キリスト教では、死者のためのミサ曲である「レクイエム」を用い死者が天国に入れるように神に祈ります。
レクイエムという言葉は「彼らに永遠の安息(requiem)を与え給え」という典礼文の中からとられたもので、多くのレクイエムがこの典礼文に従って作曲されています。
キリスト教におけるレクイエムについて、その意味などをわかりやすく解説します。
もくじ
キリスト教で用いられるレクイエムとは
レクイエム、日本では「鎮魂曲」や「鎮魂歌」という言葉をよく聞きますよね。
実は、キリスト教のレクイエムは日本でいう「鎮魂歌」ではありません。キリスト教で用いられるレクイエムについて解説します。
キリスト教で用いられるレクイエムは死者を追悼するミサ曲のこと
レクイエムは賛美歌同様、教会のミサの際に用いられる音楽、死者のためのものであり鎮魂曲ではありません。
日本語による誤訳で鎮魂曲や鎮魂歌もレクエイムではないのです。
※日本でのレクイエムの捉え方の一例として葉加瀬太郎さんの楽曲を紹介
レクイエムの歴史
死者の魂の安息を神に願うためのレクイエムを含めたカトリックのローマ典礼に用いられる音楽は、初期キリスト教時代からあった無伴奏歌唱が編成され、さらにラテン語で歌うグレゴリオ聖歌へと発展しました。
その後、15世紀にはベルギー出身の作曲家ヨハネス・オケゲムのドラマティックなレクイエムを転機に、モーツァルトを含む多くの作曲家たちが表現力豊かな楽曲が作られます。
18世紀~19世紀にはミサ曲としてよりも演奏会向けの壮大なレクイエムが流行り、プッチーニ、サン=サーンス、ヴェルディといったオペラ作曲家たちの作品は情緒にあふれ特に人気を博しました。
レクイエムの主なパートとその意味
- 入祭唱:第4エズラ記2:34-35と詩篇65:1-2から
- キリエ:神に憐れみを乞う
- 怒りの日:最後の審判
- オファートリウム:聖体儀礼
- サンクトゥス&ベネディクトゥス:神への賛美
- アニュス・デイ:イエスキリストに平和を願い祈る
- コミュニオ:聖体拝領唱(Lux aeterna )故人が永遠の光に照らされることを神に祈る
―ミサには含まれない楽曲―
リベラ・メ:故人に代わって最後の審判の日には慈悲をと神に祈る
―出棺~墓地までの間―
楽園へ:ルイ・アームストロングでお馴染みで元はゴスペルであった「聖者の行進」の原型ではといわれている
※レクイエムミサの形は1570年に確立されたものですが、1972年に怒りの日のパートは削除されました。
葬儀や命日に行われるレクイエム
葬儀、故人の命日や追悼のメモリアルミサ、そして11月2日の死者の日では一年間に亡くなった全ての人を偲び祈りを捧げるためのレクイエムミサがおこなわれます。
レクイエムは故人への追悼として行うもの
レクイエムは故人にかわってミサを奉納する葬儀もしくは追悼であり、同時に故人への敬意とその人柄を偲んで来世での復活と再生を祝福します。
三大レクイエム
- 5歳で作曲をおこない7歳で最初の作品を発表した神童、そして35歳で早逝したオーストリアの天才作曲家ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト。
- オーストリアの支配下であった当時のイタリア人が国歌の代わりに歌っていたのが、ジュゼッペ・ヴェルディの初期の作品「ヘブライ人奴隷の合唱」。アイーダや椿姫など数多くの人気オペラを世に放ち、生きているうちに成功を収めた稀有なイタリア人作曲家。
- 若い頃にサン=サーンスと出会い影響を受け、エレガントでやさしい作品を残したフランスの作曲家ガブリエル・フォーレ。
三代レクイエムと称される、彼らの作品をご紹介します。
モーツァルト/ニ短調
モーツァルト最後の作品かつ未完の作品であり、彼の死後、詳細に残された指示通りに弟子によって完成されました。モーツァルト自身が完成させたのは第1曲目のレクイエム・エテルナムのみです。
作曲当時にはすでに体調不良だったからでしょうか、第1曲目から鬼気迫る演奏で始まります。そして力強くかつ切なげなストリングス、荘厳美を極める合唱に誰もが心を揺さぶられます。モーツァルトの作品中、最高傑作とも評されています。
いつの世も演奏会のみならず、多くの著名人の葬儀のミサ曲としても選ばれている曲です。
ヴェルディ/レクイエム
ヴェルディが10代の頃から敬愛してやまないイタリアの文豪マンゾーニの死を悼み、作られました。
全曲85分前後という大作中、怒りの日パートが37分もありこれまでのレクイエムの概念を覆したことによって賛否両論を巻き起こしました。ちなみにモーツァルトで全60分程、怒りの日パートは20分もありません。
カトリックのレクイエムミサは通常45分程とされているため、マンゾーニの追悼で教会でヴェルディ自身が指揮をとった初演以外、ほとんどがコンサートホールなどでの演奏会となっています。
しかし、現在でも世界中の人々に愛される、重厚感のある素晴らしい合唱作品です。当時問題視された怒りの日は、モーツァルトに次いで多くの映画やテレビでよく使われている、誰もが知っている曲となりました。
フォーレ/作品48
演奏時間はレクイエムミサに十分な40分であるにも関わらず、最後の審判の日の描写である怒りの日パートが作られていないために教会からクレームが入った作品です。
これまでの作曲家は聖書の世界観通りにレクイエムを作っていましたが、フォーレは死は永遠の安らぎ(裁かれる苦しみがない)であり、誰もが天国で幸せであって欲しいとの願望、独自の死生観を作品に盛り込みました。
本人は否定していますが、両親を失った事も影響しているのではといわれています。静かにファイドインする入祭唱からそのままキリエへと繋がる美しい旋律、そしてイエスキリストへの賛美「ピエ・イェズ」、ボーイソプラノまたは女性ソプラノの有名なこのアリアは多くの人々から愛されている曲です。
死者への愛情を感じさせるフォーレのレクイエムは、聴く人の心を穏やかにさせてくれます。
まとめ|レクイエムとは死者が天国に入れるように神に祈る典礼
レクイエムは、死者に代わって生者が奉納ミサをおこない、神とイエスキリストと精霊に天国での安息を願い祈るための、典礼に音楽を併せたものです。