北海道の葬儀は独特であり、他の地域の人は戸惑うような習慣や風習があります。
たとえば葬儀の前に火葬を済ませる函館の骨葬の風習は、親族以外の人が故人との最期の対面が出来ず、はじめて北海道の葬儀に参列した方は驚かれるでしょう。
しかし、理由を知るとすとんと胸に落ちます。そこには北海道の歴史と風土が関係しているからです。
もし葬儀に呼ばれても失礼のないよう、北海道特有の葬儀の慣習やしきたりを紹介します。
もくじ
北海道のお葬式の特徴・風習・しきたり
北海道の葬儀には本州には無い慣習としきたりが数多くあります。
葬儀は午前中に執り行われ、火葬場で昼食を取ることが一般的です。香典も一回の葬儀で二つ用意しなくてはならない事もあります。
北海道の葬儀の特徴や慣習、しきたりを紹介します。
北海道のお葬式では香典に領収書が発行される
北海道のお葬式と言えば「領収書」、昨今はテレビを通して広く知られるようになりました。
多くの地域では受付で香典を渡すと記帳をしますが、北海道では記帳を行いません。
香典袋が記帳代わりとなります。そして目の前で開封されて中身を確認した後に、領収書もしくは専用機械によりレシートが発行されます。
これは北海道特有の慣習で、冬が長く積雪量も多い風土の中で出来上がったシステムです。
かつて、今よりも人の移動は天候に影響されやすく、葬儀に出席できなくなった人が他の出席者に香典を立て替えてもらう事が多かった時代の名残であるといわわれています。
香典は通夜に持参するのが一般的
本州では通夜と葬儀・告別式、どちらかに参列するならば「葬儀・告別式」に参列します。
しかし北海道では「通夜」に参列し、香典を渡すのが通例です。
葬儀は基本的に家族と親戚のみであり、通夜に参列できなかった人が葬儀に参列します。
お葬式(通夜)の後に祭壇前で「写真撮影」
通夜の後、または葬儀の後に遺族と親族が祭壇の前で写真撮影をする習慣が、今も地域によっては残っています。
北海道を本州に置き変えると、東は茨城県寄りの栃木県、西は神戸、南北は本州を超えてしまいます。北海道はそれほど広く、道内での移動は現在でも容易い事ではありません。ましてや冬ともなると積雪のためにより難しくなります。
人と人とが頻繁に往来することが出来なかった時代は特に、葬儀とはいえ久し振りに会えた喜びはひとしおだったことでしょう。
それが親族での写真撮影となり、慣習化したのではといわれています。
昨今は札幌市内や道内の都市部では、本州同様に家族葬を選ぶ家が増えている事から、写真撮影を行う事は少なくなってきました。
火葬後に忌中引(繰上げ法要)
繰上げ法要、または取越法要とも呼ばれる忌中引を、葬儀告別式直後、または火葬場での骨上げ後に執り行います。
本州でも最近では葬儀当日に初七日もしくは式中初七日が執り行われますが、北海道の場合は「四十九日法要」まで済ませます。
これも北海道の風土が故で、頻繁に訪れることが出来ない親戚のために行われるものです。ただし、遺族は通常通り七日ごとの忌日法要を行います。
忌中引には精進料理(お斎)もしくは折詰が出され、帰りには引き出物が渡されます。
尚、神道では繰上げ祭は御霊に失礼にあたるとの理由で行われません。
葬儀の香典とは別に繰り上げ法要の香典も用意する
本州同様、葬儀当日の繰上げ法要には別途香典を用意します。
通常、初七日までの香典袋の表書きは薄墨で「御霊前」と書きますが、北海道の場合は「御仏前」が一般的であり筆の色も濃墨でも大丈夫です。
本州同様、現代は「葬儀=薄墨色のペン」という決まりごとは薄れつつあり、葬儀用でも黒色で書かれている事もよくあります。
骨壷ではなく骨箱を使用する
北海道では遺骨は全骨収骨が主流であり、中でも十勝市や帯広市では骨箱に納める習慣が残っています。また、厳しい寒さの中ではお墓の中とは言えども、寒さで骨壷が割れてしまう事があるため、道内でも寒冷地となる所では骨箱もしくはさらしの納骨袋に入れて納める事が多いのです。
厳しい気候風土の中、北海道の殆どの霊園が冬の間は雪に閉ざされお参りができません。そこで最近では、都心の屋内型ガーデニングタイプの納骨堂に注目が集まっています。
花祭壇で祭壇を祭る
本州では仏式葬儀の祭壇は白木を中心としたものですが、北海道は生花で作られた祭壇・花祭壇を用います。枕花だけは白を基調にしますが、それ以外は色取り取り花が供花など含めて用いられます。
特に通夜・葬儀に贈られるスタンドフラワーは大変華やかで、葬儀後に会葬者が持ち帰る事もあります。これも北海道ならではの慣習です。
新聞訃報欄の利用が一般的
北海道では一般人の新聞の訃報欄の利用率が圧倒的に高く、特に札幌市の新聞では一面を使って道内全域の訃報が載せられています。道民は無料で使用できます。時には新聞の折込チラシで訃報がもたらされる事も。
町内会の回覧板や町内放送で、訃報と葬儀日程を知らせる習慣が残る地域も多いです。
黒豆を炊き込んだ黒飯(こくはん)
黒飯は北海道独自の食文化です。
慶事の赤飯(あずき)に対して、法事法要の際に出されるご飯には黒豆を炊き込んだ黒飯が出されます。黒飯と言っても赤飯のように豆の色がお米に移る事はなく、白米もしくはもち米に黒豆が混じっているだけです。
粗供養品と呼ばれる香典返し
北海道で粗供養品と呼ばれる香典返しは、北海道の人がケチだと勘違いされる事がありますが、事実ではありません。
北海道の香典返しのマナーや特徴
- 基本的に1/3、場合によっては半額返し
- 即日返しは500円~1,000円、多くて1,500円まで
- 即日返し=会葬御礼/参列者への返礼品が香典返しでもある
- 香典金額に関係なく香典返しは一律
※2万円以上の香典に対しては後日返礼をする
本州の香典返しのマナーや特徴
- 半額返し
- 即日返しは2,000円前後の品+参列者への返礼品(会葬御礼1,000円程)
- 1万円以上の香典には後日返し必須
親族から高額の香典をもらったとしても、返礼品、通夜から忌中引までの料理代や宿泊費(※)などの合計金額と鑑みて、後日返しを行わない事は多々あります。
しかしこれには北海道ならではの理由があります。
香典は元々「お互い様」の相互扶助から生まれたものであり、本州も北海道も本質に変わりはありません。
ただ、厳しい気候風土の中で開拓時代から培われてきた強固な相互扶助が機能し続けている北海道の方が、より際立っているだけです。
※北海道では遠方の親族が多いため葬儀場の宿泊施設を利用する事が多い
霊柩バスは積雪地帯であることが背景
火葬場へは霊柩車ではなく、大型・中型バスに乗せられて家族や親族などと一緒に移動します。その際、棺はバスの下部にある収納庫に納められ、その上の座席には座れないようになっています。最近ではマイクロバスに棺とともに家族や親族が同乗し、移動中も側にいることが可能です。
冬が長く雪に覆われている期間が長い北海道の道路事情から、複数台に分かれて移動するよりも一台でまとまって移動した方が遅れが出なくてすむとの合理的な理由なのです。同じく、雪深い東北の一部地域でも霊柩バスが使われています。
もちろん、一般的な宮型霊柩車や洋型霊柩車も使われますが季節によって変わります。
北海道の中でも葬儀が特徴的な地域
広大な北海道では市町村によって、葬儀の形態も異なります。
- 北海道の一般的な葬儀:通夜→葬儀告別式→火葬(後火葬)
- 函館市と釧路一部地域:仮通夜→火葬→通夜→葬儀告別式(前火葬)
- 根室市:仮通夜→本通夜→火葬→葬儀告別式
函館市では前火葬、骨葬で弔う
函館市には、仮通夜を行なった後に火葬をする骨葬があります。
昭和29年の洞爺丸台風によって、函館沖の連絡船洞爺丸の沈没事故(死者行方不明者1,155名)、そして3,300戸が消失した岩内大火(死者33名)が引き起こされ、遺体の保存技術が低かった当時は衛生上の問題から葬儀を行う前に荼毘に付しました。函館で「骨葬」で弔うようになったきっかけといわれています。
しかし対岸の青森県の一部でも骨葬を行う地域があり、それ以前から行われていたと考えもあります。
いずれも漁師町であり、葬儀は漁に出ている家族を待って行われたため、先に火葬を行なったという説が有力です。
東北の一部地域・根室市や道内の雪深い地域で骨葬や前火葬を行うのは、かつては駆けつけるのに時間がかかったためです。今では函館でも後火葬の葬儀が増えつつあります。
函館など仮通夜が執り行われる地域がある
友引で葬儀を一日ずらすのとは違い、函館市・根室市・石見沢市などでは仮通夜が行われます。
仮通夜は親族のみ、または故人と近しい関係者、そして本通夜に一般参列者が弔問に訪れます。この時に香典を渡します。
仮通夜では夜を通して故人を見守る、線香を絶やさない「夜通し灯明」をする地域もあります。
北海道独特の葬儀は歴史と風土が生み出したもの
香典への領収書、葬儀と同日に行われる繰上げ法要の忌中引、香典の後日返しが無い理由など、北海道独特の葬儀の慣習は助け合わなければ過酷な風土を生き抜くことが出来なかった開拓時代の強い相互扶助の精神が今もなお受け継がれているからです。
北海道では現在でも葬儀社では無く昔ながらの方法、町内会、または故人の知人や会社関係者が葬儀委員長になって「お互い様の精神」で遺族を支えて葬儀を執り行う事もあります。