最近の大阪府の葬儀は、香典辞退や紙樒など、遺族や参列者の負担を軽減する葬儀形式へと変化しています。
先人たちが受け継いできた葬儀儀礼を、たった数十年で変えてしまう実行力は大阪人のダイナミズムならではと言えるのではないでしょうか。
しかし、葬儀の本質である故人のお弔い、追善供養はきっちりとおこない、故人の幸せを願う気持ちは忘れていません。
香典辞退が主流となりつつある、大阪府の葬儀の特徴と地域に残る葬儀習俗を解説します。
もくじ
大阪府の一般的な葬儀を解説
大阪府では、通夜振る舞い・精進上げともに、主に親族とごく近親者のみに振る舞われます。大皿料理よりも一人ずつ個別にて出されることが多いです。
出席は、通夜・葬儀のどちらかという決まりはありませんが、傾向としては通夜に弔問に訪れる人が多く、通夜に出られない場合は葬儀に参列します。
祭壇は昔ながらの白木祭壇よりも、生花祭壇の方が好まれています。
大阪市では火葬の間に精進上げを済ませ、遺骨とともに再び葬儀会場に戻り繰上げ初七日法要を行うのが一般的な流れです。
ここ20年ほどで、大阪府内では古い慣習に捕らわれず遺族も参列者にも負担の無い葬儀の形が出来つつあります。その中の一つが香典辞退。
大阪府の特徴的な葬儀形式を解説します。
大阪府の香典事情
大阪府は関西の2府4県の中で、最も返礼品費用が低い地域で京都府・滋賀県の半分ほどです。
しかし、香典返しをしていない訳ではありません。実は、香典そのものを受け取らない風潮があるのです。
香典をいただいた際はもちろん香典返しを送ります。香典返しは京都府よりも商品券・ギフト券が多く、1万円の香典に対応できるよう3,000円分を用意するケースが多いです。
昨今では即日返しが増えているため、1万円以上の香典の場合は忌明け後に満中陰志として改めてお返しします。満中陰志でもギフト券や商品券が多く、中には商品券とカタログギフト、商品券とお菓子などの品物など、金額に応じて組み合わせて送ることも。
香典返しは全国相場である、1/3~半額返しです。
実は香典辞退が多い大阪府
大阪府全域、特に大阪市や堺市などの都市部において香典辞退が主流となりつつあります。ただし、従来の葬儀儀礼を重んじる地区では通例通り香典を包みます。また、香典辞退と言っても、親族からの香典は受け取ることもあります。
和泉市や岸和田市なども町をあげて香典廃止の方向へ取り組んでいますが、中には町内会など家が属する地域コミュニティから団体として香典が渡される事もあります。
その場合は、その団体に寄付金として香典返しを行うのが一般的です。町内会の活動が活発な地区に在住の場合、町内会の掲示板でうかがう事が出来ます。
香典辞退が主流の地域でも「紙樒」の慣習があれば、紙樒が香典代わりと言えるでしょう。
香典辞退の場合でも、通夜・葬儀出席者へは会葬御礼が渡されます。お茶またはスティックシュガー、洗剤などにお清めの塩の2点と会葬御礼状、これら昔からの定番セットが多いです。
合理的な香典の即日返し
即日返しを行なっている場合、葬儀会場の受付で香典を渡すと額面に応じた半券が渡される所があり、香典金額に応じた返礼品が渡されます。
例えば、3,000円・5,000円・10,000円の香典に対する返礼品を3種類あらかじめ用意しておき、いただいた香典の金額に応じたものを渡す、などです。
香典金額が3万円を超えると、満中陰(四十九日)後に満中陰志として香典返しを送ります。
香典の水引の色は黄色?黒?
一般的に、関西では葬儀の時は黄白水引の不祝儀袋が一般的とされています。京都では今も葬儀の際は黄白水引を用いますが、大阪府は一部地域だけです。
他地域からの人の往来が多い事から黒白水引の方が主流で、葬儀~中陰まで用います。
ただし、四十九日法要での香典には黄白水引がふさわしいです。
大阪府にある葬儀習俗を解説
遺族、会葬者双方が負担となる慣習を見直して、葬儀の簡素化が進む大阪府ですが、昔ながらの葬儀習俗を残す地域もあります。
大阪の葬儀で必ず聞く止め焼香
大阪には葬儀での焼香の順番が揉めないように、あらかじめ順番を決めておく慣習があります。葬儀後に焼香の順番で苦情が入らないように、遺族もしくは故人と近しい人が最後に焼香をするのが止め焼香です。
自宅葬・ホール葬関係なく、喪家が属する自治会の会長もしくはその中の葬儀委員長がおこなう事もあります。
止め焼香には気を遣う相手によって3通りあります。
- 親族を気遣う場合:親族代表が止め焼香、そして一般弔問者へと焼香が続く。
- 一般弔問者を気遣う場合:止め焼香は親族代表。
- 指名焼香の場合:止め焼香を故人の会社の代表や関係会社の人に依頼。
東大阪地方に見られる紙樒(かみしきみ)
大阪の地域ではシキミを花輪のようにして供花としておくる風習があります。門樒(かどしきみ)と言い、本来、故人の魂が穢されないように邪気を祓うために葬儀の入り口に立てかけられます。
大阪や京都では、スタンド花などの供花のように門樒を送るのが一般的でしたが、シキミの強い芳香と場所をとってしまう事から嫌厭され、現在では大阪府内でも見られる事が少なくなりました。京都府では門樒から、樒とは名ばかりの板樒にとってかわっています。
大阪府の場合、特に東大阪地方では各自治体が門樒に代わって推奨しているのがこの紙樒です。受け付けには紙樒専用の受付があり、紙樒代を支払うと名前などを書いた紙を会場入り口付近に貼り出されます。
金額は一律金額が受付で設定されており、2,000円または多くて3,000円程度です。
香典辞退の葬儀であっても紙樒の慣習がある地域では、実質的に香典返しがいらない香典と言っても良いでしょう。金額が一律なのがメリットです。
紙樒は供花と同じく、強制ではありません。
大阪府の地域別の葬儀習俗
友引の日に、いちま人形を棺に納める慣習があります。現在では地域というよりも、友引を気にする家でおこなわれています。
大阪では、「いちま人形」とは「市松人形」のことを指します。
豊中市の追い出し火
豊中市などでは、追い出し火と呼ばれる出棺の際の慣習があります。
まずは故人の茶碗を割り、門の角で一把藁に火をつけたらすぐに筵(むしろ)で覆って火を消します。遺族に死の穢れが及ばないように浄化する儀式です。
茶碗を割るのは、現在では故人の執着を断つためといわれていますが、昔は窪んだところや中空や空洞になっている所に魂が留まりやすいと考えられいたため、故人の旅立ちに障害となる物(茶碗)を壊していたのです。
出棺前のお茶碗割りには、古の人の死者への思い遣りの証とも言えるでしょう。
大阪市天王寺区の人は亡くなったらまずは善光寺参り
大阪市天王寺区では、人は死んだら冥土の旅に出る前に善光寺参りにゆくと信じられていました。
江戸時代の善光寺参りブームもありますが、天王寺地区ならではの理由があります。町の名前にもなっている、聖徳太子建立の寺院である四天王寺は聖徳太子にちなんで和宗と銘打ってはいますが、どの宗派にも属さない独立した仏教寺院です。
同じく飛鳥時代に建立されたといわれている、長野県の善光寺も無宗派です。何故ならば、仏教の宗派ができたのは鎌倉時代であり、四天王寺・善光寺ともに建立当時の仏教はまだ渡来したばかりで、まだ日本に根付いていませんでした。
かつて善光寺も聖徳太子が関わったと信じられていたこともあり、四天王寺地域に住む人々にとって、遠く離れた長野県の善光寺にとても親しみを覚えていたのかもしれません。
また、このあたりでは友引と寅の日が忌み日とされています。虎は千里往って千里還る、その言葉の通り故人の魂がすぐに戻ってきてしまうことを恐れてのことです。
出棺の際は後ろ向きで出ます。男性は四十九日、女性は三十五日、満中陰が男女で異なる地域もあります。
箕面市や堺市など重ね餠(傘餠)を四十九日に供える
四十九日に重ね餠(傘餠)とよばれる、一個が小さいお餅を49個作って重ね上げ、その上に丸く薄く伸ばしたお餅をかぶせます。
主に密教系と禅系の宗派に見られる供物で、満中陰後に食べます。
まとめ〜大阪府の葬儀は徐々に合理化している
大阪府の葬儀は徐々に合理的な方法へと変化してきています。
しかし、葬儀の形式が変わろうとも。大阪府では受け継がれてきた習俗が消えてしまう事はなく、新しい葬儀の形の中で茶碗割りなどは残り、そして時代に即した紙樒という新しい慣習が作られました。
タブーとされてきた葬儀に対して改革を起こす大阪府は、葬儀のロールモデルとなるかもしれません。