相続手続きは複雑で時間がかかります。知識がないと手続きが難しく、専門家に任せる方が多いです。
相続手続きを行える専門家は多くいますが、特におすすめなのは司法書士です。
この記事では、相続手続きを司法書士へ依頼するメリットや、費用相場などについて詳しく解説します。
もくじ
相続手続きとは?
相続手続きとは、故人の財産を相続人に引き継ぐための一連の手続きのことを指します。具体的には、相続人の確定、遺産の調査、遺産分割協議、名義変更、相続税の申告などが含まれます。
相続手続きは適切に行わないと、相続人間でトラブルが発生するのはもちろん、法的な問題が生じたりする可能性もあるため、慎重に対応しなければなりません。相続手続きが適切に行われなかったがために、法的な罰則を受けるケースも少なくありません。例えば、相続税の申告漏れにより、追徴課税されるなどです。
また、相続手続きの期限を守らないと、相続放棄ができない、加算税が課されるなどの不利益が生じる場合もあるので注意しましょう。
相続手続きの主な期限 | |
相続放棄および限定承認の申述 | 相続の開始を知った日から3ヶ月以内 |
相続税の申告・納付 | 被相続人の死亡の日から10ヶ月以内 |
遺産分割の期限 | 相続開始を知った日から3年以内 |
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相続手続きのおおまかな流れ
相続手続きのおおまかな流れと、詳細について解説します。
死亡届の提出
死亡届の提出は、故人の死亡を公的に認めてもらうための手続きです。死亡届を提出することにより戸籍が閉鎖され、相続が開始されます。
死亡届の提出期限 | 死亡の事実を知った日から7日以内に |
死亡届の提出先 | ・死亡地の市区町村役場・本籍地の市区町村役場・届出人の住所地の市区町村役場 のいずれか |
必要なもの | ・死亡診断書または死体検案書・届出人の印鑑および身分証明書 |
なお、死亡届の提出は葬儀社が代行してくれるケースが多いです。提出と同時に火葬許可証が発行されます。
相続人の確定
相続人を確定させる目的は、誰が相続権を持っているかを明確にすることです。法定相続人の範囲や順位は民法で定められており、戸籍謄本などの書類を取得して確認します。
法定相続人の順位 | |
常に相続人となる人 | 配偶者(妻、夫) |
第一順位 | 直系卑属(子ども、孫)もしくはその代襲相続人 |
第二順位 | 直系尊属(親、祖父母など) |
第三順位 | 兄弟姉妹もしくはその代襲相続人 |
相続人の確定には、被相続人(故人)の出生から死亡までの戸籍謄本、および相続人全員の戸籍謄本が必要となります。また、相続欠格事由(故人を殺害した場合など)に該当しないかの確認も必要です。
遺産調査
故人が残した財産の全容を把握するために遺産調査を行います。不動産、預貯金、有価証券、保険金などのプラスの財産はもちろん、借金などのマイナスの財産も調査します。
遺産調査の主な対象 | |
不動産 | 土地、建物 |
預貯金 | 銀行口座、郵便貯金 |
生命保険 | 死亡保険金 |
動産 | 貴金属、美術品、自動車など |
債務 | 住宅ローン、事業性借入金など |
遺産調査には、不動産登記簿謄本、預金通帳、保険証券などの書類が必要となります。また、金融機関や保険会社への照会も行います。
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遺産分割協議の進め方
遺産分割協議を行う目的は、相続人全員で話し合って遺産の分け方を決めることです。
遺言書がある場合は内容に従いますが、ない場合は相続人同士で協議して決定します。協議がまとまらない場合は、家庭裁判所での調停や審判になることもあります。
遺産分割協議で決定する事項 |
・各相続人の相続割合 ・具体的な遺産の分配方法 ・相続債務の負担方法 |
遺産分割協議が整ったら、遺産分割協議書を作成します。遺産分割協議書は、後の名義変更手続きなどで必要となる重要な書類のため、大切に保管しましょう。
名義変更手続き
名義変更手続きを行う目的は、相続した財産の名義を故人から相続人に変更することです。不動産の場合は不動産登記、預貯金の場合は金融機関での手続きなど、財産の種類によって手続き先が異なります。
名義変更が必要な主な手続き |
・不動産の相続登記 ・預貯金の名義 ・有価証券の名義 ・自動車の名義 ・各種保険契約の名義 |
名義変更手続きには、戸籍謄本、遺産分割協議書、印鑑証明書などの書類が必要となります。手続きの期限や必要書類は、財産の種類や金融機関によって異なるため、事前にしっかり確認しておきましょう。
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相続税の申告
相続税の申告を行う目的は、相続した財産に対して適切に税金を納付することです。正しく行われなかった場合、追徴課税などの不利益が生じます。
相続税の申告・納付の流れ |
1.相続財産の評価 2.債務控除、非課税財産の控除 3.相続税の計算 4.申告書の作成・提出(被相続人の死亡の日から10ヶ月以内) 5.納税 |
なお、相続税の申告が必要かどうかの判断や納付額に関しては、複雑な計算が必要となるため税理士に依頼するケースが一般的です。
相続手続きの依頼先の選び方
相続手続きを専門家に依頼する際の主な選択肢として、司法書士、税理士、行政書士が挙げられます。それぞれ得意分野が異なるため、必要に応じて選びましょう。
相続手続きの依頼先の選び方について、それぞれの特徴とともに解説します。
司法書士
司法書士は、不動産登記や商業登記などの登記手続きを専門とする法律専門家です。
司法書士は、不動産の相続登記を得意とするため、相続による不動産の名義変更を正確かつスムーズに行うことができます。また、法律の専門家として、遺産分割協議書の作成をサポートしたり、相続に関連する法律相談にも対応してくれます。
司法書士に依頼できること | |
登記手続き | 相続による不動産の名義変更手続き |
遺産分割協議書の作成 | 公平で適切な協議書の作成を行う |
相続に関する法律相談 | 相続関連の法律についての相談に対応できる |
税理士
税理士は、税務に関する専門家です。
相続手続きにおいて司法書士との大きな違いは、税務に特化している点です。そのため相続税申告が必要な場合は、税理士に依頼するのが一般的です。
税理士に依頼できること | |
相続税の申告書作成 | 相続税の計算や申告書の作成を正確に行う |
相続財産の評価 | 不動産や有価証券など相続財産の適切な評価を行う |
節税対策のアドバイス | 相続税を合法的に抑えるための方法をアドバイスしてもらえる |
行政書士
行政書士は、官公庁に提出する書類の作成を主な業務とする専門家です。司法書士と違い、不動産登記などの登記業務はできません。ただし、相続手続き全般のサポートは可能です。
行政書士に依頼できること | |
遺言書の作成 | 遺言書の作成もサポート ※公正証書遺言書も作成可 |
相続関係の各種届出書類の作成 | 相続に関連する様々な行政手続きの書類作成 |
相続手続き全般のサポート | 相相続人調査から遺産分割協議までを幅広くサポート |
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相続手続きは司法書士への依頼がおすすめ
相続手続きを専門家に依頼する場合、司法書士への依頼がおすすめです。司法書士をおすすめする理由について解説します。
登記手続きの専門家である
司法書士は、不動産登記や商業登記などを専門とする法律の専門家です。
相続手続きの中でも、不動産の名義変更(相続登記)は特に重要です。正確に手続きを行うには、専門的な知識が必要になるため、相続人だけで進めることは難しいでしょう。
不動産の相続登記に必要な手続き |
・相続人全員の戸籍謄本の収集 ・不動産の登記事項証明書の取得 ・遺産分割協議書の作成(必要な場合) ・登記申請書の作成 ・法務局への申請 |
司法書士ならば専門的な知識や経験が豊富なため、不動産の名義変更手続きを正確かつスムーズに行うことができます。
相続手続き全般に対応可能
司法書士は、相続に関する幅広い知識を持っています。相続人の調査、遺産の調査、遺産分割協議書の作成、各種名義変更手続きなど、相続手続き全般をサポートすることが可能です。
司法書士がサポートできること |
・戸籍謄本の収集と相続人の特定 ・遺産の調査(不動産、預貯金、有価証券など) ・遺言書の有無の確認と内容の検討 ・遺産分割協議のサポートと協議書の作成 ・不動産の相続登記 ・預貯金や有価証券の名義変更手続き ・相続税申告の必要性の判断(税理士との連携) |
相続手続きの初期段階から最終段階まで、一貫してサポートを受けられることが司法書士への依頼の大きなメリットと言えるでしょう。
法律に関する知識が豊富
司法書士は、民法や不動産登記法など、相続に関連する法律の知識が豊富です。そのため、法的な観点からアドバイスを受けられ、トラブルを未然に防ぐことができます。
司法書士の法律知識が役立つ場面の一例 |
・相続放棄や限定承認の判断と手続き ・遺留分侵害の可能性の検討 ・相続人間の利害対立の調整 ・相続に関する特殊なケース(代襲相続、相続欠格など)への対応など |
相続手続きの実績が多い
多くの司法書士事務所では、相続手続きを日常的に扱っています。そのため、豊富な経験と実績を持っており、さまざまなケースに対応できます。
特に最新の法改正や制度変更に対応できる点は、司法書士へ依頼する大きなメリットのひとつと言えるでしょう。
司法書士に依頼できる相続手続き一覧
司法書士に依頼できる主な相続手続きについて、詳しく解説します。
相続人の調査
司法書士は、戸籍謄本などの公的書類を取得・確認し、法定相続人を特定します。
相続人の調査で司法書士に依頼できること |
・被相続人(故人)の出生から死亡までの戸籍謄本の収集 ・被相続人(故人)の本籍地の市区町村役場への請求 ・除籍謄本や改製原戸籍などの取得 ・相続人全員の戸籍謄本の収集 ・相続人の本籍地の市区町村役場への請求 ・法定相続人の範囲と順位の確認 ・民法に基づいた、相続人の範囲と順位を確定(養子縁組や離婚歴なども考慮) ・相続欠格事由の有無の確認 |
司法書士ならば相続人の調査において正確に相続人を特定し、相続権の有無を確認できます。
相続財産の調査
司法書士は、故人が残した財産を包括的に調査できます。相続財産の調査によって相続財産の全体像を把握し、相続税の申告の必要性や遺産分割の基礎資料とします。
相続財産の調査で司法書士に依頼できること |
・不動産登記簿の確認 ・法務局での登記事項証明書を取得 ・所有者名義、権利関係、担保設定の有無などの確認 ・金融機関への照会 ・銀行、信用金庫、郵便局などに対して残高証明書を請求 ・預金、貸金庫の有無を確認 ・生命保険会社への照会と保険金額の確認 ・死亡保険金の受取人を確認 ・有価証券の調査(保有状況など) ・株式、債券、投資信託などの有無と評価額を確認 ・借金や債務の確認(住宅ローンや事業性借入金の有無、債権者や残債務額を特定など) |
遺産分割協議の作成
司法書士は、相続人間の遺産分割協議をサポートし、協議書の作成を手伝います。
相続人全員の意向確認 | 相続人全員の希望や要望をヒアリング |
潜在的な対立点や問題点を把握 | 遺産分割の方法の提案 |
法定相続分に基づく分割案の提示 | 各相続人の事情を考慮した柔軟な分割案の提案 |
協議の場の設定と進行 | 中立的な立場で協議の進行をサポート |
遺産分割協議書の作成 | 合意された内容を正確に文書化 |
法的効力を持つ協議書の作成 | 必要に応じて公正証書化をサポート |
司法書士によって遺産分割協議書を作成することで、相続人全員が納得できる遺産分割を実現し、将来的なトラブルを回避できます。
相続登記
司法書士は、不動産の相続登記を正確に進めることが可能です。相続した不動産の名義を適切に変更することで、法的に所有権を確定させます。
相続登記で依頼できること |
・必要書類の収集(戸籍謄本、遺産分割協議書など) ・登記申請書の作成 ・法務局に提出する登記申請書の作成 ・添付書類の確認と準備 ・法務局への登記申請 ・作成した書類を法務局に提出 ・必要に応じて補正や追加書類の提出に対応 ・登記完了後の確認 ・登記が正しく行われたかの確認 ・登記事項証明書の取得 |
相続手続きを司法書士に依頼する場合の費用相場
相続手続きを司法書士に依頼する際の費用相場は、案件の複雑さや相続財産の規模によって大きく異なります。
一般的な依頼料の目安 | |
基本的な相続手続き(相続人調査、財産調査、遺産分割協議書作成など) | 20〜50万円程度 |
不動産の相続登記 | 1物件あたり3〜10万円程度 |
預貯金の名義変更 | 1口座あたり2〜5万円程度 |
あくまで目安であり、実際の費用は司法書士事務所によって異なります。複数の事務所から見積もりを取り、比較検討すると良いでしょう。
なお、相続手続きを司法書士に依頼した場合の費用は、原則として相続人が負担します。ただし、誰が費用を負担するのかについては、法律で決まっているわけではないため、相続人間でよく話し合って決めましょう。
もちろん、相続財産から司法書士への依頼費用を支払うことも可能ですが、相続人全員の合意が必要になる欠かせないため注意が必要です。
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相続手続きに強い司法書士の探し方のコツ
相続手続きに強い司法書士を見つけるためのポイントをご紹介します。
相続専門を謳っているか
相続手続きを専門に扱っている司法書士事務所を選ぶことをおすすめします。相続専門の事務所は、豊富な経験と専門知識を持っていることが多く、複雑なケースにも対応できる可能性が高いです。
依頼する前に事務所のウェブサイトで相続業務を積極的に取り扱っているか、相続に関する詳細な情報や事例紹介があるか、相続セミナーや相談会を定期的に開催しているかを確認するとよいでしょう。
料金体系が明確か
料金体系が明確で、見積もりを出してくれる司法書士事務所を選びましょう。追加料金が発生する可能性がある場合は、事前に説明を受けておくことが重要です。
料金体系の確認ポイント |
・初回相談料の有無および金額 ・基本料金と追加料金の内訳 ・着手金と成功報酬の有無 ・分割払いの可否 |
相談しやすい雰囲気か
初回相談を利用して、相談しやすい雰囲気かどうかを確認しましょう。相続手続きは長期にわたることも多いため、コミュニケーションが取りやすい司法書士を選ぶことが大切です。
相談しやすさの確認ポイント |
・丁寧な説明を心がけているか ・質問にわかりやすく答えてくれるか ・相続人の立場に立って考えてくれるか ・強引な勧誘がないか |
信頼できる情報源からの紹介か
知人や親族からの紹介、または信頼できる団体(司法書士会など)からの紹介を受けた司法書士事務所を選ぶのもよいでしょう。
実際の利用者の声を聞くことで、より信頼性の高い選択ができます。
相続手続きを司法書士などの専門家に頼まない場合の注意点
相続手続きは、必ずしも司法書士などの専門家に依頼する必要はありません。
専門的な知識や充分な時間が必要になりますが、専門家へ依頼せず、相続人だけで行うこともできます。
ただし、自分たちで相続手続きを行う場合、さまざまなリスクがあるため注意が必要です。相続手続きを司法書士などの専門家に頼まない場合の注意点やリスクをご紹介します。
さまざまな分野の専門知識が必要になる
相続手続きには、民法や不動産登記法、相続税法など、多岐にわたる法律の知識が求められます。
法律の専門知識がない場合、手続きの誤りや見落としが発生する可能性があります。
専門家に頼まない場合のリスク |
・相続人の特定ミス ・相続財産の評価ミス ・登記申請の不備 ・相続税申告の誤り |
相続手続きには時間と手間がかかる
相続手続きは複雑で時間がかかることが多いです。特に初めて経験する人にとっては、各種書類の準備や手続きの進め方に戸惑うことが多いでしょう。
戸籍謄本の収集や、金融機関・保険会社への照会にも時間がかかるため、必要な書類や情報が揃うまで待機しなければならない時間も必要です。
行政機関での手続きに何度も足を運ぶ必要があるうえに、手続きが煩雑でミスが起こりやすく、間違いがある分だけやり直さなければなりません。
専門知識がないゆえのミスが多いため、専門家に頼った方が確実でスムーズに進みます。
相続人同士でトラブルが発生する可能性がある
遺産分割協議などで相続人間の意見が対立した場合、専門家の仲介がないと解決が難しくなる可能性があります。
司法書士などの第三者が入ることで、トラブルを速やかに解決できる例も多いため、相続人同士で少しでも意見に相違がある場合は、専門家にお任せした方が無難でしょう。
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まとめ
相続手続きは複雑で時間がかかります。適切に手続きが行われないと、法的な罰則を受けるリスクもあるため、司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。
司法書士ならば相続手続きの全般をサポートし、確実でスムーズに進めてくれます。費用はかかるものの、相続人の負担を大きく軽減し、トラブルの防止にも繋がるため、依頼するメリットは大きいです。
相続手続きに関する専門的な知識がない場合は、司法書士に依頼してみることをおすすめします。