新潟県は神社数4,689社と全国で最も多いものの、葬儀は仏式が主流です。また、神仏習合の歴史を持つことから仏壇と神棚を持つ家も多くあります。
お米の生産量1位を誇る新潟県。農業が盛んな地域は、暮らしに根付いた民間信仰が存在し、宗教に対する厚い信仰心が生まれやすい環境です。
佐渡島の葬儀中に突然始まる食事の慣習や、県内各地に残る死者を魔物から守る風習などは、同一の仏教宗派で結ばれた地域に顕著にみられます。
土着信仰である胎内市のはっけおきと呼ばれるシャーマンや、多種多様な民俗文化を持つ新潟県の葬儀を紹介します。
もくじ
新潟県の一般的な葬儀と風習
新潟県は「後火葬」が主流で、一般弔問者は通夜、葬儀は近親者のみで営まれることが多いです。
通夜振る舞いには軽食、精進落としに豪華な料理が振舞われることが多く、精進落としは葬儀を手伝ってくれた人々への感謝と労をねぎらうためであることから、南魚沼市など中越地方では「御大儀」と呼びます。
新潟市では粗供養品が即日香典返しの品物を兼ねていますが、高額香典には、忌明け後にあらためて返礼品を送ります。
上越地方では、即日返しの返礼品にお茶や和三盆の干菓子などを用い、郵送で届けられた香典には、初七日までに返礼品を送ります。
骨壷もしくは骨箱、遺骨を納める器は地域によって異なります。
上越地方は骨箱が主流ですが、墓地に納める際は骨壷との規定がある霊園があるため骨壷に納め直さなければなりません。
お墓に納骨する際は、サラシの納骨袋に入れて納める地域もあります。寒冷地では骨壷が寒さで割れてしまうことがあるので、納骨袋はよく用いられています。
繰上げ法要は一般的ですが、初七日のところもあれば、三十五日をおこなう地域もあります。
また、佐渡地方では一気に四十九日を済ませてしまう地域もあります。
村上市など下越地方と佐渡地方では骨葬がおこなわれている
新潟県が後火葬が主流ですが、村上市など下越地方と佐渡地方では、骨葬が行われています。その他に、新発田市・関川村・阿賀野市・佐渡地方でも骨葬で弔うことが多いです。
葬儀の流れは下記2通り。
- 通夜~火葬・葬儀告別式
- 火葬~通夜~葬儀告別式
骨葬では土葬の頃のならわしがそのまま残っていることが多く、当日に納骨を済ませることもあります。
通夜に御明かし料やお米などを持ち寄る慣習が残る|阿賀野市
香典とは別に御明かし料、または砂糖や日本酒、野菜にお米などの食材を通夜の弔問の際に持ち寄る地域があります。
かつて隣組が総出で葬儀を手伝っていた頃、各家がろうそくと線香、食材を持ち寄り、お斎などの料理を作って喪家を金銭・物資ともにサポートしていた名残です。
葬儀は招待制|魚沼市
魚沼市など中越地方の一部地域では玄関に葬儀日程を貼り出して周りに知らせますが、葬儀告別式は招待された人のみが参加します。
招待されなかった人は、出棺の際に玄関先でのお見送りしかできません。
また、招待以外の人が弔問する場合は通夜に訪問しますが、香典等は持たず、ただお焼香をして帰ります。
新潟県では多くの家が付き合いのある寺院を持つ
新潟県は菩提寺または檀那寺を持つ家が多く、特定の寺院を持たない家であっても、親戚から寺院を紹介してもらうことがあります。
他地域と比べると、葬祭業者に寺院を紹介してもらうことが少ないです。
葬儀が終わるとその足でお寺に出向き、お布施を渡して納骨と四十九日法要の打ち合わせをおこないます。葬儀当日中におこなわれることが多いです。
新潟県のさまざまな葬儀の慣習
新潟県内には葬儀での猫にまつわる話が各地にあり、刃物を枕元などに置く慣習も残っています。柏崎市米山に残る、故人に猫の性が移り、四日間も生きているような状態になったとの、ちょっぴりゾッとする話も。
葬儀中におにぎりを食べるという一風変わった習わしが残っている地域もあります。
新潟県に残る、さまざまな葬儀の慣習を紹介します。
故人に代わって葬儀中におにぎりを食べる|佐渡島
佐渡島では葬儀で僧侶が読経をおこなう中、参列者全員でおにぎりと煮しめに御漬物、またはおまんじゅうを食べる習わしがあります。
中には一本箸で赤飯を食べる地域もあり、真言宗では故人が三途の川を渡っている最中に餓鬼に邪魔された時に差し出す食べ物として、故人に代わって参列者全員で食べて後押しするために行う儀式です。
日蓮宗が多い地区では、お釈迦様が説法の場としていた霊鷲山を浄土とする霊山浄土の信仰があり、無事登れるよう故人への力づけの食事を死者に代わっていただきます。この食事は読経中に済ませなければならないため、誰もが大慌てでいただくようです。
即往生である浄土真宗の葬儀でも、この慣習があります。
佐渡のおもな葬儀の流れは、「火葬~通夜~葬儀」です。一般会葬者は通夜に参列、葬儀は親族、またはお斎に招待された人のみが出席します。
佐渡島は真言宗のお寺が圧倒的に多く、次いで曹洞宗、浄土真宗、日蓮宗の順です。
「みちわけ」故人が言い残した言葉を聞く|胎内市
胎内市には、はっけおき、または巫女どんと呼ばれている口寄せ、沖縄県のユタのような女性たちがいます。はっけおきは古くからこの地に在る、民間信仰の一つです。
四十九日の忌明け後に故人が伝えたかった言葉を聞きに、はっけおきの元を訪れます。これが「みちわけ」という儀式です。
また、毎年1月~3月は家族の健康などを視てもらいに訪れることを、「はるばけ」と言います。
火葬後は赤いろうそくに替える
新潟県で時折見られるのが、赤色のろうそくです。
火葬後、祭壇には白色ではなく赤色のろうそくが灯されますが、これは故人が晴れて仏様になったことへのお祝いの証であるといわれています。
臨終と同時に阿弥陀如来の西方浄土へ往生する浄土真宗では、年忌法要の際に赤色のろうそくを用います。本願寺派は三回忌法要から、大谷派は四十九日の忌明けから用いるのが一般的です。
新潟県は浄土真宗、中でも大谷派が圧倒的に多い地域であることと、新潟市が和ろうそくの産地の一つであることも重なり、ろうそくの色替えの慣習が今も続いているのでしょう。
新潟県は全国1位の神社数をほこる
新潟県は神社数が「4,689」と、全国1位をほこります。
※諏訪社・神明社・十二社・八幡社・山神社・白山社・熊野社・日吉社など
新潟県は本州最大の穀倉地帯であり、明治時代までは人口が多い地域でした。そして人が集まるところには五穀豊穣や無病息災を神様に祈るお祭りがあり、集落の中心には氏神様や鎮守様がいました。神社数、特に諏訪社が多いのはそのためです。
原始宗教である古神道は山岳信仰と仏教を習合していき、地域に民間信仰をおこし多くのお祭りを生み出しました。
県内各地に残る防災祈願のサイの神祭り、無病息災などを祈る阿賀町の鍾馗様祭り、関山神社の火祭りなど、現在も多くのお祭りが受け継がれています。
古来より八海山や五頭山などの山々は霊山として、密教系や修験道の修行の場にもあります。そのため江戸時代までは多くの神仏習合の神社仏閣がありましたが、明治時代の廃仏毀釈運動によって他地域同様、多くの仏教寺院が廃寺に追い込まれました。中でも幕府直轄の佐渡島は、当時539山あった寺院が80山まで減少。
しかし、薩摩藩や土佐藩のような仏像の首をはねたりといった激しさはなく、徹底的な破壊を免れたことで半数以上の寺院が再建することができました。
佐渡島は浄土真宗の寺院は少ないものの、門徒数が多い地域です。
門徒たちは自宅にお内仏(仏壇)がなくても、本尊仏である阿弥陀如来の掛け軸または木像を持っているため寺院がなくても毎日、正信偈念仏・ご和讃でのおつとめ(勧行)ができます。
そのため、廃仏毀釈でお寺が無くなってもあまり影響を受けることはありませんでした。
まとめ〜葬儀・法事法要を手厚くおこなう新潟県では、葬儀の仏教離れは感じられない
昨今では、僧侶を呼ばない無宗教葬や儀式を省略した直葬(火葬式)、祭壇や葬具なども宗教色を排除したさまざまな葬儀スタイルが登場しています。
葬儀=仏教の概念も変わろうとする中、新潟県には各宗派の講中が今も多くの町や村に根付いており、地元のお祭りや慣習にもかかわっているため、今なお昔からの慣習を大事にした葬儀が執り行われているのが特徴です。