従来はお通夜から火葬まで2日かけて葬儀を行うことが一般的でした。しかし近年は、都会部を中心に簡略化された一日葬を選択するケースが増えています。一日葬とは文字通り、お通夜を省いて1日で火葬まで完結する新しい形式の葬儀です。
現代社会では、急な葬儀に合わせてまとまった日数のスケジュールを確保することが難しく、参列者の高齢化によって体力的にも2日間の葬儀へ参列することが難しいケースが増えています。
一日葬はそんな現代社会のニーズに合った葬儀として需要が増えているようです。社会情勢を考えても一日葬はメリットが多く感じられますが、その分デメリットも存在します。一日葬のメリットやデメリットとともに、葬儀の流れや費用について解説します。
一日葬とは?
葬儀は1日目にお通夜、2日目に告別式と火葬と2日間に渡って行うことが一般的です。従来の一般的な形式の葬儀を「一般葬」と言います。
そして近年では新しい葬儀の形として「一日葬」を選ぶケースが増えています。一日葬とはお通夜を行わずに、告別式から火葬までを1日で行う葬儀のことです。
一日葬と家族葬の違い
一日葬と混同されやすい「家族葬」という葬儀があります。
家族葬とは形式自体は一般葬と同じで、お通夜から告別式・火葬を行います。ただし、参列者は親族関係や特別に親しかった友人など、故人の身内だけに限定されます。
一方の一日葬では家族葬のように参列者の制限はありません。家族葬のように身内のみで行うのはもちろん、職場関係者や近隣住民、かつての同級生など幅広い関係者を招待することも可能です。
家族葬も一日葬も、一般葬と比較すると規模は小さくなりますが、それぞれ葬儀の形式や参列者の層に違いがあります。
一日葬が向いているケース
一般葬の場合は2日間のスケジュールを確保する必要がありますが、一日葬ならば1日だけ予定を空ければいいため、忙しい現代社会にマッチした葬儀だと言えます。
遠方からも参列しやすいため、故人の出身地と異なる場所で葬儀を行う場合や、遠方に親戚等が多い場合に向いています。参列者に高齢の方が多い場合も、体力的な負担を減らせるのでおすすめです。
また、自営業や繁忙期など、喪主や主な遺族の中にできるだけ休日を減らしたい人がいる場合にも一日葬が向いています。
一日葬が向いているケース
家族葬が向いているケース
・2日間の予定を確保するのが難しい人
・1日で葬儀を完了させたい人
・遠方から来る参列者が多い場合
・高齢の参列者が多い場合
・休日を減らしたい喪主や主要な遺族がいる場合
・簡素で効率的な葬儀を希望する人
・身内や親しい友人だけで静かに葬儀を行いたい人
・参列者を親族や親しい人に限定したい人
・規模を小さく、プライベートな葬儀を希望する人
・一般葬よりも簡素な形式を求める人
一日葬のメリット
一般葬にはメリットがいくつかあります。一日葬が多くの方に選ばれるようになった理由についてご紹介します。
費用を抑えられる
2日間に渡って行う葬儀の場合、式場の使用料が2日分かかります。僧侶や神父など宗教関係の費用はもちろん、食事代など2日分かかる費用がたくさんあります。
一日葬ならば2日分かかる費用を半分に抑えられるので、経済的な負担を軽減できる点が大きなメリットです。
遺族の負担が軽減される
遺族の経済的負担はもちろんですが、葬儀に参列するだけでも精神的・肉体的な負担があります。
悲しい時間が続くのはもちろんですが、弔問客への対応、自宅と会場の往復、スケジュールの確保などさまざまな部分で負担があります。
一日葬ならば全て1日で終わるので、負担の軽減にも繋がります。
故人とゆっくり過ごせる
一日葬では参列者の制限はありませんが、身内や親しい人のみで行うケースが多いため、故人との時間をゆっくり過ごせます。
葬儀社のプランにもよりますが、エンゼルメイク(死化粧)をそばで見守ることができたり、式中は常に棺の近くで過ごせたりすることも。
形式にとらわれない自由な葬儀ができる
一日葬でも僧侶や神父等、神職の方を呼ぶことは可能ですが、手配せずに宗教儀礼に囚われない葬儀を行うことも可能です。
また、生前の趣味を反映させた葬儀も実行しやすいのも一日葬のメリットです。自由度の高い葬儀のため、場合によっては葬儀らしさを感じない賑やかな葬儀を行えることも。
一日葬のデメリット
一日葬を選ぶ人が増えている理由は、現代社会にマッチしたメリットがたくさんあるからですが、一方で一日葬だからこそのデメリットもあります。ここからは、一日葬のデメリットについて解説します。
参列できない人が出てくる
従来の2日間に渡って行う一般葬ならば、参列者は2日のうちどちらか1日できれば問題ありませんでした。
しかし一日葬の場合は、必ずその日に参列しなければならないため、やむを得ない事情で参列できない人が出てしまう可能性があります。
とくに、海外や離島などに参列して欲しい人がいる場合、一日葬では参列できない可能性があります。
突然の死の場合は対応が難しい
余命を宣告されているなど、ある程度の覚悟ができている場合は予め周囲へ連絡をし、いつでも参列できるようにと準備をしておくことができます。
しかし、事故や発作的な原因(くも膜下出血等の急性症状)などで突然に亡くなられた場合、一日葬では対応が難しいケースもあります。
心の整理がつきにくい
お通夜を行う場合は、故人とともに夜を過ごすことができます。しかし、一日葬の場合は告別式が終わるとすぐに火葬場へ搬送されてしまうため、故人の姿を見られる時間が少なく、心の整理がつきにくいです。
故人の死を実感できないまま火葬が終わり、骨壺に納められてしまうこともあるため、ゆっくりと心の整理をしたい場合には一日葬は向いていません。
菩提寺の許可が必要
信仰心が強く菩提寺がある場合は、許可が出ないと一日葬を行えないためより難しくなります。
ある程度の死期が把握できている場合ならば、予め許可をいただくことは可能ですが、限られた時間で一日葬の手配ができるとは限らないため注意が必要です。
一日葬の流れ(タイムスケジュール)
一般葬とは形式が異なる一日葬はどのような流れで行われるのか、基本的な一日葬の流れをご紹介します。
1. 葬儀社に連絡
まず、亡くなられたら医療機関もしくは警察の指示のもと、すぐに葬儀社へ連絡をします。施設によっては長く安置ができないため、できるだけ早めに葬儀社の手配を行いましょう。
深夜や祝日の場合は、24時間365日対応の葬儀社を探して連絡しましょう。
2. ご遺体安置
葬儀社に連絡後は、ご遺体のある現場まで葬儀社のスタッフが訪れます。そのままご遺体を斎場等に安置します。
3. 葬儀プランの打ち合わせ
ご遺体を安置したあとは、葬儀プランの打ち合わせを行います。具体的な葬儀の内容を打ち合わせし、見積もりを出して葬儀プランを決定します。
4. 納棺
一日葬当日に納棺の儀を行います。納棺の儀の所要時間は40〜60分程度です。
一日葬ではお通夜を行わないため、葬儀を行うのは亡くなってから24時間経過後になります。つまり、基本的には亡くなってから翌々日~1週間以内くらいに葬儀が行われます。
亡くなった翌日にすぐ葬儀を行えない理由は、「墓地、埋火葬に関する法律」第3条によって、亡くなってから24時間以内に火葬を行ってはいけないと定められているからです。
なお、火葬場には営業時間があるため、葬儀は午前中からお昼くらいに開始するケースが多いです。
5. 告別式
納棺の儀を行った後は告別式を行います。告別式の所要時間は60分程度です。
告別式終了後は出棺し、霊柩車に乗って火葬場へ移動します。霊柩車は法定速度を守り慎重に移動するため、移動だけで30〜60分くらいかかるケースが多いです。
6. 火葬
火葬場に到着後は10〜20分程度で火葬を開始します。
火葬にかかる時間は、故人の体格によって変動しますが所要時間はだいたい90〜120分程度です。火葬中は控え室にて自由に過ごせます。控え室で会食を行う場合もあります。
食事の手配を行わない場合は、近隣の店舗や火葬場内の売店等で飲食類を購入して食べることも可能です。
火葬終了後、骨壺にご遺骨を納めるためのお骨上げを行います。お骨上げの所要時間は20〜30分程度になります。
7. 解散
お骨上げ終了後、骨壺や遺影等必要なものを受け取ったら一日葬終了です。
一日葬全体の所要時間は3〜5時間程度となります。
一日葬の平均費用
一日葬にかかる平均費用は約30〜50万円程度です。僧侶や神父など、神職者を手配する場合は別途でお布施等の謝礼が必要になります。
なお、オプションやプランによっては一日葬でも100万円以上かかる場合もあります。
地域別の平均費用
一日葬の平均費用を地域別にご紹介します。
・東北地方:49万円
・関東地方:39万円
・中部地方:42万円
・近畿地方:44万円
・中国地方:41万円
・四国地方:37万円
・九州地方:51万円
基本的には全国平均内に収まっている地域が多いです。しかし、中には隣同士の都道府県であっても、大きく費用差が出る地域もあるため、必ずしも相場の範囲内で一日葬が行えるわけではありません。
とくに参列者の数が多くなりがちな地域(長崎県など)は、相場よりも費用が高くなりがちなのでご注意ください。
一日葬を執り行うときの注意点
一日葬を執り行うにあたって注意するべき点についてまとめて解説します。
式場の使用料が安くならない場合がある
一日葬であってもご遺体自体は前日に設営する葬儀社もあるため、式場の使用料が一般葬と同じままになる場合があります。
葬儀社によって段取りが異なるため仕方ない部分ではありますが、事前に式場の使用料について確認しておくことをおすすめします。
読経ができる安置所が少ない
一日葬を希望していて、なおかつ菩提寺がある場合は許可が必要なほかに、読経ができる安置所へご遺体を安置してもらう必要があります。
近年では一日葬や家族葬などの小規模な葬儀が増えているため、読経ができる安置所を設けていない葬儀社も多いです。
そのため、菩提寺の方針がきちんとあり、宗教儀礼に則って一日葬を行うのであれば、事前にしっかり確認しておく必要があります。
葬儀後の弔問客が増える場合がある
一日葬の場合、スケジュールの関係でやむを得ず参列できなくなってしまう人が、一般葬よりも多くなります。
そのため、都合がつかなかった方が、葬儀後に自宅へ弔問される機会が増加する可能性があります。
葬儀中ならば参列者への対応はある程度まとめて行えますが、自宅への弔問客の場合は、ひと組ずつきちんと対応しなければならないため、かえって負担になる可能性も視野にいれておきましょう。
一日葬のよくある質問(FAQ)
一日葬を選ぶケースが増えているとは言え、近年普及してきた新しい形式の葬儀であるため、初めて一日葬を執り行うというケースも多いです。
一日葬に関するよくある質問についてまとめて解説します。
一日葬の香典の相場は?
一日葬の香典の相場は一般葬を執り行う際と変わりません。親族ほど高額になる傾向があるのも一般葬と同じです。
・親:約50,000~100,000円程度
・兄弟姉妹:約30,000~50,000円程度
・その他親戚:約10,000円程度
・友人・知人・仕事関係者:約5,000円程度
・近隣住民・その他関係者:約3,000~5,000円程度
一日葬のお布施の相場は?
一日葬で僧侶を手配する場合、お布施として渡す費用相場は約10〜30万円程度です。戒名をつける場合は、さらに20〜100万円程度必要になります。戒名は地域や宗派、位によって費用が大きく変わるため、予め確認しておくとよいでしょう。
お通夜を省く分、お布施の金額は一般葬よりも安く抑えられます。
なお、僧侶など神職者を手配しない場合は、お布施などの謝礼を用意する必要はありません。
一日葬に参列する際のマナーは?
一日葬は簡略化された葬儀ではあるものの、基本的なマナーは一般葬と変わりません。一日葬に参列する際に守るべきマナーについて解説します。
服装のマナーについて(男女別)
服装のマナーは男女ともに、お通夜へ参列する際と同じです。
男性の場合 | ・喪服もしくはブラックスーツを着用 ・ジャケットの下は無地の白いシャツ ・ネクタイは黒色(ピンは不要) ・靴は装飾のない黒色の革靴 ・基本的には手ぶらで問題ないが、必要に応じて鞄を持つことも可能 |
女性の場合 | ・光沢のないブラックフォーマルワンピースもしくはブラックスーツ ・ジャケットを羽織る場合も下は黒色のシャツ等 ・靴は光沢のない無地のパンプス(ヒールの高さは3~5cm程度) ・アクセサリーは真珠のネックレス、ピアス(イヤリング)、結婚指輪のみ ・メイクは基本的にラメやパールなどを避け、華美な印象にならないように ・ネイルはオフするか、黒いレースの手袋を着用して対応する |
鞄について | ・布製の光沢のない黒色が基本 ・濃染加工されたものならばレースや刺繍等があってもOK ・金具が付いている場合は黒色に加工されたものを選ぶ ・男女ともにサイズはコンパクトなものがふさわしい |
マスクについて | ・着用の判断は個人の自由(コロナ禍以前は外すことがマナーだった) ・マスクの色や形等のマナーは定まっていない ・マスクの色を気にする場合は白の不織布が無難 ・黒はカジュアルな印象になりやすいため避けた方が無難 |
なお、やむを得ず喪服やブラックスーツの着用が難しい場合は、喪章と呼ばれる黒い腕章をつけて参列してください。
香典を持参する際のマナーについて
一日葬で香典を持参する際のマナーは一般葬と同じです。
表書き | ・「御霊前」「御香料」「御香典」 ・浄土真宗の場合は「御仏前」 ・神道式の場合は「御玉串料」「御榊料」「御神前」 ・キリスト式の場合は「御花料」、カトリックのみ「御霊前」 |
香典袋(不祝儀袋) | ・基本的には白黒の水引で問題ない ・関西や北陸など地域によっては黄白 ・キリスト教は双銀の水引を使う場合も |
お札について | ・新札は避けて折り目等、程度な使用感のあるお札を用意する ・香典袋を開いた際に見える部分が裏側になるように入れる ・正しく包んだ際に人物が下に向くように入れる ・お札を2枚以上入れる場合は、向きを揃えて入れる |
渡す際のマナー | ・袱紗は右手で持って左手で開けて香典を取り出す ・袱紗を折りたたみ、左手で香典を重ねて置く ・受付係に名前が見えるように向きを変えて渡す ・渡す際はお悔やみの挨拶をする ・香典は親族へ渡すお金のため、故人へ向けて置くのはNG |
一日葬であっても一般葬と同じように香典を渡すことがマナーとなっていますが、中には喪主が香典を辞退される場合もあります。
とくに一日葬では、親族や参列者の負担を少しでも減らすために、香典を辞退するケースは珍しくありません。
香典を辞退する連絡があった場合は、たとえ親族であっても香典を持参しないことがマナーとなっているので注意しましょう。
故人や遺族と親しい間柄で、どうしても弔慰として香典を渡したい場合は、落ち着いてきたころに後日連絡をして伺うとよいでしょう。
まとめ
一日葬には従来の一般葬にはないメリットがたくさんあり、現代社会のニーズに合った葬儀として多くの方々に選ばれています。
もちろん、一日葬だからこそのデメリットもあるため、葬儀を執り行う際はどのような形式がより希望に合っているか、よく比較してから選ぶことをおすすめします。
なお、一日葬は簡略化された葬儀ではあるものの、カジュアルな儀式ではないため、服装や香典のマナーなど、基本的な部分が一般葬と変わりません。