前火葬と後火葬が混在する熊本県の葬儀|葬儀で赤飯を炊くなど独特の慣習を紹介

前火葬と後火葬が混在する熊本県の葬儀|葬儀で赤飯を炊くなど独特の慣習を紹介

熊本県は九州の中で鹿児島県に次いで浄土真宗(特に本願寺派)の門徒が多い県です。

同じ宗派の門信徒からなる講中や自治社会を構成する隣組内での付き合いが強い地域性から、他地域と比べると葬儀は簡素化されることなく従来通りの形式で営まれる傾向にあります。

天草市などでは神道・カトリック・仏教が混在し、さらには玄関にしめ縄を通年飾るといった独自の民間習俗を持つ地域があり、棺の三回まわしや赤飯を振る舞う慣習も見られます。

天草市、さらに阿蘇市など北部地方では、前火葬(骨葬)による葬儀が多いのも特徴のひとつです。

独特の慣習を持つ、熊本県の葬儀と葬送習俗を紹介します。


熊本県の葬儀の特徴

熊本市周辺は後火葬が主流、そして近年まで土葬がおこなわれていた阿蘇市など北部地域では、通夜または葬儀前の火葬(骨葬)が多くおこなわれています。

香典返しはカタログギフトを用いることが増えており、半額返しが一般的です。地域や喪家との関係性によっては、返礼品(会葬御礼)もって即日香典返しとすることも多々あります。

葬儀に関して相互扶助の精神が今も根強く残っているため、弔問を受けた遺族は、その弔問者の家から葬儀が出た時は必ず駆けつけます。

そのため、県内で7割のシェアを占める地元紙・熊本日日新聞のお悔やみ欄の利用、目を通すことは欠かせません。

熊本県でも葬儀当日に繰上げ初七日法要がおこなわれますが、郊外、農村地区では従来通り七日目に、そして精進上げも四十九日法要後におこなう地域もまだ多くあります。都市型の生活様式が浸透していても、葬送儀礼を重んじる傾向が強いです。

昨今、葬儀の形式は家族葬へとシフトしつつありますが、葬送儀礼を重んじる地域社会、会葬者数が多い熊本県では、一般葬が多いのが現状です。九州の中では一位、そして全国で10位以内に入る葬儀費用総額からも見て取れます。

慣習に関しては、お焼香の際に焼香台などに置かれている賽銭箱やざるなどに100円を入れる焼香銭や、浄土真宗以外では出棺の際に茶碗割りを見ることがあります。

通夜弔問の際は手ぶらはNG|目覚まし料を持参する

通夜に参列する時に香典とは別に、1,000円~3,000円をお目覚まし料として持参するのがマナーです。また、お菓子や焼酎といったお酒を目覚まし料としてお供えすることもあります。

通夜では、故人は生と死の狭間にいるとされているので生者のように扱うのが本来の形式です。故人にとって、親しかった人たちと共に過ごす最後の夜が「通夜」だと考えられています。

そして通夜の弔問者それぞれが供物として持ち寄った、故人の好きな食べ物やお酒が本来の意味での目覚ましであり、「好物だった料理の匂いで目を覚ましてくれればいいのに」との思いが込められた慣習です。

時代の変化と共に、現金を包むことも増えました。

通夜の席でいただける食べ物や飲み物を差し入れる「夜伽見舞い」

通夜の席でみんなでいただける食べ物、お寿司やサンドイッチ、缶詰、フルーツや和菓子、そしてお酒など飲み物を持参する「夜伽見舞い」の慣習もあります。相互扶助が強く残る九州全域ではよくある光景です。

余った夜伽見舞いは弔問客にお裾分けします。

葬儀当日にいただく故人との最後の食事会|お斎

熊本県では、地域によって葬儀当日に故人との最後の会食となるお斎を、親族と会葬者全員でいただく慣習があります。

葬儀前に火葬をおこなう地域では出棺前に朝食として、後火葬の地域では正午前後にいただきます。中には火葬の間にお斎をいただくことも。

近年は、「お斎=精進上げ」とする地域も増えてきました。しかし、熊本県では精進上げは本来通り忌明け後にいただく料理、または葬儀終了後に僧侶やお手伝いの人たちへの遺族からの感謝のおもてなしの会食を指します。

葬儀は地域コミュニティの組がお手伝い

自宅葬を営むと、喪家が属する自治会の組の人たちが現在も総出で葬儀の手伝いをおこなう地域があります。特に阿蘇地方は、自治会や町内会での相互扶助が強い地域です。

夫婦など各家から二人ずつお悔やみに喪家を訪れ、その時に葬儀の打ち合わせをします。しかし、故人がいるところでは悲しみをあらわすような小さな声で話すのがマナー。もしも話が聞き取れず通常のトーンで話す場合は、外に出ます。

男性は受付・会場の設営等、女性は料理と給仕の担当です。

このような地域では「村祭壇」と呼ばれる、共同の葬儀用の祭壇がありましたが、昨今では葬祭業者が介在する自宅葬が増えたため村祭壇はほとんど見られなくなりました。

昔ながらのお斎作り|おひら・おつぼ

組の女性たちによって葬儀会葬者分、中には200食分といった大量のお斎が作られます。昔ながらの精進料理である、まるごと一枚の油揚げを椎茸とこんにゃくで甘辛く炊いたおひら、うずら豆とこんにゃくの上にお麩を乗せ、その上にあん汁をかけた椀物のおつぼ、そして大皿料理が定番です。

しかし生活スタイルの変容によって、お斎はお弁当などを外注することが増えてきました。

お斎での暗黙のルール

●お斎のおかわりは喜ばれるので遠慮なく
お斎は故人にとって知人たちへの最後のおもてなしの会食であるため、おかわりする姿を見ると喜ぶと考えられています。

●食べ終えた自分の膳は運ぶべからず
自分の膳を自身で下げることをタブーとしており、片付けの際は隣の人など他人の膳と交換し、それを運びます。

葬儀は非日常であることを強調する、逆さごとの一つではと考えられています。

鉢盛とお酒で組の人たちをおもてなし|礼餐

阿蘇地方では、火葬中に葬儀を手伝ってくれた組の人々へ「礼餐」と呼ばれるお礼の食事を振る舞います。

肥後地方では「鉢盛り」と呼ばれ、いわゆるオードブル料理とお酒で組の人たちを労います。

これとは別に、葬儀後には僧侶・親族などを交えて精進上げの会食を行うことが多いです。

天草芦北地方の葬送習俗

天草芦北地方の葬送習俗

天草芦北地方 は、葬儀前に火葬がおこなわれることが多いです。

住民の三分の一がカトリック信者で、畳敷きで有名な崎津教会がある崎津は、キリスト教が入る以前までは自然崇拝の原始神道が浸透していました。そのため、漁村地区では神道とキリスト教が入り混じった独特な信仰も生まれ、現在でも神道とキリスト教、仏教が混在しています。

葬送儀礼は仏式とカトリック、そして神道からくる死穢の観念が根底にあります。

通年飾られるしめ縄はキリシタンが始まり|天草北部地域

天草北部地域には、年中しめ縄を飾る珍しい風習があります。

特に崎津・今富・大江では、神道とキリスト教が習合したユニークな信仰スタイル、たとえば、多くの漁村地区で信仰されている恵比寿様をキリスト教の神・デウスの権現、豊漁の神として祀りました。

そして厳しいキリシタン弾圧と禁教令の中、キリシタンの家は隠れ蓑として、そうでない家はキリシタンではない証として玄関にしめ縄を飾っていました。

年中しめ縄を飾るのは三重県の伊勢地方と宮崎県の高千穂地方が有名ですが、伊勢の場合は無病息災、高千穂では結界、神が宿る場所、玄関に飾るのは家の中に神様がいることを意味します。

同じ九州である天草地方でもしめ縄に高千穂と同様の認識を持ち、それを見た誰もが疑わなかったのではないでしょうか。

時代とともにしめ縄飾りからキリシタン弾圧の記憶は薄れ、現在ではその土地の風習として受け継がれていきました。

葬儀に赤飯を炊く慣習

葬儀、法事やお盆の最後に赤飯を振る舞う慣習があります。

明確な理由は不明ですが、一説には葬儀といった物忌みの生活から日常に戻るための区切りとの説が有力です。

出棺の際、縁側から出るのも縁側を境目に生者と死者の場所を区切っており、神社などにもみられる結界をもって空間や場所を区別することと同じだと考えられます。

そしてもう一つの説は、赤飯の色に備わる呪力で死を祓ったのではとの考えです。赤は古来より生命力の象徴であり、邪気を払う呪力を持つと信じられていました。自然信仰と祖先信仰からなる、古神道の死穢の観念が根底にあることは間違いありません。

この慣習は、阿蘇市周辺地域にも見られます。

出棺の際の棺回しの慣習

天草北部地方では、出棺の際に棺回しやお茶碗を割ったり、友引の日に営まれる葬儀で友引人形を納棺したりする慣習が時折見られます。


共同墓地または共同納骨堂を持つ集落が多い

熊本県は近年まで土葬がおこなわれていた地域が多く、そこでは一人ひとりお墓があり、集落内の共同墓地に埋葬されていました。

しかし、火葬率が高まるにつれて焼骨の安置場所の問題が生じ、先祖代々の遺骨と合わせて納められるカロート式のお墓へと変化します。

現在主流であるお墓の形も鹿児島県と同じく、多くの遺骨が納められるように収納部分である台座が大きいのが特徴です。

現在も多くの集落では、共同墓地が継承されています。

火葬の普及に伴って、熊本県では納骨堂ブームがおこりました。共同墓地を持つ集落も、墓地の面積が小さいところでは共同の納骨堂に切り替えた所も数多くあります。

しかし納骨堂に関しては、生活様式の変化から死後も人間関係のしがらみに悩まされたくないと思う住民も出始め、現在では集落内の共同納骨堂に入らない選択をする人も増えました。

まとめ〜通過儀礼を共有する地域文化が熊本県の葬儀風習を継承している

熊本県は、誕生から死までの通過儀礼に関わる昔ながらの地域社会が今も多くあります。

現在の生活様式にそぐわなくなってきている面もありますが、天草地方の通年のしめ縄に見られるその土地の人々が紡いできた歴史、文化風習、そして葬送習俗を守り受け継いできたのは、紛れもないその地域社会だと言えるでしょう。

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