
「享年(きょうねん)」という言葉をよく耳にします。享年とは、いわゆる天寿のことで、故人が何年生きたかを表す言葉です。
似たような言葉に「没年(ぼつねん)」「行年(ぎょうねん)」がありますが、この違いについてはご存知でしょうか?
ポイントはそれぞれの意味と数え年の考え方にあります。葬儀に参列した際に故人の年齢を正しく理解できなかった、喪中はがきを書く際に迷ってしまったなど、いざという時に困らないようにしておきましょう。
もくじ
享年・行年・没年の意味や考え方、計算方法を解説
テレビなどでよく耳にする享年という言葉。似た言葉に行年と没年がありますが、それぞれ考え方や表す年月、数え方が違うのです。
それぞれの語源と計算方法について解説します。
「享年」は天からいただいた年月(天寿)のこと
享年は「きょうねん」と呼び、漢字の「享」にはありがたく受け取るという意味があります。
つまり天からいただいた年月(天寿)のことで、何年生きたかを表す言葉です。
七五三や還暦などの節目の歳にはお祝いをしますが、亡くなった年齢に関しても同じように、天より享(う)けた良いものとして考えられました。
寺院に入れるお墓や位牌に享年が使われることが多く、数え年で計算します。
数え年の考え方・計算方法
今でもアジア各地で用いられている数え年。
日本でも戦前までは使われていましたが、その後、国が満年齢の使用と数え年を用いる場合は明示するよう義務付けたため満年齢が主流となりました。
満年齢が主流となった理由のひとつに、戦後の配給制度での問題が挙げられます。配給制度は、年齢に応じた分の食料等が配給されるものです。数え年で配給を行うと、生まれた年月によっては0歳の赤ちゃんに2歳の食事配給がされてしまいます。こうした混乱を防ぐためにも、数え年ではなく満年齢が主流となったのです。
数え年は、満年齢に1を足した数が数え年になると思われがちですが、実はそうではありません。先述した配給制度の問題から分かるように、満年齢0歳の子でも数え年では2歳になる例外の期間が存在するからです。
数え年とは生まれた年を1歳として、毎年1月1日がくるごとに歳を数えていく計算方法です。人々はみな元旦に一つ歳をとります。
そのため、元旦から誕生日を迎えるまでは、必然的に満年齢+2歳の時期が毎年存在します。例えば、12月の末に生まれた子は、生まれた時点で1歳、そして元旦を迎えると2歳と数えられるためです。
上記の考えがピンとこなければ、生まれてからいくつの年と関わったかという観点で考えるといいでしょう。生まれた時に1年、そして元旦が来て年が変われば、また新たな年と関わることになるので、1月1日を基準として1つ歳をとるのです。今でもお正月のことを「年取り」と呼ぶのはその名残です。
インドで6世紀に発見されたゼロの概念は、11世紀にヨーロッパから世界に広がりました。それでも日本で長い間数え年が使われた理由には、なるべく長生きをしたほうがめでたいという思いがあり、数え年で表記すれば年齢が多くなるからという説があります。
ちなみに、数え年は単なる数え方に過ぎず、胎児期間を考慮しているわけではありません。
「行年」とは娑婆(俗世間)で行を積んだ年数のこと
行年は「ぎょうねん」または「こうねん」と呼び、娑婆(俗世間)で行を積んだ年数のことです。
「行」という漢字には時間の経過の意味合いがあり、この世に生まれて何歳まで生きたかを表しています。
一部ではあの世に逝った年との解釈もありますが、時間の経過を表わす説のほうが一般的です。霊園やお墓で行年が使われることが多く、享年同様数え年で計算します。
享年と同じ年数にはなりますが、享年は「天から享けた年数」であるのに対し、行年は「娑婆(俗世間)で行(修行)を積んだ年数」なので意味合いが違います。
没年とは人が亡くなった時年齢と年次のこと

没年は、人が亡くなった時の年齢、もしくは年次のふたつの意味で使われる言葉のことです。享年や行年は生きていた時間を表わすものでしたが、没年は亡くなった年のことを表します。
「没◯◯◯◯年◯月◯日」というのは故人の命日を指し、歴史の教科書にあるような「生没年不祥」は、生まれた年も亡くなった年どちらも不明であることを意味します。
享年・行年・没年の使い方
墓石や位牌に「享年72(没年70歳)」と刻まれることがあります。これは享年や行年がいずれも数え年で記載されている場合、分かりやすいように満年齢を没年で補足しているのです。
現在では混乱を防ぐため葬儀でも位牌などにも、馴染みのある満年齢で表記したほうが良いという声が多く、満年齢で記載するケースも増えています。
それぞれ漢字の意味によって含まれるニュアンスが違いますが、いずれも故人が亡くなったときの年齢を表す言葉という意味においては同じです。
享年か行年のどちらを使用するか迷う状況では、お寺や霊園などによって対応が異なるため直接確認したほうが良いでしょう。故人の年齢の表記や算出方法には、葬儀を勤める僧侶の考えに大きく左右されるためです。
それには、大きく2つの理由があります。
1つ目は故人にはすでに先祖の墓が存在している場合がほとんどで、墓石に刻まれている表記は統一しなければならないため。
2つ目は、年齢の表記についての決まりは、寺院ごとで昔から定まっているからです。
享年には「歳」をつけず、行年・没年にはつける
行年や没年には歳を付けますが、享年の場合はつけないことが多く、「享年◯◯」と表記します。
ただし、必ずしも「歳」つけてはいけないということではなく、現代ではメディアなどでも「享年〇歳」と報道される場合もあります。時代の流れとともに、少しずつ変わってきているので、そこまで堅苦しくルールを考える必要はありません。
亡くなった方の年齢を指す言葉というくくりとしてはそこまで差はないので、微妙なニュアンスの違いが存在するという基本さえ知っておけば良いでしょう。
喪中はがきは満年齢で書いても問題ない
喪中はがきには、故人がいつ何歳で亡くなったのかを書く必要があります。もし享年・行年という言葉を入れず「〇歳」と表記してもマナー違反ではありません。
また、昔は数え年で表記していましたが、今では満年齢でも問題ないとされています。
したがって享年を使う際はあわせて満年齢も書き、享年をつけないならば満年齢をそのまま書くと良いでしょう。
享年・行年・没年の例文
現代では厳格な使い分けのルールはないものの、本来の使い方を知っておいて損はありません。
「歳」を付けるか付けないかにも注目して見てみましょう。
享年の例文
- 私の祖父は3年前に亡くなったが、享年95という大往生であった。
- 彼は享年30という若さで、突然この世を去った。
行年の例文
- 一人のクラスメイトが亡くなったのは平成5年のことで、わずか行年7歳だった。
- 行年65歳で亡くなった私の最愛の祖母は、素敵な女性でした。
没年の例文
- 紫式部の没年には諸説ある。
- 私の曽祖父の没年は定かではない。
故人の年齢の表し方を知っておくのは大人のたしなみ(まとめ)
享年、行年、没年共に日常的に使われる言葉ではありませんが、目にする機会はあると思います。
言葉の意味を知っておくことで、実際に使う時に焦らずにすみますし、大人のたしなみの一つでもあります。
正しい意味を理解し、誤った使い方をしないよう心がげていきましょう。