静岡県、中でも静岡市では即日香典返しをおこなうため、会葬者の目の前で中身の確認をします。同じく即日香典返しが多い磐田市などでは目の前で開封ではなく、受付を分けることで会葬者に合わせた返礼品を渡しています。
また、静岡県には冠婚葬祭費の負担軽減のために導入された、生活改善運動を推進する市がいくつかあり、香典返しがおこなわれない地域もあるのが特徴です。
前火葬と後火葬の二通りの葬送儀礼が存在する、静岡県の葬儀の特徴を紹介します。
もくじ
静岡県の葬儀と慣習
静岡県は後火葬が主流ですが、掛川市など一部地域では前火葬(骨葬)による葬儀がおこなわれています。
浜松市の仏式の葬儀では、繰上げ法要は初七日ではなく三日目、または開蓮忌と呼ばれる法要がおこなわれるのが一般的です。
浜松市で葬儀に招かれた場合、別途三日目法要分の香典を用意しておきます。金額は1,000円~3,000円が相場です。
香典返しは、伊豆市や伊東市などの東部地方は忌明け後の後返しが主流ですが、それ以外では当日返しが多いです。
静岡県は全国の中でも、一度に集まる香典金額が高く、香典返しを積極的に行っています。しかし、御殿場市など生活改善運動をおこなっている地域では高額香典でない限り、香典返しはありません。
東部方面では、別れの花と棺の蓋の釘打ちの儀式を、火葬場でおこなう地域があります。
静岡県のほとんどの市町では、住民の火葬場の使用料金が無料です。
●火葬場料金無料の市町
三島市・函南町・富士市・長泉町・熱海市・沼津市・焼津市・藤枝市・島田市・菊川市・掛川市・袋井市・牧之原市・吉田町・川根本町・磐田市・浜松市・御前崎市
静岡市の香典額の即確認と浜松市などの香典箱
静岡市などの中部地区では香典の即日返しが主流であり、葬儀の受付で香典を開封して中身を確認することが多く、他地域から訪れた人が驚いたとの話をよく聞きます。
調理などが余らないよう、祓い膳に出席する人にはあらかじめお席券を渡すことも多いです。
浜松市などの西部地区では香典は即日返しが多く、葬儀会場には親族・一般・招客それぞれの受付があります。そして用意された香典箱に参列者自ら入れることで、お席券(食事券)や引出物の引換券が渡される仕組みです。
静岡県は通夜振る舞いではなく通夜祓い
一般的に通夜振る舞いと呼ばれる食事を、静岡県では「通夜祓い」と呼んでいます。遺族から通夜振る舞いへお声掛けをいただいた場合、一口だけでも頂くのがマナーです。
静岡市などでは基本的に通夜祓いはありませんが、昨今では喪家がふるまうこともあります。しかし、昔からの意識が抜けないためか、断る方が多いようです。
葬儀での食事は「祓い膳」、または「キチュウ(忌中祓い)」とも呼びます。
伊豆半島含む、裾野市・富士宮市などの東部地区ではお寿司などの大皿料理にお酒とおつまみの通夜祓いが出されますが、いただかずに帰る弔問客にはお菓子またはビールと通夜御礼のお茶を渡します。
静岡県東部に残る葬儀後の縁切り餅の慣習
静岡県の東部では、葬儀後に会葬者が帰る際に細かく切ったお餅、縁切り餅を配って食べてもらう慣習があります。土葬の頃の慣習で、埋葬後にその場で餅を引き千切って食べる、故人との食い別れの儀式です。
静岡県東部と接する、山梨県南部町でも同じ慣習があります。
静岡県内の葬儀事情
静岡市は平成の市町村合併で大きくなったことで、現在でも地域によって葬儀の形式が異なります。
県庁がある、市の中心部では地域の結びつきが薄く、家族葬などコンパクトな葬儀が主流ですが、旧清水市の海側では町の中の組の活動が盛んに行われている地域があるため、葬儀の参列者が多いのが特徴です。
県西部の浜松市は中部圏では名古屋市に次いで、そして静岡県でもっとも大きな都市であり、大手企業の工場を擁するものづくり産業と農林水産業を持つ地域です。
他地域同様に簡素化された葬儀が多くなってはいるものの、多くの参列者に対応できるように、規模の大きな葬儀をあげる傾向があります。
そして海側と山側の地域では、形骸化したとはいえ土葬の頃の慣習が今も受け継がれており、それら地域では地縁で結ばれた組の人々による葬儀の手伝いが今もおこなわれています。参列者も多く、一般的な葬儀が主流です。
下田市など海側の地域では前火葬(骨葬)が多い
下記地域では、前火葬を行うことがあります。
●前火葬の地域
下田市・島田市・掛川市・牧之原市・榛原郡御前崎市
通夜の翌日に出棺、火葬と葬儀告別式を同日におこなのが特徴です。
最近では、繰上げ法要も合わせて営まれます。
前火葬がおこなわれている地域では火葬と葬儀告別式の間に、本通夜または逮夜が営まれることが多いですが、静岡県にはありません。
火葬中に斎場で昼食として軽食が出されますが、この時に出されたものを持ち帰ることを禁忌としています。
これは死穢(しえ)の観念、古代、死は伝染すると恐れられ、死者と接した者はそれを他者に移さないように必ず自身を清めなければならないとされていました。死者と接する葬儀に出席した人が塩で清めるのもそのためです。
同じ理由で、斎場の食べ物を持ち出してはならないとされています。
斎場待機中の食事を忌中祓い(精進上げ)とする場合は、豪華な仕出し弁当やおまんじゅうが出されます。
今でも葬式組などが残る地域社会が多くある
静岡県内の町には、地域の人たちによる相互扶助関係が強い隣組や班が多いです。
浜松市では、昔からの地域コミュニティの自治活動と相互扶助が盛んで、葬儀の際は隣組や班の人が総出で喪家をサポートします。現在も通夜と葬儀の祓い膳を、組の人たちが作る地域もあります。
裾野市では、土葬時代に墓穴を掘る担当であった葬式組の中のロクシャクと呼ばれる係が、地域に交代制で残っていますが、現在は葬儀の際の棺の担ぎ手としての手伝いのみとなりました。
御殿場市などの生活改善運動推進
御殿場市では北関東の新生活運動のような、冠婚葬祭での負担をなくすための生活改善運動推進が続けられています。
香典金額への言及はありませんが、香典返しに対しては廃止を訴えており、生活改善運動が浸透している地域では、基本的に香典返しが行われません。
●廃止の呼びかけがされているもの
- 香典返し
- 手伝いへの謝礼金
- 会葬御令状に長寿銭として5円玉を貼る
- 通夜、葬儀告別式に参列した人に渡す飲み物の詰め合わせ
かつてこの地域には、葬儀を出した家に地元の念仏講が集まって念仏を唱える慣習がありました。49日の忌明けまでの七日ごとの追善供養をおこなうものであり、喪家はその都度、お礼として引き出物と料理でもてなしていました。
裾野市でもおこなわれていましたが、余りにも金銭的な負担が大きいことから各地域で廃止にされた慣習です。
裾野市は生活改善運動を強く促進した過去を持ち、それが根付いた地域では、組内の香典は生活改善運動に沿った2,000円が一般的となっています。
豊かな風土が生んだ独特な葬送習俗がたくさんあった
静岡県は目の前を海、背後に山を持つ自然豊かな地域であり、25年ほど前まではその地域色豊かな葬送習俗が多く残っていました。
中でも、埋葬後に河原でおこなわれるお清めの儀式「浜降り」は特徴的です。まず、事前に弔い組(葬式組)の人が、河原で積み上げた石の上に戒名を書いた紙を貼った野位牌を置きます。
そして一同は墓地から喪家に戻る前に河原に立ち寄り、枕団子や線香などをお供えして拝んだ後、豆腐などを食べながらお酒を飲んで清めます。それが済むと会葬者たちは位牌に石を投げて川に落とし、野位牌をそのまま川に流します。地域によっては三十五日目の法要(五七日)の時に、遺族がおこなうケースも。
この浜降しをもって葬儀は終了となります。
また、出棺の際の棺の三回まわしに立ち酒と豆腐によるお清めの儀式などもありました。
葬列の際の花籠にはお菓子と小銭が入っており、花籠を揺らしては撒き銭をおこないます。
現在では、長寿銭として会葬御礼品などに入れられていることがありますが、この慣習も静岡県から消えつつあります。
まとめ〜静岡県の葬儀は簡素化されているものの隣組による相互扶助は今も健在
静岡県に残る葬儀の慣習は形骸化し、生活改善運動で簡素化されて地元の人々による念仏講などのお弔いの慣習も少なくなりました。
それでも静岡県には相互扶助が強い地域が多く、隣組による葬儀の手伝い、葬祭業者が介在しない、地域による昔ながらの葬儀運営がおこなわれています。