京都のお葬式と言えば、多くの人が出棺の際のお茶碗割りを思い浮かべるのではないでしょうか?
しかし、1200年の歴史と文化を誇る京都でさえ葬儀は自宅葬からホール葬へと移り変わり、代々受け継がれてきた習慣は徐々に消えつつあります。
そんな中、御所を敬愛する京の都人らしい謙遜の心から派生した黄白水引は、京都府のみならず奈良県・大阪府など関西の都市部では今なお弔事用の定番として残っています。
京都府の葬儀の特徴と今も残る習慣、舞鶴市の出立ち膳などを紹介します。
もくじ
京都府の葬儀の特徴となわらし
京都府には、他の地方とは違う独特の特徴やなわらしがあります。
- 都市部では白木を中心とした生花の祭壇が多いが、地方では昔ながらの白木造りの祭壇
- 京都および関西は部分収骨で骨壷が小さい
- 火葬後の収骨・骨上げには左右の長さと材質(木と竹)が違う箸を用いる
- 町内会に葬儀を行うことを伝える
- 指名焼香が行われる事が多い
その他にも他の地域には見られない独特風習があるので、それぞれ紹介します。
京都府のお通夜と葬儀告別式の特徴
通夜では以下の特徴があります。
- 遺族・弔問客共に地味であれば普段着でOK
- 通夜振る舞いは、座って一口だけでも頂くのがマナー
※通夜振る舞いは親族のみの事もあり - 女性は葬儀の手伝いを申し出ると喜ばれます(エプロン持参)
昔ながらの寝ずの番を行うことは殆どなくなりましたが、夜中は電気ろうそくを代用して休みます。
友引に行われる葬儀には友人形(供人形)を持たせる
他地域では火葬場が友引に休みの所がありますが、京都府では関係なく稼働しています。
六曜の友引は良くも悪くもないとの意味ですが、友に引かれる=あの世へ連れて行かれるとの悪い意味で捉えられ、忌み嫌われているのです。
それでも執り行わなければならない場合に、身代わりとなる友人形(供人形)を故人のお供として棺に入れます。
会葬御礼に商品券もある
京都市では、粗供養品(会葬御礼)に商品券やQUOカードを用いる事が多々あります。足を運んでいただいた事への交通費代わりとしての気持ちもあるようです。また、京都の老舗の銘菓が選ばれる事も多く金額は1,000円程で、全国平均よりもやや高め。
京都府内の他地域では、金額は500円~1,000円までで全国平均かつ一般的な品物を用意しましょう。
京都南部で花と言えばシキミ(樒)
京都市内ではシキミよりも生花を用いる事が多くなりましたが、城陽市など京都南部地域では供花といえばシキミであります。三重県伊勢市でもハナといえばシキミを指しました。シキミは別名ハナノキと呼ばれている所以です。
シキミは強い芳香を放つため、古来より消臭のためとしても用いられ、お墓にも多く植えらていました。自宅葬が主流であった時代の名残です。
出棺の際の茶碗割りの意味
故人がこの世に未練を残さないよう、愛用の茶碗を割る茶碗割りの儀式は京都府以外にも見られる習慣ですが、徐々に廃れつつあります。
葬儀社のホール葬の場合は、事前にお願いすると専用の茶碗を用意してくれます。安全のため、紙の袋に入れられた状態で割られる事が多いようです。
香典袋の水引の色が黄白なのは公家文化の影響
水引が黄と白なのは、公家のお上への謙遜心によるものです。
現在の皇室でも用いられている紅水引(くれない)は一見、白と黒に見えますが実は黒では無く玉虫色であり、手で触れると赤くなるのが特徴。
今でこそ我々一般人でも手に入れようと思えば入手できますが、かつて公家や京の都の民衆にとって帝と同じ物を用いることは畏れ多いことでした。
宮中への献上品は紅白の麻紐で結ぶ決まりとなっていた時代、払い下げられたその紐に染色を施したのが公家です。その後、素材は和紙へと代わり武家の間での礼儀作法の一つとして発展していきます。
武家は弔事用に黒白の水引を用いたのに対して、公家はお上への貢物と混同されることを避けて喪を表す色である黄色を用いたといわれています。
お逮夜(たいや)は葬儀後の重要な法要
中陰(初七日~四十九日)中の忌日法要の前夜に行われるのがお逮夜法要で、故人の遺徳を偲んで親族や知人を招いて会食を行います。
百か日法要前のお逮夜は身内のみです。日没法要である逮夜は夜に行われるのが一般的ですが、現代は日中に行われる事もあります。その場合は茶菓子や巻き寿司などの軽食が多いです。
昔は逮夜と翌日の忌日法要の両方を行ないましたが、現在はどちらか一方のみが通例。月命日、祥月命日についても同様です。
ちょっと面倒臭い?京の都ならではの暗黙のルール
一般的に葬儀委員長(世話役)、世話係(受付係・会計係・進行係・調達係・案内係など)を立てます。葬儀委員長が友人知人、町内会の人に世話役を依頼しますが、最近では世話役を立てるのも難しくなり、葬儀社が代わりを務めるようになりました。
それでも他地域と比べれば、京都は町内会や自治会の活動が盛んな地域であります。ご近所づきあいが薄い地域の人には、少々面倒に感じられるかもしれません。
世話役と世話係とは、喪家をサポートする葬式組の名残です。いわゆる町内会の講中の一つであり、火葬炉がなかったときは薪に火をくべたり、土葬の場合は墓穴掘りをも行い、葬儀全般をサポートしていました。
正直、他地域の人にとって面倒と感じられるのが、京都の人は物を受け取るとき三度断ってから受け取るという暗黙のルールがある事です。二度断られたからと言って引き下がらず、もう一声かけてみてもいいまもしれません。
妻が夫の葬儀で火葬場に行くと再婚の意思とみなされた時代も
夫が妻を亡くしても火葬場に行けるのに対し、逆の場合は妻が火葬場に出向く=再婚宣言と捉えられてしまう時代がありました。
現代ではほとんどありませんが、ただ火葬場に行けない風習は今も全国各地に見られます。
また、親よりも先に子供が亡くなる逆縁に対しても同様で、両親は火葬場へは行けません。この逆縁の風習は京都府与謝郡の一部地域に今も残っています。
舞鶴市の出立ち膳と出棺時の習わし
舞鶴市の一部地域では、出立ち膳を出棺前に食べます。
出立ち膳は土葬時代の慣習で全国で見られましたが、現在では限られた地域で受け継がれています。
出立ち膳は野辺送り前の故人と会葬者との最期の会食
野辺送り前に、故人と会葬者との最期の食事となるのが出立ち膳です。
食事といっても他地域では山高く盛られたご飯のみを食べ、舞鶴ではジャコ出汁のすまし汁をいただきます。
いわゆる八杯豆腐とも呼ばれる汁物で、「出汁6:酒1:醤油1」の割合のすまし汁に、賽の目に細かく切った豆腐を入れます。そのため、舞鶴では小さくカットされた豆腐は忌み嫌われているのです。
火葬中の待合時間に仕上げ膳、いわゆる精進落としをいただく地域もあります。
故人を迷わず成仏させるための出棺の儀式
束ねた藁を門の隅で燃し、故人愛用のお茶碗を割ります。そして燻る藁にタライを覆い被せます。故人が戻って来られないように、目印となる煙を隠すためです。
これらは全て、故人が迷わず成仏するようにとの気持ちから行われている儀式です。ただし、浄土真宗ではおこなわれません。
遺族に言わせてはいけない「ぶぶ漬け」
京都の人を語る上で必ず話題に上がるのが「ぶぶ漬け、いかがどす?」。これに対して二つ返事で「いただきます」と言ったならば、「えらい厚かましいお人」と思われてしまうという話はよく聞きます。
言葉の真意を確かめるには二度断りを入れる方法で探ります。それでも引き留められた場合は本心と判断してもよいでしょう。
京都の人の二面性というよりも、正面切って本音を言うことは不躾であるとの都の人ならではの配慮のあらわれです。
通夜や葬儀の際も、遺族から「もう少し・・・」と言われる前に退席しましょう。その前に世話役の人からお開きの言葉がありますが、言われる前に退席するのがスマートです。
ぶぶ漬けはおもしろおかしくした話ですが、京都の人から引き留められた場合、空気が読めていない事を暗に伝えている可能性があると覚えておくといいでしょう。
まとめ 京都の葬儀は今も自治会や町内会の講中が支える習慣が残る
都心部でも町内会といった地域共同体がしっかりと機能し、隣人との付き合いを重んじる地域性から参列者が多いのも特徴です。それが機能している内は京都の文化はもちろんのこと、葬儀の習わしも完全に廃ることはないでしょう。