる点も、樹木葬の人気の秘訣でしょう。
また、海洋葬では、墓地が存在しないので、墓参できる地域に住まなければならないという制約がありません。
近年は故郷の墓参が難しくなるというケースも増えており、居住地の制約がないというのは大きなメリットです。
樹木葬のメリット
- 遺骨が自然に還りやすく、生物の生育の一端を担うことができる
- 墓地が用意できない・自分の墓地を世話してくれる人がいない場合でも安心
- 自分自身が好きな花や木々の根元を安らぎの場所にできる
- 永代利用できる墓地や墓石を購入するより安価で済む
- 樹木が墓標となるため、「故人がここにいる」という遺族の安心につながる
海洋葬のメリット
- 遺骨が自然に還りやすく、生物の生育の一端を担うことができる
- 山への散骨や樹木葬と比べて、海には壮大なイメージがある
- 墓地や墓石を購入する・寺院へ管理費を支払う必要がなくなる
デメリット
埋葬や供養は自分本人だけでなく子や孫、あるいは関係のあった第三者のためのものでもあります。
墓地がないことで、供養がやりづらいと感じる人もいるでしょう。
命日や彼岸などに手を合わせる場所がないことに、物足りなさを感じることもあるようです。
一代限りで終わることが分かっていればいいのですが、子や孫というつながりが続いていく可能性がある場合、樹木葬では頼りないと思われる人もいるかもしれません。
墓碑に石が選ばれてきた理由は、その耐久性が評価されているからです。
遺されたものが手を合わす場所としてお墓を残しておく方がいいこともあるでしょう。
特に、すべての遺骨を散骨すると、法要などの際に後悔することも考えられるので、遺骨の一部を残して手元供養することも検討することをおすすめします。
樹木葬のデメリット
- 遺骨や遺灰は粉状にすりつぶした状態にしないと散骨できない
- 「埋葬(遺骨を埋める行為)」は埋葬許可を受けた墓地でなければ処罰対象となる
- 公園などのパブリックスペースや、山など所有権が明確化された土地に散骨するとトラブルに発展するので、避けるべき
海洋葬のデメリット
- 明確な条例や法律はないが、漁業関係者や遊泳場所への配慮から、海洋葬は船を使って外洋へ出る必要がある
- 船舶代などの費用が多額に上る
- 墓標がないため、「海に故人がいる」という抽象的なイメージしか残らない
- 海洋汚染につながるため、遺骨や花以外のものを撒くことができない
注意すべきポイント
業者に依頼せず個人で自然葬を行う場合は、いくつか注意すべきポイントがあります。
個人で散骨を行う際の留意点
個人で散骨を行う場合に気をつけたいのは散骨場所です。
遺骨の埋葬については「墓地、埋葬に関する法律」が国によって定められており、自治体が許可した場所にしか納骨できません。
また、埋葬許可証が必要となります。散骨については明確な記述がないため、法的にはグレーゾーンです。
しかし、個人で勝手に散骨をすると、苦情の原因になります。
散骨を行う場合はまず自治体に確認して、散骨可能なエリアで行うほうが安心です。
個人で樹木葬を行う際の留意点
埋葬については「墓地、埋葬に関する法律」によって定められており、墓地として開発された場所以外での埋葬は禁止されています。
好きなところに埋葬できるわけではなく、勝手に埋葬すると違法行為となるのです。
必ず専門業者に相談して依頼しましょう。
まとめ:自然葬は周りの環境に配慮しながら行うこと
自然葬は、少子高齢化、核家族化、儀式の簡略化といった世の中の動きに対応した葬送の形として、注目を集めるようになりました。
自然志向、エコロジーなど、自然環境に配慮する働きにも沿っており、今後はさらに増えることが予想されます。
しかし、まだまだ自然葬に対して反感を抱いている方もいるのが現状です。
法律を守ることはもちろんですが、条例やガイドラインを設けるなどして、節度をもって行うための取り組みもなされています。
周辺地域の状況も考慮して実施するエリアや方法を選ぶ必要があるでしょう。