依り代とは、神様を含む御霊(みたま)が降りてきた際に座る場所や依り憑く対象物、注連縄で囲んだ領域のこと。御神木などの樹木、巨岩や山などの自然の他に、神棚や年神様が降りてくる門松も依り代です。
仏教の位牌、神道の霊璽(れいじ)も依り代に含まれます。ご先祖様が降りてくるご位牌は家族が亡くなるたびに新しく作り、そのたびに開眼供養を行い仏の魂を入れることでご先祖様の依り代となるのです。
依り代は日本古来の古神道から発生したものですが、その概念は縄文時代まで遡ります。
実は身近な存在である依り代について、その意味や種類などをわかりやすく解説します。
もくじ
依り代とは神霊が寄り付く憑依物のこと
自然・精霊崇拝である原始宗教(アニミズム)では、この世に在るもの全てに魂が宿り、それが神となり精霊となり人々の暮らしと密接な関係を持つと考えています。
山や木や滝、石など神霊が宿った憑依物を依り代と呼び、信仰と畏怖の対象となりました。
依り代の意味とその歴史
日本において最古の依り代は縄文時代の土偶です。土偶は魂が依り憑きやすいように人形や動物型などに形成した依り代の一種である「形代(かたしろ)」で、縄文の人々は形代に女神や故人の魂を宿して豊穣祈願などの祭祀に用いたとされています。
自分に見立てた人形で体を撫でて穢れや病を移し、川などに流す「流し雛(ながしびな)」もこの形代です。
原始主教では肉体が滅んでも魂は永遠に地上にとどまって、家族や村と共に在り続けると信じられています。やがて家族やコミュニティの不幸事に対して、死者の魂が祟っているのではないかとの畏怖の念を生み出し、その魂を鎮める物や場所である「依り代」を設けて先祖崇拝、氏神へと繋がっていきました。
依り代と神道の関係
道教などの影響を受ける以前の神道を古神道と呼びます。純粋なアニミズムから始まった神道は森羅万象すべてに魂が宿る「八百万の神」という多神を生み出し、神道の体系を作り上げていきました。
神道では神様を降ろした際、または神様が立ち寄れるように依り代を作り、お祀りするようになります。
その最たるものが天照大神であり、その依り代は八咫鏡(やたのかがみ)、各神社、そして家庭内の神棚には必ず天照大神が立ち寄れるように鏡が置かれるようになりました。
依り代には必ず注連縄が張られているのですぐにわかります。
そして古くからある神社の多くが、古神道時代から自然を依り代にした信仰が行われていた場所に建てられています。
神道には欠かせない「榊」も神の依り代として古来より祀られており、古神道では植物の先端が尖った部分に神が宿るとされていました。
榊は常緑樹で年間を通して色を失わず葉を落とす事が無いことから、魂の永遠性と結びついたのかもしれません。(キリスト教のクリスマスツリーも常緑樹で永遠の命の象徴です)
依り代のさまざまな形
依り代には大きく2種類あります。
- 自然を依り代にしたもの
- 魂が依り憑くように作られたもの
形もさまざまあるので、詳しく解説します。
樹木や岩、人形などのほか神域も依り代となる
依り代には、神社に付随する森である「鎮守の森」や神話などの謂れがある禁足地、そこにある樹木の先端など、現世と常世の狭間であるとされる神域と呼ばれるものも含まれています。
※常世とは不老不死の神の国
自然にできた依り代を4つ紹介
●花窟神社
三重県熊野市の花窟神社の巨岩を依り代にした磐座(いわくら)。ここはイザナミノミコトが火の神様であるカグツチノミコトを出産、そしてその火によって焼かれて亡くなったといわれている場所です。大神神社同様、日本最古の神社の一つ。紀伊山地の霊場と参詣道としてユネスコ世界文化遺産に登録されています。
●三輪山
奈良県の三輪山を御神体とする大神神社は、大物主大神(おおものぬしのおおかみ)こと三輪明神をお祀りする日本最古の神社です。山そのものが神の依代です。
●興玉神石(おきたましんせき)
三重県伊勢市の夫婦岩の先に沈む、猿田彦大神の化身とも謂れる依り代である岩です。かつては夫婦岩の間に見ることができましたが、18世紀に起きた地震の影響で海に沈みました。二見興玉神社の御神体です。
●沖ノ島
鹿児島県宗像神社の御神体で、年に一度5月27日の大祭に限られた人しか上陸できない女人禁制の神の島です。
「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群として、ユネスコの世界文化遺産に登録されました。
人の手によって作られた依り代を3つ紹介
●位牌・霊璽
仏教のお位牌、神道の霊璽も依り代であり、位牌には仏となった先祖や故人の霊が、霊璽には家の守り神となった御霊が宿ります。仏壇、祖霊舎でお祀りします。
●神輿・山車
地域のお祭りでお馴染みのお神輿と山車も、神様の依り代です。
迎えに行った神様を乗せるのがお神輿、お迎えした神様をおもてなしするのが山車で、神様は山車の先端に鎮座します。
●おしらさま
東北の民間信仰であるおしらさまは蚕神かつ家の守り神であり、家ごとに個性を持ちます。神棚もしくは仏壇で祀ります。
―番外編―
●大相撲の土俵と横綱
相撲自体、古事記の国譲りの神話にまで起源を辿ることができる歴史のある行事です。横綱の土俵入りの際に見られる「まわし」につけられた白い注連縄からもわかるように、この時の横綱は神の依り代となっています。また、大相撲の土俵も神の依り代であり、場所前に土俵祭りを行い神を降ろす儀式を行います。女人禁制であるいわれでもあります。
●神社の巫女も依り代(男性は覡)
シャーマニズムである巫覡はアニミズムから派生したものです。
まとめ|依り代は神霊が降りてきて取り付く対象や領域のこと
依り代は神霊が降りた際に取り付く対象物や神域の事です。
神社の境内にある御神木や石、鎮守の森などの自然物のみならず、大相撲の横綱であったりお祭りの神輿などその種類は多く、古より身近な存在として在り続けています。