高知県のお葬式|「おきゃく文化」は葬儀でも?神式が多い葬儀と民間信仰のいざなぎ流

投稿:2021-02-10
高知県のお葬式|「おきゃく文化」は葬儀でも?神式が多い葬儀と民間信仰のいざなぎ流

高知県は、神式の葬儀が多いのが特徴です。

天台宗と真言宗、古神道と仏教が習合した修験道、そして陰陽道の要素を持つ古神道をベースとした民間信仰、いざなぎ流が現在も地域に根ざしていることで、葬儀で様々な慣習を見ることができます。

そして高知県と言えばおきゃく、皿鉢料理とお酒に可杯(べくはい)による宴会の文化。葬儀後の精進落としでも皿鉢が出されることがよくあり、そのままおきゃくが始まることもあります。

葬儀の会葬者数も多く、四国ではもちろん、全国的にも飲食にかける費用が高いのも特徴です。

独特な神仏習合の葬送儀礼と風習を持つ、高知県の葬儀を紹介します。

高知県の一般的な葬儀

家族葬など会葬者数を少なくしたコンパクトな葬儀が増えている中、高知県の葬儀は会葬者が多く、さらに「おきゃく文化」も合わさるため葬儀費用が高いのが特徴です。集まる香典総額も四国の中で最も多く、会葬御礼や香典返しの費用も比例します。

一般弔問者への通夜振る舞いがあり、料理または茶菓子が出されます。精進落としは高知県らしく、おきゃく(宴会)となることも。

ただし都市部や家族葬などでは火葬中にお斎を済ませることがあり、松花堂弁当をふるまうケースもあります。

自宅葬の場合、隣組が手伝う地域では組の人たちが料理、葬式組、またはトーマ組と呼ばれる葬儀担当の人たちが棺かつぎをします。

高知県の葬儀形式を紹介します。

葬儀は神式が多い|高知県東部の農村地区の半数以上が神道

高知県は都市部・郡部にかかわらず、神式の葬儀を執り行う地域が多いです。東部の農村地区や山間部では、地区全体が神道の集落や半数以上が神道という地区も。

西部の一部地域では、地区内で仏教と神道に分かれているところもあります。

土佐藩最後の藩主による徹底した神仏分離と廃仏毀釈

土佐藩藩主の山内家は菩提寺と祖霊を祀る神社を持っていましたが、最後の藩主・山内豊範公が明治4年に菩提寺との仏縁を切り神道に改宗、そして同年の葬祭心得書にて領民にも改宗を促しました。

南学を推奨していた土佐藩内では神仏分離令が出される以前から藩による廃仏毀釈が度々おこっていましたが、薩摩藩同様、明治政府の号令により徹底されたのです。

薩摩藩は、僧侶に還俗もしくは兵士にと、土佐藩は還俗または神職への転身を促しました。山内家の菩提寺であった寺院の僧侶含め、多くの僧侶たちが神職へと転身していきました。

高知県の家の中にも神仏習合が見られる

高知県では、一つ屋根の下に仏壇と神棚、そして弘法大師の掛け軸を祀る家が多くあります。四国八十八か所霊場の第24番~第38番の寺院があり、弘法大師信仰が厚いためです。

葬儀の際は白い紙を神棚に貼りますが、病院で亡くなりそのまま葬祭場または地域の集会場などに運ばれた場合は神棚封じはおこなわれません。

高知県は仏教寺院が極端に少ない

明治時代以前まで、神仏習合の神社仏閣(天台宗・真言宗)を含め615の寺院がありましたが、廃仏毀釈が徹底的におこなわれ、現在ある仏教寺院の数は神社数の二割にも至りません。

439山の寺院が廃寺に追い込まれた中、浄土真宗だけは廃寺が少なく、むしろ廃寺となった寺院の檀家たちがこぞって宗旨替えしたことで存続することができました。

御本尊が阿弥陀如来である浄土真宗も本来であれば廃仏毀釈の対象ですが、門徒は開祖である親鸞聖人に帰依する念仏者の集まりであることから完全に廃寺に追い込むことができませんでした。県内の寺院の多くが浄土真宗である所以でもあります。

規模の大きい寺院は元々檀家数が少なく藩の庇護下に置かれていましたが、藩が廃仏毀釈に舵を切った途端、真っ先に廃寺の憂き目を見ました。廃寺となった寺院の多くが真言宗です。

早期再建のために徳島県、遠くは埼玉県から寺院を招いた宗派もありましたが、隆盛期の数に戻すことは叶いませんでした。

高知県に残る民間習俗による葬儀の慣習

高知県に残る民間習俗による葬儀の慣習

地域によって、魔物から死者を守るために刃物を枕元などに置いて屏風を逆さまにする慣習が残っており、香美市の一部地域では「魔おどし」と呼ばれています。笹を担ぎ、花籠または雪籠で紙吹雪を降らせる葬列が見られることも。

高知県に多くの葬儀の慣習が残っている理由の一つが、神仏習合時代の死穢(しえ)の観念が今も存在するためであり、その死の伝染と穢れを祓うのが神道といざなぎ流です。

民間信仰のいざなぎ流には、故人が無事にあの世にたどり着けたかを確認する、葬儀後七日目におこなうヒアキの儀式があります。

また、葬儀後に家の中の穢れを祓ったり、他には祖霊を家のミコ神(守護神)にする儀式などもあります。

爪はあの世でお金になる?

サンヤ袋(頭陀袋)に故人の爪と髪、そしてお弁当となる枕飯と六文銭(紙)を入れます。

六文銭は三途の川の渡し賃、そして爪はあの世でお金が必要になった時にお金の代わりになるといわれています。

出棺するまでは生者のように接する

挨拶、食事の際の声がけなど、出棺するまでは生者のように故人に話しかけます。

故人に添い寝する夜伽寝の風習も時折見ることができます。

火葬場に向かう時に被り物を身につける|出棺時の慣習

男性はい草の編笠や籠、女性は白い布を頭からかぶり、布端を噛みます。笠が足りない時は男性も白い布をかぶり、男女ともに顔を隠すのがマナーです。

出棺の時に煮豆を納棺する

火葬中に故人が目を覚まさないようにおこなわれる、呪術的な慣習です。煮た豆からは芽が出ないことから、「目が開かないように」という想いが込められています。

棺の周りを3回まわる慣習

西部地方では、故人の霊がその場に残らないように出棺前に茶碗割りの儀式をおこない、そして無言で棺の周りを三回まわって出棺します。その際、決して振り返ってはいけません。

棺にかけた羽織または上着を3回ふる

かつては羽織、現在では故人が愛用した上着を上下逆さまにして棺にかける慣習があります。出棺の際に血縁関係のない近所の人が諸願成就と言いながらその上着を3回振り、その夜、上着を北側に干します。

太夫さん|香美市物部に伝わるいざなぎ流とは?

いざなぎ流の太夫さんとは、八百万の神や精霊、祖霊・悪霊などあらゆる霊を御幣に降ろして託宣、祈祷または祓う儀式をおこなう人です。

いざなぎ流は冠婚葬祭も含め、日々の生活に今なお密着しています。

祭文を唱えながら舞う舞雅楽、いざなぎ流祈祷は国の重要無形民俗文化財に指定されており、地元の学校では、伝統芸能として子供たちにも教えられているものです。

日本各地には太夫さんのような存在が多くいましたが、今でも信仰としての体系をしっかりと残すのはいざなぎ流だけ。陰陽道の要素をも持つ古い民間信仰であり、平家の落人伝説がある香美市の旧物部村にあり、その起源は中世と目されています。

一説では平安時代の陰陽師・安倍晴明を祖とする一族である、土御門家から免許皆伝を受けた人が陰陽道の要素をいざなぎ流に取り込んだのではとのいわれもあります。

※ここでいう陰陽道とは、古神道に修験道と道教の呪術が習合した日本独自の呪術・学問体系のこと。古代日本においては国家機関の一つとして天文・暦作成などに携わっており、隆盛を極めたのが平安時代の「安倍晴明」です。

いざなぎは伊邪那岐命ではなく、占いの才能を持つ少女、天中姫宮が祈祷法を学ぶために弟子入りした天竺の師匠の名前です。

いざなぎ流には神社や経典など組織されたものは一切なく、太夫さんたちによって口頭伝承されています。呪詛も扱うため文字で残す事が許されません。

太夫さんは他宗教のように本職ではなく、通常は地元で農業や商売、または会社員です。

太夫になるには一人の太夫に弟子入りして、最低10年間学ばなければなりません。また、師匠以外の人から教えを請うことは禁止されています。

本来は物部の人しかなれませんでしたが、昨今では他地域からも弟子を受け入れています。

いざなぎ流の主な特徴

  • 200種類以上ある御幣
  • 御幣を依り代にして神様や自然に宿る精霊、さまざまな霊を降ろして祭祀や呪詛をおこなう
  • 偶像崇拝がない
  • 雅楽を伴う祭儀がある
  • 大祭では12種類のお面を用いた祭儀がある
  • 祭文には神様のみならず、仏様、弘法大師、聖徳太子、いざなぎ流の起源が語られている

一目でいざなぎ流と神道との違いがわかるのが、御幣です。

まるで3Dの切り絵のようないざなぎ流の御幣は、神様や精霊などの姿を1枚の和紙を切り抜き象ったもの。

太夫になるには、その独特かつ美しい造形美を持つ御幣作りを覚えることから始まります。

まとめ 高知県には仏教宗派、民間信仰から派生した葬儀の慣習が多く残っている

神仏習合の地であった高知県では古より死穢の観念が強く、そのため葬儀の際は死の穢れを祓う儀式がおこなわれてきました。

たとえば、死者を魔物から守るための呪術的な葬具は密教系仏教、そして葬儀後の穢れを祓う後祓いの儀式は神道と修験道、そして民間信仰のいざなぎ流。

生活様式の変容にともなって葬送習俗も消滅傾向ですが、穢れの観念が他地域よりも強い高知県だからこそ、今も多くの地域の葬儀には昔ながらの慣習が残っています。

古来よりお米から作られる日本酒は穢れを祓うお清めでもあります。

1人あたりのお酒の年間消費量全国2位の裏側には、高知県人の穢れの観念がほんのり影響しているのかもしれません。

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著者:葬儀のデスク編集部
葬儀のデスク編集部
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